監修=松居英二(弁護士)/イラスト=どいまき

初心者マークを付けた車の前に割り込んだら、違反?

あなたの行動、ひょっとしたら違反かも

今回は、初心運転者標識(初心者マーク)を付けた車の前に割り込むことが、違反にあたるかどうかのクイズをお届け。運転歴が長くなると、違反かどうかを気にしないまま運転してしまいがち。どこが違反にあたる運転行為なのかをクイズで再確認しましょう。

片側2車線の市街地で、右の車線を走行中、前方で右折待ちをしている車がいることに気が付きました。左隣の車線には初心者マークを付けた車がいましたが、加速して3秒間ウインカーをつけた後、少し近いけれど自分だったら急ブレーキは踏まない程度の車間距離があると考えて、その車の前に進路変更したところ、初心者マークを付けた車に急ブレーキを踏ませてしまいました。
この運転行為は、以下の選択肢のうち、どれに該当するでしょうか?

答え:2. 危険を回避するためでもなく、初心者マークを付けた車に急ブレーキを踏ませる進路変更をしたので違反

免許取得から1年未満のドライバー(初心運転者)が自動車を運転する場合に表示が義務付けられているのが初心運転者標識(初心者マーク)です(道交法第71条の5第1項、2項)。免許取得から日が浅く、運転に慣れていない者が運転する自動車であることを周囲の運転者にわかるように表示させることで、周囲の自動車に注意と配慮を促すためのものです。

道交法では、初心運転者が初心者マークを表示した自動車を運転する場合には、周囲の自動車に対して、危険防止のためにやむを得ない場合を除いて、初心者マークを付けた自動車に対する幅寄せや急ハンドル・急ブレーキをさせるような進路変更(割り込み)をすることを禁止しています(道交法第71条第5号の4)。

今回のケースでは、「自分だったら急ブレーキは踏まない」という見込みで進路変更をした結果、初心者にとっては急ブレーキを踏むような車間距離で割り込んでしまっています。運転者としては、自車を減速させて初心者マークを付けた車の後ろに進路変更することもできますから、危険防止のためやむを得ない場合にも該当しないでしょう。

従って答えは2の「危険を回避するためでもなく、初心者マークを付けた車に急ブレーキを踏ませるような進路変更をしたので違反」です。

なお、自車が進路変更をする結果、変更後の進路を走行する車両に急ハンドル・急ブレーキをさせる場合には、進路変更後の進路を走行している自動車が初心者マークを表示していなくても進路変更は禁止されます(道交法第26条の2第2項)。

運転初心者は前に車が割り込んで来るだけでも驚くことがあり、思わぬ事故につながることもあります。自分だったら驚かないだけの車間距離があると思ったときも、初心者でも驚かないかを考えて、進路変更するようにしましょう。

身体障害者標識

身体障害者標識(身体障害者マーク 資料=内閣府

聴覚障害者標識

聴覚障害者標識(聴覚障害者マーク 資料=内閣府

初心者マークのほかにも、それが保護・配慮が必要な運転者が運転する自動車であることを示すために表示が義務付けられ、あるいは努力義務とされている標識(マーク)として、高齢運転者が運転することを示す高齢運転者マーク(道交法第71条の5第3項、4項)、聴覚障害があることを理由に免許に条件が記されている人が運転することを示す聴覚障害者マーク(道交法第71条の6第1項、2項)、肢体不自由であることを理由に免許に条件が記されている人が運転することを示す身体障害者マーク(同条第3項)があり、これらの標示(マーク)を表示した車に対しても、初心者マークの表示された自動車と同様の義務が定められています(道交法71条第5号の4)。


道路交通法
(運転者の遵守事項)
第71条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
(中略)
五の四 自動車を運転する場合において、第71条の5第1項から第4項まで若しくは第71条の6第1項から第3項までに規定する者又は第84条第2項に規定する仮運転免許を受けた者が表示自動車(第71条の5第1項、第71条の6第1項若しくは第87条第3項に規定する標識を付けた準中型自動車又は第71条の5第2項から第4項まで、第71条の6第2項若しくは第3項若しくは第87条第3項に規定する標識を付けた普通自動車をいう。以下この号において同じ。)を運転しているときは、危険防止のためやむを得ない場合を除き、進行している当該表示自動車の側方に幅寄せをし、又は当該自動車が進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる表示自動車が当該自動車との間に第26条に規定する必要な距離を保つことができないこととなるときは進路を変更しないこと。

(初心運転者標識等の表示義務)
第71条の5 第84条第3項の準中型自動車免許を受けた者で、当該準中型自動車免許を受けていた期間(当該免許の効力が停止されていた期間を除く。)が通算して一年に達しないもの(当該免許を受けた日前六月以内に準中型自動車免許を受けていたことがある者その他の者で政令で定めるもの及び同項の普通自動車免許を現に受けており、かつ、現に受けている準中型自動車免許を受けた日前に当該普通自動車免許を受けていた期間(当該免許の効力が停止されていた期間を除く。)が通算して二年以上である者を除く。)は、内閣府令で定めるところにより準中型自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで準中型自動車を運転してはならない。

2 第84条第3項の準中型自動車免許又は普通自動車免許を受けた者で、当該準中型自動車免許又は普通自動車免許を受けていた期間(当該免許の効力が停止されていた期間を除く。)が通算して一年に達しないもの(当該免許を受けた日前六月以内に準中型自動車免許又は普通自動車免許を受けていたことがある者、現に受けている準中型自動車免許又は普通自動車免許を受けた日以後に当該免許に係る上位免許(第85条第2項の規定により一の種類の運転免許について同条第1項の表の区分に従い運転することができる自動車等(以下「免許自動車等」という。)を運転することができる他の種類の運転免許(第84条第2項の仮運転免許を除く。)をいう。第100条の2第1項第1号及び第3号において同じ。)を受けた者その他の者で政令で定めるものを除く。)は、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで普通自動車を運転してはならない。

3 第85条第1項若しくは第2項又は第86条第1項若しくは第2項の規定により普通自動車を運転することができる免許(以下「普通自動車対応免許」という。)を受けた者で七十五歳以上のものは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで普通自動車を運転してはならない。

4 普通自動車対応免許を受けた者で七十歳以上七十五歳未満のものは、加齢に伴つて生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けて普通自動車を運転するように努めなければならない。
(罰則 略)

第71条の6 第85条第1項若しくは第2項又は第86条第1項若しくは第2項の規定により準中型自動車を運転することができる免許を受けた者で政令で定める程度の聴覚障害のあることを理由に当該免許に条件を付されているものは、内閣府令で定めるところにより準中型自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで準中型自動車を運転してはならない。

2 普通自動車対応免許を受けた者で政令で定める程度の聴覚障害のあることを理由に当該普通自動車対応免許に条件を付されているものは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けないで普通自動車を運転してはならない。

3 普通自動車対応免許を受けた者で肢体不自由であることを理由に当該普通自動車対応免許に条件を付されているものは、当該肢体不自由が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときは、内閣府令で定めるところにより普通自動車の前面及び後面に内閣府令で定める様式の標識を付けて普通自動車を運転するように努めなければならない。
(罰則 略)

(進路の変更の禁止)
第26条の2 車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。
(以下略)

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松居英二

まつい・えいじ 弁護士。(公財)日弁連交通事故相談センターの委員・相談員として交通事故に関する法律相談、損害賠償額算定基準の作成などに参加。「JAF Mate」誌では2004年から2017年まで「クルマ生活Q&A」の法律相談を担当。

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