胃薬でも眠気が? 市販薬でも要注意!…薬の服用と運転
“飲んだら乗るな”は薬でも!? 知っておきたい副作用と運転リスク
日常生活の中で、「運転の有無」について質問される場面があります。まず思い当たるのは居酒屋などアルコール類を提供している「飲食店」。言うまでもなくお酒に酔った状態での運転は大事故に直結します。ドライバー本人に厳しい罰則が科せられるだけではなく、飲酒を知りながら同乗した者や酒類を提供した側にも責任があるなど、道路交通法で明確に禁止されている行為です。
“飲んだら乗るな、乗るなら飲むな”は、もはや常識となっていますが、意外に見落とされがちなのが「医療機関」、つまり「薬の服用」です。診察の際に医師から運転について確認されたり、薬剤師から眠気など処方薬の副作用について説明されることがあります。
アルコールの場合と違い、服薬後の運転が即違反となるわけではありませんが、道路交通法では「過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」(第66条)とあり、服薬しても運転に影響しないよう、ドライバーは体調管理を義務付けられています。
薬の副作用による集中力の低下、眠気なども大きな事故につながる可能性があるわけですが、一体どんな点に注意すればいいのでしょうか。薬と運動機能の関係について詳しい早稲田大学スポーツ科学学術院の西多昌規教授に、服薬と運転に関する注意点について、お話を伺いました。
◯◯に作用するものは要注意! 運転に影響しそうな薬とは?
早稲田大学 スポーツ科学学術院 西多昌規教授
――ズバリ、運転時はどんな薬に注意が必要ですか?
睡眠薬や抗うつ薬、抗不安薬、抗てんかん薬、最近では発達障害への薬剤など、脳に作用する向精神薬については、非常に注意が必要です。脳に働くわけですから、判断力や思考力の低下とか、ぼーっとして注意力が散漫になる、なかにはちょっと気が大きくなるかもしれないという薬もあります。こうした薬は添付文書で注意事項を確認する必要があります。なかには運転禁止とはっきり書いてあるものもありますよ。
――高血圧の人が飲む降圧薬なども運転に影響しますか?
成人の約5人に1人が降圧薬を服用しています。薬が効きすぎると立ちくらみや眠気が出ることがあるため、運転には注意が必要です。
――鎮静作用のある薬で運動機能そのものが低下することはありますか?
運動機能というよりも注意力やとっさの判断力ですよね。反応能力や反応速度が低下するということは十分ありえることです。
――特に注意しないといけない薬は?
過眠症の治療に使う薬では、眠気を覚ます中枢刺激薬でも、添付文書には「注意力低下に注意」や「運転禁止」といった警告があります。日本は諸外国に比べると、運転に関してはかなり注意を払っていますので、多くの薬では「運転に注意」「運転を避けること」といった記載があり、服薬指導でも強調されています。
あと運転に関していうと、パーキンソン病の治療薬の一部に「突発性睡眠」といって、だんだん眠気がくるのではなく、突然眠くなって寝てしまう、そういう副作用を引き起こすものがあります。この突発性睡眠を引き起こす薬を処方する際は、患者さんに必ず説明しないといけないことになっています。
――その「突発性睡眠」を引き起こす薬はどういったものですか?
パーキンソン病、ないしはむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)という睡眠障害の治療に使うロチゴチンなどの「ドパミン作動薬」です。この薬を投与中は自動車の運転、機械の操作、高所作業など危険を伴う作業には従事しないよう強く警告されています。生活や仕事にクルマが必要で、必ず運転するという患者さんには怖くて処方できない薬です。
【予告】西多昌規教授が伝授する「運転中の眠気対策」は9月11日公開予定です。
気軽に買える市販薬、胃薬で眠くなることも⁉
――市販薬でも運転に支障をきたす可能性のある薬はありますか?
花粉症の薬、いわゆる抗ヒスタミン薬ですね。初期に発売された第1世代の抗ヒスタミン薬は、強い眠気やだるさを伴います。眠気が少ないとされている新しい第2世代でも、人によって眠気は生じますし、製剤によっては注意喚起があります。OTC睡眠改善薬も注意力の低下を生じやすいので、服用後は乗り物・機械の運転操作は禁止です。処方薬と違って、市販薬の場合は使用者本人が注意書きを読むことになっていますので、「薬剤師が教えてくれなかった」というのは言い訳になりません。
――気軽に買える市販薬だと飲み合わせも問題になるかと思います。たとえば睡眠改善薬と花粉症の薬を併用するとどうなりますか?
処方薬であれば、お薬手帳もあるので医師と薬剤師とで院外処方についても二重チェックができますが、市販薬の併用となると本人が注意するしかありません。睡眠改善薬と花粉症の薬との併用は禁止されていることが、「使用上の注意」にも記載されています。ちなみに睡眠改善薬も抗ヒスタミン薬も、ジフェンヒドラミンという眠気を誘う成分が重なるので、効果が強く出てしまうのです。
――胃薬や酔い止めの薬も注意したほうがいいですか?
基本的に薬というのは、個人によってどういう副作用が起こるかわかりません。ほぼ起きないと言われている副作用でも運悪く起こる場合があります。
市販薬のファモチジン(商品名:ガスター)では、極めてまれですが眠気やめまいが報告されています。眠気を催すメカニズムははっきりわかっていませんが、脳内に入って覚醒にとって重要なヒスタミンをブロックしてしまうためではないかと考えられています。断っておきますが、日常的に眠気が出る薬ではありません。
ただヒスタミンなどの脳内伝達物質は個人差が結構大きいので、花粉症の薬でも全然眠くならない人もいれば、非常に眠くなる人がいるなど本当にさまざまです。
――解熱剤や鎮痛剤として用いられる座薬は影響が出そうですか?
熱を下げる座薬もありますが、発熱している方が運転するというのはちょっと考えにくいので、鎮痛目的の座薬ということになるかと思います。座薬は吸収が早いため、まれに血圧低下が起こることが報告されています。運転直前の使用は控えるのが望ましいでしょう。
薬の服用後、何時間経てば運転できる?
――眠気や判断力の低下を引き起こす薬は服用後、何時間経過すれば運転できますか?
反応時間や効いてくる時間が、個人によっても薬によっても異なります。一般的なアドバイスとしては、かかりつけの医師や調剤する薬剤師に質問しましょう、となります。市販薬であればパッケージなり注意書きをよく読んでください。
具体的に何時間経ったら運転していいなどとは断言できませんので、しっかり確認してあくまで自己責任ということになると思います。
――薬を飲んだ翌日なら安心して運転できますか?
いえ、薬が体内に残っている場合もあります。1日1回飲むタイプは突然効いてくるわけではないですからね。薬が効いてくる時間にもよると思います。
――時間の目安以外で服薬後の運転について何かアドバイスできることはありますか?
特に初めて飲む薬はどんな効き方をするかわかりませんので要注意です。私は患者さんに最初の向精神薬を処方するときは、いきなり運転するのではなくて、どの程度眠気がくるかなど自分で確認してもらってから運転したほうがいいと指導しています。
リスク管理はドライバー自身で
――タクシー運転手や配送業者などプロのドライバーには、どのように服薬指導されていますか?
睡眠薬など向精神薬を服用している場合は、さすがに危険なので運転業務から外れてもらう場合も多いかと思います。しかし一般的な薬を飲むときは業務を外れるわけにはいきませんから、問題は花粉症などの薬でしょうね。
そういったケースでは、まず処方するときになるべく眠気の少ないものにします。あとは抗アレルギー薬であれば、眠気の少ない第2世代抗ヒスタミン薬など、今は種類がありますから、処方してもらう医師や薬剤師によく相談して、早く自分に合うものを見つけてもらうということですね。
―日常的にできる服薬と運転のリスク管理方法は?
まず生活リズムの乱れに気を付けることですね。リズムが乱れると薬を飲む時間もバラバラになります。そうなると、たとえば1日1回飲む薬でも服用間隔が短くなることで、体の中に薬の成分が蓄積されてしまいますから、効き方も当然変わってきます。
あとは初診のときにある程度、職業については確認しますので、たとえば配送業者や運転手など、なんとなくこの患者さんは運転する、あるいは運転しないというのは、病院のほうでも把握していると思います。それにクルマを運転できないと生活に支障をきたすような地域もありますから、処方される薬について医師や薬剤師によく相談して、ドライバー自身で気をつけるよう心がけてください。
- ※この記事でご紹介しているのは、西多昌規教授による見解です。薬は用法・用量を守って正しく使用してください。

西多昌規
にしだ・まさき
早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授。
早稲田大学 睡眠研究所 所長。
東京医科歯科大学医学部卒業。医学博士。国立精神・神経医療研究センター、ハーバード大学客員研究員、東京医科歯科大学大学院助教、自治医科大学講師、スタンフォード大学客員講師を経て、現職。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。
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