特集

次世代高速道路のスタンダード!? 快適ドライブにつながる9つの最先端技術

高速ドライブを支える新技術【前編】

2023.03.04

文=清水草一/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

2023.03.04

文=清水草一/イラスト=北極まぐ/図版=宮原雄太

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1年点検を受けると、だれにでもチャンス

ふだん何げなく走っている高速道路ですが、安全で快適な交通を実現するため、日夜進歩を遂げているのをご存じでしょうか? 実は日本で最初に高速道路が開通してから、今年でなんと60周年! 半世紀以上がたった今なお進化を続け、私たちの快適な移動を支える高速道路の知られざる最先端技術に迫ります。前編となる今回は、未来の次世代高速道路におけるスタンダードになるかもしれない、道路技術の最先端をご紹介します。

近未来技術で眠気も吹き飛ぶ!?
「USIMPACT(ウルトラソニックインパクト)」シリーズ

ウルトラソニックインパクト

ウルトラソニックインパクトの稼働風景(提供=西日本高速道路㈱)

ウルトラマンの必殺技のようなネーミングが光る、こちらの装置。走行中の一般車両に超指向性のスピーカーで超音波を発射して、居眠りや漫然運転の防止、注意喚起を促す世界初の技術です。超音波が車体に当たることで、車内に電子音が発生する仕組みなので、屋外への騒音は抑制されます。

実際にどんな感じかというと、スピーカーの手前120mに近づくと、車内に「ピロリンピロリン」という小さな電子音が聞こえ始め、接近するにつれてその音がさらに大きくなります。

「あれ、なんの音だろう?」

何の音だかわからないからこそ、眠気が吹っ飛ぶのかもしれません。

ベテランの技を機械が受け継ぐ!?
衛星GPSを活用して機械が除雪

自律走行する除雪車

自律走行する除雪車(提供=東日本高速道路㈱)

除雪車が3台並んで、高速道路の除雪をしながら進むTVCMをご存じでしょうか。実は、CMの映像のように除雪車を操作するのには熟練の技術が必要。多くの業界が人材不足と高齢化に悩んでいますが、高速道路の管理も状況は同じです。

そこでNEXCO東日本は、準天頂衛星システム「みちびき」による位置情報を活用した、除雪車の自律走行の実現を目指しています。オペレーターは乗車しますが、ハンドルやアクセルを除雪車が自律操作。高い技術力で、白線が見えなくても誤差なく除雪していく姿は、自動運転トラクターによる農作業のようです。

加えて、除雪した雪を飛ばすシューターの角度や向きも、路肩の標識やスノーポールなどに合わせて自動制御。北海道・道央道で実証実験を行い、2022年度中の技術完成を目指しています。

走りながらの充電も夢じゃない!?
「走行中給電システム」の開発

走行中給電システムのイメージ(提供=東日本高速道路㈱)

電気自動車(EV)最大の弱点は、充電に時間がかかること。鉄道のように、走りながら給電ができればベストです。2025年の大阪万博では、「来場者移動EVバス」への走行中給電システムが導入される予定ですが、次世代高速道路でも特定のレーンを走ることで給電が可能になるシステムがNEXCO東日本の構想に描かれており、2030年代の実用化を目指しています。これが実現すれば、バッテリー残量を気にせずに、高速道路を走れるようになりますね。
EVのバッテリーや充電システムは、まだまだ発展途上の技術なので、今後どうやって進化していくかわかりません。路面に埋め込んだ装置をどのようにアップデートするかなど、実用化への課題は山積していますが、チャレンジは続きます。

安全の大敵「路上落下物」を
速やかに撤去

路面清掃車

新型の路面清掃車(提供=中日本高速道路㈱)

高速道路上の落下物は、脱落したタイヤのようにモノが大きくて重いと危険な存在になります。小石や小さな破片は、路面清掃車「スイーパー」がブラシを回して回収しますが、落下物や大きめのゴミの除去は、高速道路上に降りた作業員の手に頼らざるを得ず、作業は命懸けです。

そのリスクを少しでも軽減すべく、ペットボトル程度のゴミなら車内の操作で吸い上げることができる「掃除機付き路面清掃車両」が、一部で試行導入済みです。ゾウさんよろしく、車体前方の可動式ホースでゴミを吸い込み、後方のスペースに積み込む仕組み。近い将来、本格稼働が始まる予定です。

「今までお疲れさま」の思いを込めて
高速道路リニューアルプロジェクト推進中

架け替えの様子

架け替えを目前に、新旧の橋が並走している。(提供=首都高速道路㈱、撮影=㈱共映)

日本の高速道路ネットワークも完成に近づき、次なる課題は老朽化対策に移っています。現在、古い路線から順にリニューアル工事が進んでいますが、その最前線は、もっとも老朽化の激しい首都高です。

東京都と神奈川県を結ぶ首都高速1号羽田線の高速大師橋は、開通から55年を経て多くの疲労亀裂が発生しており、間もなく架け替えが行われます。交通量の多い重要路線のため、工事による通行止め期間をできるだけ短縮すべく、橋のすぐ下流側に新しい橋桁を準備し、2023年5月下旬にわずか2週間で一気に交換する予定です。

未来の答えは過去にあり!
AIが予知する最新渋滞予測

高速道路の渋滞を避けるために利用者ができる最良の対策は、利用時間帯をずらすこと。高速道路会社各社は日ごとの渋滞予測を公開していますが、精度をより高めるべく、東京湾アクアライン、関越道、京葉道で、AIによる渋滞予知システムを導入しています。

NTTドコモの位置情報データと、NEXCO東日本の過去のデータをかけ合わせることで、その日の渋滞をAIによって予知。当日午後に、夕方の上り予測所要時間を30分ごとに割り出して、ネット上に公開しています。課題は、精度の高い渋滞予測を見て予定を変更してくれる人を、いかに増やしていくかでしょう。

メルセデスベンツ「ウニモグ」は路肩へ芝刈りに、ラジコンも法面へ芝刈りに…。
交通を妨げる草木の対処を機械化

ラジコンによる除草作業

ラジコンによる除草風景。一見すると異様だが、未来では当たり前になっているのかもしれない。(提供=東日本高速道路㈱)

高速道路の中央分離帯や法面(のりめん)の緑は、ドライバーの心を癒やしてくれますが、ムダな草や木が増えてしまうのが悩みのタネ。それらの除去には多くの人手と手間を要するため、高速道路の年間維持費のうち、なんと約1割が割かれており、機械化が求められています。

路肩の除草には、メルセデスベンツの「ウニモグ」など、多目的作業車を導入。法面では、ラジコン芝刈り機が活躍を始めました。無駄な樹木は破砕して、刈り取った草とともにバイオマスガス発電に使用し、SA・PA用の電力の一部として使われています。

トンネル内の漫然運転を防ぐシンプルな方法
光の力で注意喚起!

穂別トンネル

穂別トンネルでのアクセント照明(提供=東日本高速道路㈱)

トンネルが連続する区間では、単調な景色によって注意力が散漫になりがちで、重大事故も発生しています。居眠り運転やぼんやり運転による事故を防止するため、北海道・道東道の長大トンネル内には、「アクセント照明」が設置されました。

単調な眺めに変化を付けるため、トンネル内の非常駐車帯の壁面に、LED照明で青色や緑色などの光の輪を照らし、景観にアクセントを付けています。

また、神奈川県・新東名のトンネル天井部には、プロジェクションマッピングによって、「出口1.5km」という文字が投影されています。どちらも「なんだろう?」と思わせることで、注意力の低下を防ぐ効果が期待されています。

これぞ発想の勝利
車線の運用変更のみで渋滞を減らす工夫

対策前後の草津JCT

対策前後の草津JCT。工事なしで渋滞解消に貢献。(図版=西日本高速道路㈱の資料を基に作成)

渋滞が起きる理由はさまざまです。対策としては、道路の拡幅による車線増がもっともダイレクトですが、そんな大規模工事をせずとも、白線を引き直して車線の運用を変えるだけで、渋滞が緩和できるケースもあります。

九州道の大宰府IC上り出口では、本線からの流出車線を1車線から2車線に増やすことで渋滞を緩和。新名神下りの草津JCTでは、大阪方面を1車線から2車線に増やしました。

草津JCTおよび近接する瀬田東JCTでは、これまでも安全性と渋滞対策のせめぎ合いにより、何度か車線の運用が変更されてきました。高速道路会社および地域の公安委員会には、今後も、より合理的な車線運用を模索していただきたいものです。


今年で60周年を迎える日本の高速道路。快適な交通を実現するため、地道な努力と最先端の技術導入による、さまざまな日々の改善が図られているのですね。

次回は、SA・PAに注目! ドライバーの「ホッとひと息」をサポートする、知られざる工夫に迫ります。

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