事故ファイル

拾わない!運転中の車内での落とし物

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2024.05.01

文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

2024.05.01

文=山岸朋央 / 撮影=乾 晋也

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2018年8・9月合併号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

運転中、助手席から滑り落ちる荷物。そこに注意が向きすぎた結果、事故に至ることも。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。

助手席に置いた荷物、滑り落ちたことはありませんか?

ブレーキを踏んだときなどに、助手席に置いたカバンやレジ袋が床に滑り落ちてしまったということは、ドライバーならば誰もが一度は経験しているのではないか。そして、それらが滑り落ちる瞬間を目や耳でとらえたとき、まったく気にならないと言い切れるドライバーはいないであろう。反射的に落下物へと視線を向けてしまうことは、ある意味、人間として自然なこと。問題は、その視線を向けている時間だ。視線をわずかに向けるか、凝視するか。その数秒の差が、事故を起こすか否かの分岐点にもなる。

2017年の、梅雨の合間の晴天に恵まれたある早朝、千葉県北部の町道を1台の軽自動車が南進していた。田畑の中を縫うように走る町道は、幅約4.5mと狭く、センターラインはもちろん、車道外側線も歩道もない。しかし、ハンドルを握る30歳代の女性にとっては、行き交う車も歩行者も皆無に近い早朝であることに加え、通い慣れた通勤路ということもあり、走りにくさや不安、危険などを感じることは露ほどもなかった。

日の出後の明るさが増していく中、緩やかなS字カーブに差しかかる軽自動車。数秒後、助手席に置いてあった布製のバッグが、ドサッという音とともに、助手席の足元へと滑り落ちた。反射的に助手席の足元へと視線を向けた女性ドライバー。そして、少しも躊躇することなく、バッグを拾い上げようと、助手席の足元へ頭から潜り込むように身体を傾けながら、左手を伸ばした。

ドンッ……。事故は起きた。町道の右端を歩いていた80歳代の女性を、背後からはね飛ばしてしまったのだ。千葉県警の調べによれば、背後から軽自動車にノーブレーキで衝突された高齢女性は、フロントガラスで後頭部などを強打。搬送先の病院で死亡が確認された。

歩行中の右側通行を守っていた高齢女性にまったく落ち度はない。事故原因は、女性ドライバーの脇見だった。

「衝突するまで歩行者の存在にまったく気づかなかったと言っていますので、バッグを拾おうとしたことによる脇見、前方不注意は数秒間に及んだものと考えられます」(所轄署の大川晃史交通課長)

女性ドライバーが脇見を始めた右カーブを抜けると、その先は畑の中を真っ直ぐ延びていく。しかし、右カーブを曲がり終えた後にハンドルを戻しきれていなかったのか、軽自動車の車首は前方右端を歩いていた高齢女性へと向けられたまま前進を続け、背後からはね飛ばしてしまったと推測される。

「女性ドライバーにとっては、走り慣れた道ということで、車も人もいるはずがない、少しぐらいの脇見ならば問題ない、と思っていたのかもしれませんが、この慣れからくる油断ほど危険なものはありません。実際に、自宅周辺を含め、走り慣れた道での事故は多く、慣れた道ほど逆に注意が必要なのです。運転中に車内で物が落ちた場合は、チラッと見ても絶対に拾おうとしないこと。拾うには凝視しなければならず、少なくとも2、3秒間の脇見をすることになりますし、運転姿勢も崩れます。到着地までそのままにするか、安全な場所に停車してから拾う、ということを絶対に守っていただきたい」(前出・大川交通課長)

車内の脇見は、意識まで脇見させる⁉

時速40㎞で走行する車は、2秒間で22.2m進むため、わずかな脇見でも事故につながるおそれがある。本誌「危険予知」を監修する大阪大学名誉教授の長山泰久氏(※)は、車内の脇見は自然な心の動きによって起きるものであり、自分の心の中に潜む危険を知り、コントロールすることが大事だと警鐘を鳴らす。

「車外の脇見の場合は、自ら意図的に見にいくので、脇見をしていることを自認しやすいのですが、車内の脇見の場合、自然な心のままに見てしまうことが多いので、自認しにくく、非常に危険です。たとえば、今回のようにバッグなどが落ちたり、後部座席の子供が泣いたりすれば、気になって視線を向けてしまうのは、ごく自然なこと。車内では処理や対応を必要とすることに〝意識の脇見〟が起こってしまうものなので、自分はどのようなことに関心・興味を持って見たくなるかという〝心の危険予知〟が重要になってくるのです。運転時に、脇見をしたがっている自分に気づき、脇見をしてはいけないと、自分の心をコントロールすることが肝要です」(長山氏)

しかし、自然な心の動きをコントロールすることは、一朝一夕に身に付くものではない。となれば、脇見を誘う危険因子を車内から減らすことが、事故防止への第一歩となる。

「ダッシュボードの上に物を置かないことはもちろん、荷物用のハンガーやフックなどを活用し、座席の上にも荷物を置かないこと。物が落ちないようにするだけでも、車内の脇見はかなり減らすことができますから」(大川交通課長)

また、スマホの使用やカーナビの注視はもちろん、喫煙や同乗者との熱心な会話なども車内の脇見につながるので、運転中は控えたい。

  • JAF Mate誌の危険予知も監修していた長山泰久・大阪大学名誉教授は2022年8月逝去されました。

  • 荷物はトランクに入れるようにしたい。フックなどを使えば、荷崩れを予防できる。

まとめ

車内の荷物は動いたり、崩れたりしないようにすること。それだけでも、思わぬ事故につながる車内での脇見を防ぐことができる

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