事故ファイル

横断歩道や歩道橋があるのに、そこを渡らない歩行者に注意

2024.03.01

文=山岸朋央 撮影=乾 晋也

2024.03.01

文=山岸朋央 撮影=乾 晋也

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

「近くに横断歩道があるから、歩行者はいないはず」。そんな考えが事故の原因になる。横断歩道や歩道橋が近くにあるのに、そこを渡らない歩行者との事故事例から、事故の予防法を探る。

※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2021年5月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

横断歩道の先の市道から歩行者が…

警察庁の調べによれば、2015年からの5年間に全国各地で発生した、車と歩行者の衝突による死亡事故は5,931件。その約7割(4,278件)は歩行者が横断中の事故だった。さらに、その約7割(2,923件)は、横断歩道以外の場所を横断しているときに発生したという。

車と歩行者との事故の多くは、歩行者が道路を横断中に発生している。車対歩行者の事故を防ぐ横断歩道などの安全施設が、歩行者にもドライバーにも軽視されていることが原因のひとつかもしれない。

今年1月下旬のある日の早朝、埼玉県南東部を縦断する片側1車線の県道を1台の普通乗用車が北進していた。運転席に座る20歳代半ばの男性ドライバーは車を自宅へと向け、走り慣れた通勤路を進み続ける。日中は交通量の多い道だが、日の出前ということもあり、県道を走る車は少ない。男性は、暗い道をヘッドライトの明かりを頼りに直進していた。前方に迫る上り坂には、路面上に白線で描かれたダイヤマークが設置されており、この先に横断歩道があることを示していた。

「こんな時間に歩行者がいることはないよな」

横断歩道上やその付近に歩行者がいないことを視認した男性は、減速することなく上り坂の頂点にある横断歩道を通過、すぐ先に架けられた平坦な短い橋へと進入した。

「えっ、歩行者?」

ヘッドライトの光に浮かび上がる、男性の目前を右から左へと横断する人の姿。制限速度の時速40㎞を少し超える速度で走る車と歩行者までの距離はたったの十数m。

事故は起きた。埼玉県警の調べによれば、被害に遭ったのは近所に住む80歳代後半の男性だった。橋の北側には川沿いに市道が延び、歩行者はそこを西進していた。

「日課の散歩中だったという歩行者は、幅7m超の県道を横断していた際に左から来た直進車と衝突し、車の助手席寄りのフロントガラスで頭部を強打するなどして、搬送先の病院で死亡が確認されました。前方が見通せない坂道を上り終えた直後で、横断者の存在に気づいたときにはもう間に合わなかった、とドライバーは言っているようなので、交差点安全進行義務や前方不注意などの違反が原因と思われますが、歩行者側にも違反がありました」(埼玉県警交通総務課・片貝浩之氏)

道路交通法の第12条は、横断歩道がある場所の付近では、その横断歩道によって道路を横断しなければならないと義務付けている。横断歩道の付近とは、過去の判例では片側1車線道路の場合では横断歩道の端から外側に20~30m以内の場所としている。今回の事故は歩行者が横断を開始した場所の約20m南寄りに、信号機のない横断歩道が設置されていた。歩行者側にも横断歩道外横断の違反があったというわけだ。

横断歩道以外の場所を横断中に車とぶつかる死亡事故が全国各地で多発している。特に今回同様、歩行者が65歳以上の高齢であるケースは、65歳未満の約5倍近くに上るのだ。

意識と行動のズレが高齢歩行者の事故を招く

当連載で何度も警告しているが、意識と行動のズレが高齢歩行者の事故を誘発する。加齢により身体能力が低下するのは自然なこと。その一方で、いつまでも若くありたいという思いを抱くのもまた自然なこと。しかし、この意識と行動のズレに気づかなければ、道路を横断するのに自分が考えているより長い時間がかかって事故に遭ったり、視野が狭くなるなど認知能力が低下すれば、車の速度などを正しく判断できないまま横断を開始して事故に遭ってしまうのである。

逆に加齢による身体能力などの低下を自覚するがゆえに、近くに横断歩道があってもそこまで歩くのは体力的に大変、あるいは足や膝が悪いので歩道橋の上り下りはきついなどと、横断歩道や歩道橋以外の場所での横断を選択する高齢者も少なくない。最近では、これらの高齢者による行動を“乱横断”と名付けて危険視する向きもある。しかし、この「高齢者=悪、危険」などという声に対し、埼玉県警では、横断歩道こそが安心して安全に横断できる場所だと高齢者が心から思うことができれば、横断歩道外横断による事故を未然に防ぐことができるのではないかと今、県を挙げて取り組んでいるという。

「信号機のない横断歩道は歩行者優先だ、というルールをすべてのドライバーが守れば、横断歩道に対する『なかなか車は止まってくれない』『手前の車が止まってくれても反対車線の車が止まらなければ、かえって危険だ』といった歩行者の意識も変わり、危険な横断歩道外横断をなくすことができるのではないでしょうか」(同県警交通総務課・本多一美交通安全対策推進室長)

ドライバーが横断歩道付近を斜め横断したりする高齢歩行者などに注意するのは当然だが、それ以外の場所での横断者にも常に注意し、いち早く発見するのはなかなか難しい。安心して横断歩道を利用してもらえるように、横断歩道やその付近に歩行者がいたら、彼らの動きを妨げないようにすることが事故防止の近道だろう。

  • 「歩道橋を渡るのが面倒」と、道路を横断する歩行者もいる。たとえ横断禁止の道路であっても、ドライバーは「この場所で歩行者は横断しないだろう」とは考えないこと。

まとめ

近くに横断歩道や歩道橋があっても歩行者の存在に注意。横断歩道やその付近に歩行者がいたら一時停止すること

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