事故ファイル

酒を飲んだ翌朝、酒気が残った状態での運転に注意

2023.12.01

文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

2023.12.01

文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

飲酒後、一晩寝るとアルコールが抜けたように感じがち。しかし、それは誤解かもしれない。飲酒をした翌朝に起こった酒気帯び運転による事故の事例から、事故の予防法を探る。

※写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2019年12月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

一晩寝てもアルコールは残る?

2006年8月、福岡県で幼児3人が亡くなった事故などをきっかけに社会問題化した飲酒運転による事故。翌年の飲酒運転厳罰化、09年の行政処分強化などにより、これらの事故は年々減少したが、警察庁の統計資料などを見る限り、残念ながらここ数年は下げ止まり傾向にある。飲酒運転による悲惨な事故は、依然として後を絶たないのが実情だ。その原因のひとつに、ドライバー自身にまったく自覚のない飲酒運転による事故がある。

今年の1月中旬のある朝、にわか雪の降る札幌市内を1台のワゴン車が走行していた。片側1車線の道路の両端に設けられた広めの路側帯に、除雪された雪山が点在する中、30歳代の男性がハンドルを握るワゴン車は、速度を抑えて直進していた。

「えっ、危ない!」

突然、道路の左端に停車していた軽自動車が発進し、ワゴン車の目前に飛び出してきたのである。故意とも思えるタイミングに、ワゴン車のドライバーは回避できず、軽自動車の右側面に衝突。軽自動車は左前方へと弾き飛ばされ、路側帯に積み上げられた雪山に乗り上げるようにして止まった。

現場に駆けつけた警察官が、軽自動車を運転していた50歳代前半の女性ドライバーに事情聴取した際、酒の臭いがしたためアルコール検知器による検査をしたところ、飲酒運転の基準値(0・15㎎/L )の3倍以上の呼気中アルコール濃度を検知。酒気帯び運転で現行犯逮捕した。

「ドライバーの話では、前夜、眠れないからと、0時過ぎまで1時間ぐらい焼酎を飲んだことは確かだが、飲酒後に8時間半は眠ったので、まさか自分が酒気帯び状態で運転をしていたとは思いもしなかったと、驚いていたようです。しかし、前夜の飲酒が翌朝の飲酒運転事故につながるのは珍しいことではありません。飲んだアルコールの度数と量にもよりますが、一晩寝たから大丈夫というのは間違いです」(北海道警察本部交通企画課・長尾修二課長補佐)

人の命にかかわる罪を犯さないためにも、アルコールの分解時間などについて、ドライバーは正しい知識を身に付けておくことが大切だ。

10年以上、飲酒が運転などの交通行動にどのような影響を及ぼすのか研究を続けている川崎医療福祉大学(岡山県)の金光義弘名誉教授(交通心理学)によると、摂取したアルコールが分解され、体から完全に抜けるのに必要な時間は、缶ビール1本(500mL・アルコール度数5%)で約4時間だという。

「これは缶ビールに含まれている純アルコール量20gを1単位とした場合の分解時間で、日本酒1合(180mL・アルコール度数15%)やワイングラス1杯(180mL・同14%)、チューハイ1杯(360mL・同7%)なども、同じ1単位となります。この『1単位・4時間』を基に、翌日の運転予定時間から逆算して、あらかじめ飲むアルコール量と飲み終える時間を決める。これこそが、酒気帯びならぬ〝酒気残り〟による飲酒運転を防ぐために最も大切なことだと思います」(金光名誉教授)

  • アルコールの1単位とは、グラスの大きさにもよるが、ワイングラス半分程度、ビールならグラス2杯程度。

アルコールの分解には個人差がある。適切な酒量の把握が大事

ただし、アルコール分解能力には個人差があり、金光名誉教授らの実験では、同じ量を同じ時間に飲んで、1単位を3時間で分解する人もいれば、4時間以上かかる人もいたという。女性や体重の軽い人、アルコールに弱い人などは1単位・5時間で計算するほうが適切かもしれない。

「3単位のアルコールを摂取した3時間後、アルコールはまだ体内に残っているのに、約8割の人が『酔いが覚めた』と感じていたという実験結果もあります。また、アルコール飲料を食べ物とともに2時間飲食した後、8時間以上の休憩・睡眠を取った後の身体機能の変化などを調べた実験では、二日酔いの感覚はなくても、尿中にアルコールが残っている人が7割近くもおり、残酒量にかかわらず、8割以上の人に神経細胞の感度低下がありました。頭が痛いといった二日酔いの症状がある場合に運転を控えるのは当然ですが、二日酔いの感覚がなくてもアルコールの影響が残っていることがあります」(金光名誉教授)

そもそも睡眠時は、肝臓などの機能も落ちるため、アルコールの分解が覚醒時より遅くなるという。
「アルコールは脳の働きを麻痺させるので、正常な運転はもちろん、正常な判断もできるはずがない。だから私は、『飲んだら乗るな、乗るなら飲むな』という標語がありますが、『乗るなら飲むな』だけでいいと思っています」(金光名誉教授)

運転をするなら、前夜にそもそも飲酒しないことが、ベストの選択だ。

まとめ

睡眠時は覚醒時よりアルコール分解に時間がかかる。翌朝、運転する場合は、前夜に飲酒しないのがベストの選択。

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