事故ファイル

秋冬は特に注意! シカと車との衝突事故

2023.10.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

2023.10.01

山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

※写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2018年11月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

秋から冬にかけて、シカとの衝突事故が増える。体重の大きい動物との事故は、時に重大事故につながることもある。自分と動物を守るために、注意すべきことは? 過去に起こった交通事故から、それを防ぐ方法を解説する。

秋の丘陵地帯を走る国道で、エゾシカと衝突

“絶好のドライブ日和”と聞いて、雲ひとつない秋晴れの一日を思い浮かべるドライバーは多いだろう。自然豊かな山あいを走り抜ける秋のドライブに、実は危険が潜んでいることがある。

昨年10月下旬のある日、北海道北広島市内の国道を、1台の普通乗用車が走行していた。丘陵地帯を走る片側2車線の国道は、終日にわたって交通量が多い。沿道には商業施設などはほとんどなく、集落を外れると農地や森林が続く。午後6時半を過ぎた日没後の道路はとても暗い。ハンドルを握っていた30歳代後半の女性ドライバーは、中央分離帯に設置された数少ない道路照明灯とヘッドライトを頼りに走行していた。

「えっ、何、シカ?」

女性ドライバーの視界に、突然、右斜め前方からエゾシカの巨軀が飛び込み、普通乗用車の右のドアミラー付近に頭から突っ込んだのだ。女性ドライバーの身体を強い衝撃が襲い、シカはその場に倒れ込んだ。

しかし、悲劇はこれで終わらなかった。女性ドライバーが運転する車のすぐ後ろを走っていた普通乗用車が、止まり切れずに倒れたシカに突っ込んだのだ。バンパーを破損させながら、シカの身体を乗り越えた普通乗用車は、最初に衝突した車とともに、道路左端に車を寄せた。2人は想定外の事故に呆然としつつ、通報した警察の到着を待ったが、事故はまだ終わらなかった。数分後、追越車線上に倒れ込んだままのエゾシカに、3台の普通乗用車が、続けざまに突っ込んだのである。

警察の調べによれば、普通乗用車5台に次々と衝突されたエゾシカは死亡したが、幸いにもドライバーらにけがなどはなかった。

「被害は車両の破損だけでしたので、物損事故として処理されました」(北海道警察本部交通企画課・村越俊文課長補佐)

エゾシカとの衝突事故の概要。

エゾシカとの衝突事故の概要。

10月から増加するシカとの事故。日没前後は特に注意

法律上、動物は「モノ」として扱われるため、誰のものでもない野生動物をはねてしまったとしても、物損事故として処理される。
「物損事故では、人身事故のときのような捜査は行われないため、衝突の原因を含め事故の詳細はわかりません。しかし、発端となった事故は、シカが右のドアミラー付近に衝突していることから、ドライバーは事故直前まで横断するシカの存在に気づかなかった前方不注視とも推測できますが、実際のところはわかりません。ただし、後続の4台に関しては、現場付近が暗かったとはいえ、車間距離を正しく確保しつつ、しっかり前を見ていれば、衝突を防げた可能性は高いとも思われます」(同・村越課長補佐)

北海道内でのエゾシカの関係する事故は、9月から12月にかけて多発し、ピークは10月で、その件数は年間発生の2割を超える。時間帯では日没前後の16時から20時に多発し、事故パターンとしては、横断中のシカとの衝突事故が全体の9割近くを占めるという。昨年は、全道の記録が残る平成16年以降で最多の2,430件を記録した。

「事故の多くは物損事故ですが、死傷事故がないわけではありません。死亡事故では、シカとの衝突を避けようと急ハンドルを切った結果、路外に逸脱して立木などに衝突したり、対向車と正面衝突するケースがほとんど。走行中にシカが目の前に飛び出してきたら、ハンドルを切らずに、まずはブレーキを踏むことが、事故回避あるいは被害を小さくするための基本です。そして、事故を防ぐためには、シカの生態や習性を知ることも大切です」(同・村越課長補佐)

  • シカは、アスファルト上では蹄(ひづめ)が滑って転ぶなど、機敏に動けないことがある。「すぐ逃げるだろう」とは思わないことが大切だ。

「動物注意」の標識のある道路は特に、シカなど動物と遭遇する可能性が高い

環境省の調べによれば、野生のシカは本州以南にも約304万頭(平成27年度の推計個体数)が生息している。ドライバーは特定地域のことと思ってはならない。

シカが描かれた警戒標識が設置されている道路はもちろんのこと、山間道路や道路脇に森林がある場所は要注意。路面の黒いブレーキ痕は、シカと出くわした車によるものかもしれないし、森の中を走る道路は彼らの通り道であるかもしれない。また、事故が多発する10月から11月は、繁殖期でシカの動きが活発になるほか、越冬地へ移動する時期にも重なり、シカと遭遇する可能性が高まる。シカの活動のピークは日の出前後と日没前後なので、秋から初冬の早朝と夕方の運転は特に注意したい。

「シカとの遭遇が予想される場合は速度を抑えて、車間距離を広く取ることが肝要です。シカは車のヘッドライトを受けると目が光るので、暗い夜道で光るものがあったら要注意。車のライトや走行音に反応して、道端や路上で立ち止まることもありますが、車の通過を待っているわけではなく、いきなり動きだしたりするので、慎重な対応が必要です。また、シカは群れで移動しており、1頭が道路を横断したら2、3頭目が続くかもしれないことも覚えておいてください」(同・村越課長補佐)

もし、事故を起こしてしまったり、シカが道路に倒れているのを発見したら、二次事故防止のためにも必ず警察や道路緊急ダイヤル(#9910)に通報しよう。秋のドライブを楽しむためにも、事故を未然に防ぐ運転を身に付けたい。

まとめ

シカは、アスファルト上では蹄が滑って転ぶなど、敏捷に動けないことがある。「すぐ逃げるだろう」とは思わないこと。

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