事故ファイル

5・6月は特に注意! 高校1年生の自転車事故 その理由は?

2023.04.01

山岸朋央=文 / 乾 晋也=撮影

2023.04.01

山岸朋央=文 / 乾 晋也=撮影

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※写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。

新生活にも慣れてきた5・6月。自転車通学に慣れ始め、緊張がゆるんできた高校1年生の事故が増える。注意点を探った。

※JAF Mate 2018年5月号「事故ファイル」を再構成して掲載しています。


警察庁の調べによれば、自転車乗用中事故の死傷者数を年齢別に見た場合(平成24年~28年の平均)、最多は16歳。そもそも中学生・高校生の事故死傷者は、自転車乗用中が占める割合が最も高いのだが、なかでも高校1年生が突出している。

2017年5月中旬、長野県南部の住宅街に暮らす80歳代後半の女性の耳に「ガシャン」という衝突音が飛び込んできたのは、午前8時過ぎのことだった。衝突音の大きさに、思わず庭に面した居間の窓ガラスを開け放つ高齢女性。彼女の目に、生け垣の外側にうずくまる学生服姿の男子高校生が映る。事故は起きた。

角地に建つ女性の自宅前を走る市道で発生した事故は、女性ドライバーが運転するワンボックス車と、高校1年生の男子が乗った自転車によるものだった。自転車は一方通行の狭い脇道からセンターラインのない市道を横断しようとしていた。一方ワンボックス車は、自転車の右側から市道を直進していた。両車は出会い頭に衝突、自転車は車の前方へとはね飛ばされた。高齢女性宅の生け垣に叩きつけられるように倒れ込んだ男子高校生は、駆けつけた救急隊によって病院へと搬送されたが、意識不明の重体となった。

全国各地どこにでもあるような、狭い道路が縦横に交差する住宅街の一角で起きた今回の事故。現場となった交差点は、建物や生け垣などで見通しは悪く、ワンボックス車側にとって、頼りはカーブミラーのみ。一方、自転車側の一方通行路には一時停止の標識が設置されていた。現場近くに住む高齢女性も事故の瞬間を見たわけではなく、男子高校生がどのような行動を取ったのかは不明だが、この自転車に乗っていたのが、入学後2か月足らずの高校1年生であったということに、ドライバーは注目してほしい。

高校1年生による自転車乗用中事故が突出して多いことは、「自転車の安全利用促進委員会」が2017年5月に公表した「中高生の自転車事故実態調査」でも判明している。同委員会の調べによれば、平成27年に発生した高校生の通学時の自転車事故の約半数は高校1年生時に起きており、また、それを月別で見ると、「5・6月」が目立って多く、他の月の約1.4倍。今回の自転車事故は、最も事故の危険があり、注意が必要とされる「高校1年生の5・6月」にピタリと一致していたのである。

「高校入学直後の4月は、自転車通学が初めてという人や、距離が中学時より長くなった人も多く、事故が多発すると思われがちですが、この時期は緊張しながら走行していることもあり、ヒヤリハット体験をしたとしても、事故に至ることは意外に少ない。しかし、通学時間や速度のペースがつかめると、当初の緊張感が薄れ始め、油断が生じる。その結果、5、6月に事故が多発していると考えられます。自転車通学には慣れても、高校入学後数か月では、危険箇所や交通ルールにはまだまだ不慣れな状態ですから」(長野県警交通安全対策室・酒井敏氏)

また、自転車の安全利用促進委員会の調べによれば、自転車事故の発生場所としては、センターラインや歩道のない裏道交差点での割合が最も高く、その約9割が、車との出会い頭衝突。そして、この裏道交差点での事故原因の約3分の2を発見の遅れが占め、判断などの誤りが続く。裏道交差点は見通しが悪いこともあり、一時不停止はそれほど多くなく、自転車側の違反は、見落としや見誤り、発見の遅れなどの安全不確認や動静不注視、交差点安全進行義務違反などが大半を占めるという。慣れから来る緊張感の欠如は、漫然運転につながり、その結果事故の危険が増すのは、車も自転車も変わらないようだ。

高校1年生の自転車事故を未然に防ぐには、学校での自転車安全教育が重要となる。警察庁に「自転車の交通ルールの徹底方策に関する提言」を行う懇談会の座長も務めた鈴木春男千葉大学名誉教授は、自転車通学に慣れ始める前、4月後半に始めるのが重要だと指摘する。

「各学校には、過去の事故情報が相当数あると思いますので、危険箇所の映像等も用意して、どのような行動が危険であり、事故につながるのかを、新入生に認知させることは非常に大事。また、事故は学校の近くで起きることが多いので、生徒各々が感じた学校周辺の危険箇所を挙げていき、マップを作らせるなども効果的です」(鈴木名誉教授)

もちろん、事故を未然に防ぐにはドライバー側の注意も欠かせない。
「自転車は思わぬ動きをすることが多いので、動きをよく見ることが大切です。交差点では、自転車などが出てくるかもしれないと常に注意を怠らず、見通しが悪くて安全確認ができなければ、徐行あるいは一時停止することが肝要です」(長野県警・酒井氏)

事故が起きれば、被害は自転車側に集中する。相手を死傷させたという事実は、一生消せない大きく深い傷となることを忘れてはならない。

  • 出会い頭事故を防ぐため、見通しの悪い交差点では、停止線の一時停止(写真①)に加え、自車のボンネットが交差道路から見える位置で再停止(②)、目視で安全確認ができる位置でもう一度停止(③)の、3段階停止と確認をしよう。
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