文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

カーブが続く緩やかな下り坂で起きた悲劇

走り慣れた道でも油断大敵

写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、カーブが続く緩やかな下り坂で起きた事故について取り上げる。


緩やかな下り坂でスピードを出しすぎ、カーブを曲がりきれず…

坂道での事故といえば、『上り』より『下り』の方が多いだろうということは、ドライバーならば想像に難くないかもしれない。
しかし、その下り坂での事故件数を、事故全体に占める割合と死亡事故全体に占める割合で比較した場合、後者の方が2倍以上も高くなったというデータが過去にあったことまで知るドライバーは少ないだろう。
勾配(こうばい)の急な山道などを下るときに、事故の危険が高まることはもちろんだが、緩やかな下り坂でも、その距離が長くなるほど、徐々に車は加速し続ける。
当然ながら、知らず知らずのうちに速度が増し続ける車が、危険でないはずはない。


2020年6月のある週末の夜、梅雨前線が延びた九州から関東地方は雨の所が多く、群馬県南部では発達した雲がかかり、局地的に激しい雨も降っていた。
この天気予報を知ってか知らずか、夜間のドライブを楽しんでいた県内在住の若者2人が突然の局地的豪雨に襲われたのは、見晴らしの良い山頂展望台からの夜景を満喫しているときだった。
慌てて青色のスポーツカーに飛び乗る2人。激しさを増し続ける雨のなか狭い山道を下り、整備された片側1車線の県道へと無事合流し、緊張で強張(こわば)った彼らの表情もようやく緩んだ。

「ここまで下りれば、あとは心配ないですね」

助手席の先輩に笑顔で話しかける男性ドライバー。
午前0時まで残り数分、緩やかな下りと緩やかな左右のカーブが続く県道を走る車はこのスポーツカーのみだったが、走り慣れた地元の道ということもあり、ヘッドライトの明かりだけを頼りに激しい雨が降り続く真っ暗な夜道を南進する20歳代前半のドライバーが、事故の危険や不安を感じることはなかった。
しかし数分後、緩やかな右カーブを曲がることなく直進し、そのまま路外へと飛び出したスポーツカー。事故は起きた。
緩やかな右カーブの途中に左側へと分岐する細い道があり、そのY字に分かれたところに建つ木造平屋建ての住宅に、スポーツカーが突っ込んでしまったのである。

群馬県警の調べによれば、車は木造住宅の外壁を突き破り、60歳代後半の男性が寝起きする部屋に突入して止まっていたという。

事故図

「車体すべてが住宅内にすっぽり入ってしまった状態で、高齢男性はその車の下敷きになり、搬送先の病院で死亡が確認されました。亡くなった男性の長男が同居されていましたが、奥の部屋にいたため無事でした。また、車の2人は多少の擦り傷を負っただけでした。事故原因は、スピードの出し過ぎでカーブを曲がり切れずに路外逸脱してしまったためと推測されます。ただ、事故当時はかなり激しい雨が降っていたこともあり、雨で路面が滑りやすい状態になっていたことや視界が良くなかったことも、影響したのかもしれません」(群馬県警察本部交通企画課・石田直弘次席)

勾配の急ではない県道とはいえ速度は時速40㎞に規制されており、事故現場の数十m手前の緩やかな右カーブに入るあたりからは、規制速度は時速30㎞に抑えられていた。
ドライバーがこの標識に気づいていたかどうかは不明だが、故意に暴走していたようなことはないにしても、事故の被害などから見て規制速度を超過していたことは確かなようだ。

「緩やかな勾配ということで、つい気が緩んでしまうようなことがあるのかもしれませんが、気の緩みが事故につながるのは当然のこと。坂道に限ったことではありませんが、カーナビやスマホを見たりせずしっかり前を見て、運転に集中することが基本であることを忘れないでいただきたい」(石田次席)


加速しがちな下り坂やカーブの手前では、しっかり速度を落とそう

スポーツカーの若者も、地元の走り慣れた道で、狭い山道から県道に出たこともあり、気が緩んでしまっていたのかもしれない。
モータージャーナリストの菰田潔氏は、下り坂で平坦な道と同じようにアクセルを踏んでしまうと、スピードは予想以上に高くなると警告する。

「下り坂でアクセルを戻したときに平坦な道のようにエンジンブレーキや回生ブレーキが働かないため、イメージ通りに減速せず、その結果、いつもと同じようにブレーキを踏んでも、平坦な道のようには速度が下がらないというわけです。このオーバースピードを防ぐために、まず大事なのはスピードメーターをこまめに見ること。次に、直線のうちにブレーキを使ってスピードをしっかり落とすこと。カーブに入ってからブレーキを使うと不安定になりますから。もし、オーバースピードでカーブに入ってしまったときは、ABSが作動するぐらい強いブレーキをかけて速度を落としてください。そして、強くブレーキペダルを踏み込みながら、自分が進みたい方向を見て、ハンドルをその進みたい方向に切ること。なお、ABS作動中は車をスピンさせないために、ハンドルの利きがやや弱くなるので、大きめにハンドルを切ってください。そして、スピードが十分落ちたら、自分の車線をキープして走り進めばOKです」(菰田氏)

絶対にやってはいけない対応は、オーバースピードのまま下り坂のカーブを抜けようとすること。
タイヤのグリップの限界を超えて、滑ってしまうこともあるのだという。
前輪が滑るとカーブの外へと向かっていき、後輪が滑るとスピンしながら外へと膨らんでいく。
もちろん、今回のような雨天時はさらに危険度は増す。
また、オーバースピードのまま、少しハンドルを切った状態で緩いブレーキをかけることもご法度だ。
車を不安定な状態にする行為でしかなく、下り坂では通常より前輪に荷重が移り、後輪のグリップが失われてスピンするケースもあるのだという。
そして、これは当然だが、急ハンドルで曲がろうとするのはNG。
逆に前輪のグリップが失われて、曲がらずに道から外れることになるという。
ドライバーは、菰田氏が教えてくれた、このやってはいけない対応を忘れることなくしっかり身に付けたい。

「緩やかな下り坂では、スピードメーターをこまめに見ることに加え、なるべく先を見て走ることが大切。カーブが近づいてきても、それが急カーブと気づかずにそのまま入ってしまえば、オーバースピードになってしまいますから。先、先を見るようにすると、先が見えないカーブということは、現在のスピードが速過ぎるのだということが認識できますから。前走車がいる場合は2秒以上の車間を取り、前走車がいない場合は4、5秒先が見えるまで速度を落として走ることで、事故の危険を回避できます」(菰田氏)

見通しの悪いカーブや下り坂を走るときに、菰田氏の言葉を思い出してほしい。

時速40kmで走る自動車

下り坂ではオーバースピードを防ぐために、スピードメーターをこまめに見ることが大切。カーブの手前の直線のうちにスピードを十分に落とそう。

カーブの先を見ながら自動車を運転する男性

緩やかな下り坂ではなるべく先を見て走ること。前走車がいる場合は2秒以上の車間を取り、前走車がいない場合は4、5秒先に視線を向けよう。

カーブでの減速を促す看板

カーブの手前にはこのような注意喚起の看板が立っていることも。進む先にカーブがあるとわかったら、早めに減速するなどの行動をとることが大切だ。

まとめ

下り坂で発生する事故は死亡事故となる確率が高い。
緩やかな下り坂で平坦な道と同じようにアクセルを踏んでしまうと、スピードが予想以上に高くなるため、カーブに差し掛かったときに減速できず曲がり切れない危険性がある。オーバースピードのままカーブを抜けるのは絶対にNGだ。
緩やかな下り坂では、スピードメーターをこまめに見ることと、なるべく先を見て走ることを心がけよう。

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