文=山岸朋央/撮影=乾 晋也

恐怖! 故意による高速道路の逆走

写真は合成・加工によるイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。

過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、認知症疑いの高齢者ではないドライバーが、高速道路の出口を間違えたために故意に高速道路を逆走した事例を取り上げる。この記事を読んで逆走車の傾向や出口を間違えたときの対処法などを知り、もしもの場合の参考にしてもらいたい。


高速道路上でバックする車に遭遇! とっさにハンドルを切り…

高速道路での逆走車と聞いて、ドライバーの皆さんが真っ先に思い浮かべるのは、高齢ドライバーがハンドルを握る乗用車かもしれない。近年、認知機能が衰えた高齢ドライバーによる事故は社会的問題ともなり、運転免許証の返納が全国各地で進んだこともあって、疑いを含めた認知症による逆走事故は、この数年減少し続けている。しかし、高速道路での逆走は、逆走をしている認識がないとされる高齢ドライバーだけによるものではない。65歳未満のドライバーによる『故意』の逆走も少なくないのである。当然ながら、逆走の動機が『認識なし』であろうが、『過失』や『故意』であろうが、その先に待ち受けるのは、命にもかかわる悲劇であることには変わりがない……。


2020年4月下旬のある晴れた日の昼前、50歳代半ばの男性・Aさんがハンドルを握る軽自動車が、関東甲信越地方を横断する高速道路を西進していた。助手席に妻を乗せ、片側2車線の左側、走行車線を時速100㎞前後の速度を保ちながら走り続ける軽自動車。

「あと1時間ぐらいで着くかしら」

前方に見える『出口500m』と書かれた緑色の標識を見ながら、目的地の最寄りICまでの時間を逆算する妻。渋滞もなく順調に流れる道路を軽快に進むAさん夫妻が、事故の危険や不安を感じることは一切ないはずであった。

「あれっ、なんでみんな追越車線に移るんだろう……。落下物でもあるのかな?」

2台前を走る大型トラックに続き、すぐ前を走るミニバンも中央分離帯寄りへと車線変更し始めたことに戸惑うAさん。

「出口を通り過ぎた先の路肩に車が1台止まっているみたい。あっ、停車しているんじゃなくて、バックしているんだわ!」

前を走る車が次々と車線変更した原因は、落下物などではなかった。ICの出口を通過した数十m先付近で、狭い路肩部分に車体の左半分を入れ、右半分を本線上にはみ出させた状態の普通乗用車がバックしていたのである。

Aさんは驚きつつも、右ウインカーを点滅させ、追越車線への車線変更を試みようとするが、右斜め後方を走行する大型ミニバンを右サイドミラーで視認。車線変更を諦めたAさんは、ウインカーを消し、アクセルペダルから右足を浮かせつつ、必死の形相で走行車線内の右端いっぱいに車体を寄せた。

「きゃああっ! ぶつかる!」

車内に響き渡る助手席の妻の叫び声。風音だけを残し、すれ違う軽自動車と高速道路上をバックしてきた普通乗用車。危機一髪、衝突は回避され、事故は起きなかった。

「すれ違った直後、後ろを振り返った妻によれば、普通乗用車は出口までバックし続けた挙げ句、何事もなかったような感じで、料金所へ向かうランプウェイへと入っていったそうです。目的のICを通り過ぎてしまったのでしょうが、無茶をするドライバーがいるものですね。時速100㎞超の世界では、一歩間違えたら、お互いに命を落としていたかもしれないのに」(Aさん)

2年経った今も、Aさんは当時の恐怖を忘れられず、ICが近づいてきたら、必ず右寄りの車線に移るようにしているという。ご承知のように、高速道路は一方通行である。当然、逆走となるUターンもバックも厳禁だ。そもそも、路肩や路側帯に駐停車することさえ、原則禁止とされているほど危険な道路上で、故意に逆走するなど、正気の沙汰とは思えないのだが、今回のような故意の逆走は、決して珍しいものではないのである。


何があっても逆走は厳禁。出口を通り過ぎたら、料金所で申告を

利用車の多い東名高速道路や中央自動車道などを管理するNEXCO中日本の調べによれば、逆走発生件数は、2015年の47件をピークに、本線合流部やランプ合流部、高速道路と一般道の接続部、休憩施設ランプ部・入り口部などで実施した逆走防止対策により、減少傾向で推移していたが、コロナ禍の2021年は増加に転じ、18年以降はゼロが続いていた死亡事故も、2022年1月、中央道で1件発生した。

「中日本管内では、15年をピークに健常者(認知症の疑い・精神疾患以外)及び故意の逆走件数は減少していますが、健常者の逆走も故意の逆走も、16年に大きく減らした後は、ほぼ横ばいで推移しているのが現状です」(NEXCO中日本・保全企画本部交通課・上水一路課長代理)

また、管内の逆走件数を年齢構成別に見た場合、約6割を65歳以上の高齢者が占めるという。しかしこれは、残りの約4割は65歳未満の高齢者ではないドライバーによる逆走が発生しているということでもある。逆走は高齢者や認知症によるものだけではないのだ。

認知機能の衰えによる逆走は防止対策が難しい問題とされているが、この非常識、問題外としか言いようのない故意による逆走の防止対策は、より一層困難かもしれない。故意の場合、本来のルートへ復帰するための逆走が5割超というデータもあり、特に目的のICを通り過ぎてしまったため、今回のようにバックやUターンをしたという事例が目立つという。

「もし目的のICを通り過ぎてしまった場合は、そのまま走行し、次のICで降りてください。IC出口では一般レーンを利用し、料金所スタッフに間違えたことを申し出ていただければ、スタッフが目的のICまで戻る方法を案内するので、その指示に従ってください。その際の通行料金は目的のICまでの料金で、超過料金はかかりませんので、ご心配なく」(同・保全企画本部交通課・山本隆課長)

この制度を知らなかったというドライバーは意外に多く、目的のICを通り過ぎてしまった際に、パニックに陥るなどして逆走の危険を忘れ、料金や時間の無駄だけを考えてしまった結果、ルールを無視した非常識な行動をとっさに取ってしまうことは、誰にでも起こり得ることなのかもしれない。このような逆走を防ぐために、NEXCO中日本では現在、ほとんどのICの出口を通り過ぎた先に、『出口間違いは次のインターでお申し出ください』などの注意看板を設置しているという。ドライバーはこの看板を目にしたら、Uターンやバックという危険極まりない逆走は、絶対にしてはならないということを思い出してほしい。

降りるICを間違えた人向けに掲示された看板

目的のICを通り過ぎてしまった場合はそのまま走行して次のICで降り、料金所の一般レーンで申告すれば超過料金はかからない(一部の料金所を除く)。

逆走注意の看板と路面に描かれた矢印

SAの入り口など、誤って逆走をしてしまいそうな場所では、看板や進行方向を示す路面の矢印などの対策がとられている。

「逆走車あり」と表示された電光掲示板

逆走車の情報をリアルタイムで知らせる技術も登場している。この掲示を見かけたら、速度を落とし、十分な車間距離をとって走行しよう。(写真提供=NEXCO東日本)

まとめ

高速道路での逆走は認知機能が衰えた高齢者が起こすものと思われがちだが、65歳未満の健常者が故意に起こす場合も少なくない。
降りる出口を間違えたときなど、逆走が頭をよぎる瞬間があったとしても、絶対に逆走してはいけない。次の出口の料金所で申告すれば超過料金はかからない。知識をしっかり身に付け、いざというときにも冷静に対処しよう。

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