見通しの良い交差点での事故に要注意
写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、見通しが良い交差点で起きる事故について解説する。見通しが良く走りやすいからといって油断は禁物だ。
交差点に突然車が進入。バイクはブレーキをかける間もなく…
田園風景が広がる郊外の道路は、視界を遮る建物等が沿道に少なく、ドライバーにとって最高に走りやすい道路かもしれない。事故多発地点とされる交差点には、信号機や横断歩道が未設置のところも少なくないが、その見通しの良さはドライバーに安心感を与えてくれる。しかし、残念ながら「安心=安全」ではない。見通しの良い交差点が与える安心感をドライバーが過信してしまった瞬間、悲劇への扉は開き、事故は起きる……。
2021年2月中旬のある晴れた日の午後、茨城県西部を縦断する片側2車線の国道を、2台のバイクが北進していた。中央分離帯側の車線を先行するのは、20歳代半ばの男性が跨(またが)る排気量750㏄の大型バイク。その後ろに、20歳代半ばの女性がハンドルを握る排気量250㏄のバイクが続く。信号の少ない国道を法定速度の時速60㎞前後を保ちつつ、晴天の下、2月の澄んだ冷たい空気を切り裂くように走り続ける2台のバイク。土色が延々と広がる冬の田園地帯の中を真っすぐ延びる片側2車線の国道は見通しが良く、左右の脇道から進入してくる交差車両の存在も容易に視認できる。彼らが事故の危険や不安などを感じることはなかった。しかし、事故は起きた。
先行する大型バイクが、右折レーンの設置された交差点に差し掛かったとき、突然、普通乗用車が左から交差点内へと進入し、中央の車線を直進する大型バイクの進路を塞いだのである。左右どちらかに避けることはもちろん、ブレーキをかける間もなく、乗用車の右側面後部に時速60㎞前後の速度で突っ込む大型バイク。大破、転倒した大型バイクから空中へと投げ出され、背中からアスファルトへと叩きつけられるライダー。事故はさらに続いた。後方を走行していたバイクが転倒した大型バイクに衝突し、転倒。見通しの良いはずの交差点で、3台の車両が絡む事故が発生してしまったのである。
茨城県警の調べによれば、当然ながら、被害はライダーらに集中。特に大型バイクの男性は、脊髄損傷などの重傷を負ったという。
「事故が起きた交差点には、信号機も横断歩道も設置されていませんでした。40歳代後半の男性が運転していた普通乗用車が進行してきた、センターラインの引かれていない道幅5.6mの市道側には、一時停止の規制標識が設置され、路面には停止線も引かれていました。男性ドライバーは交差点で国道へ右折しようとしていたようですが、右からきた大型バイクとの距離または速度を見誤ったのか、あるいは、大型バイクの存在自体を見落としてしまったことにより、大型バイク側が衝突を回避できないタイミングで交差点内に進入してしまったと推測されます」(茨城県警交通部交通総務課・鈴木敦雄管理官)
国道を走行していたライダーに違反等は一切なく、ドライバーの「右方の安全確認不十分」が事故の主な原因と推測されるという。また、交差点に進入する前に、ドライバーが一時停止の規制を守り、停止線の直前できちんと止まったか否かについては不明だという。
ドライバーの安全確認とライダーの危険予測で、事故は防げる
「残念ながら、見通しが良い交差点では、その他の交差点に比べ、どうしても油断が生じがちなのは確かです。一時停止の規制標識がある場合、停止線の直前、停止線がないときは交差点に進入する直前で一時停止し、見える範囲の左右の安全を確認後、少しずつ前に出て、交差車両に自車の存在を知らせたうえで、さらに左右の安全を確認した後、速やかに交差点内へと進入するのが基本です。また、この一連の行動の中で、自車のピラーによる死角に十分注意することも肝要です。これらをしっかり守りさえすれば、バイクを含めた車両との事故は防ぐことができると思われますが、道路環境によっては、左右が見にくい場合もあるので、そのことを踏まえたうえで、よりしっかりと安全確認をすることを忘れないでいただきたい」(鈴木管理官)
通常、幹線道路等に交差する狭い脇道などは、幹線道路より低くなっている場合が多く、そのため、交差する直前に傾斜を上る形となり、幹線道路にガードレールが設置されているところでは、見通しが少し悪くなる場合もあるのだという。ちなみに、今回の事故現場も、乗用車側の市道のほうが低く、国道にはガードレールが設置されていた。プロのオートバイレーサーの経歴を持つ大阪国際大学人間科学部人間健康科学科の山口直範教授(交通心理学)は、見通しの良い交差点では、バイク側が優先道路を走っていても、車側に気を使って走っているので、同様の事故はそれほど多くないだろうと語る。
「右直事故と同様に、見落としはもちろん、距離や速度の見誤りなどによる車側の無理な交差点内への進入はよくあること。ライダーの多くは、もしかしたら脇道の車が急に出てくるのではと常に危険を予測し、一時停止している車の頭を視認したら、減速をしたり、右側の車線に寄せたり移ったりなど対処しています。その結果、未然に防がれた事故はかなり多いと思います。ルールを守っているのはバイク側で、悪いのは車側なのだから、気を使う必要などないと言うライダーもいますが、事故が起きれば、被害を受けるのはバイク側ですから。命を落とすこともあるし、脊髄損傷等の重傷を負って、車いすや寝たきりの生活となることもある。受傷して困るのは本人だけでなく、家族や職場など周りの人たちの生活も困ることになるのです。それを考えたら、どっちが良い悪いにこだわることには何の意味もないことはわかると思うのですが……」(山口教授)
しかし、多くのライダーが危険を予測し、危機回避行動を取っているとしても、現実には今回のような事故は後を絶たない。ライダーが不運にも事故に巻き込まれた際に、被害を最小限に抑える準備も重要になってくると、山口教授は警告する。
「頭部の被害が圧倒的に多い原付とは違い、普通二輪以上の趣味で乗るバイクの死傷事故では、頭部と上半身が半々になるのです。上半身とは胸部と背中のケガですが、特に事故後の人生に大きく影響する脊髄損傷を防ぐための脊髄パッド・プロテクターの装着は重要。効果の大きいカーボン製等のハードタイプがベストですが、ソフトタイプでも衝撃の吸収は未装着時とは大きく変わりますから。加えて、肩・肘・胸のパッド等を装着すれば上半身はほぼ完璧。家族のためにもパッド類の装着は必須です」(山口教授)
もちろん、まず事故を未然に防ぎ、被害者を生まない努力をすべきはドライバー側。見通しの良さに油断などすることなく、確認すべきことを一つひとつ確実に行い、決して慌てることなく、落ち着いて交差点へと入る運転を身に付けたい。
ピラーによる死角は思ったより大きい。ドライバーはピラーの死角にバイク等が隠れている可能性を、ライダーはドライバーから自分が見えていない可能性を意識することが大切。
ライダーは、自分が優先道路を走っていても「脇道から車が出てくるかもしれない」と常に危険を予測しよう。車を視認したら、まずはブレーキによる減速で危険を回避すること。
万が一事故に遭った際、被害を最小限に抑えて自分や家族の人生を守るために、ライダーはパッドやプロテクターを装着することが重要。写真のプロテクターには、肩や肘はもちろん、胸や脊椎などの箇所に衝撃吸収素材が装備されている。