懐かしの「昭和カルチャー探検隊」

こんなのあったんだ! 奇妙な昭和レトロ家電大百科【前編】

2022.06.06

文=寺田剛治/撮影=田口陽介

2022.06.06

文=寺田剛治/撮影=田口陽介

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

アニメ『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』を見ると思い出す。そこに描かれているのは、スマホもパソコンも薄型の液晶テレビもない、昭和スタイルの“茶の間”。居間には家具調のブラウン管テレビが鎮座し、台所にはグリーンの2ドア冷蔵庫。そして中島やたまちゃんから遊びの誘いがかかってくるダイヤル式の黒電話……。また、リサイクルショップや古道具屋で、色鮮やかな模様のポットや炊飯器を見かけて「こんな家電見たことない!」「かわいい!」と胸ときめいた経験がある人も、少なくないのではないだろうか。そんな昭和家電を収集しているのが冨永潤さんだ。コレクション数は、なんと約1万点!

そんな規格外のコレクターに、なぜ昭和家電は人をひきつけるのか? その理由を聞いた。さらに、後編では「こんなのあったんだ!」と驚く、ユニークなモデルも多数登場。前編となる今回は、規格外のコレクター・冨永潤さんに昭和家電の世界を案内してもらった。

『マツコの知らない世界』(TBS)に3度も出演!

『マツコの知らない世界』(TBS)に3度も出演!

昭和家電収集家 冨永 潤

とみなが・じゅん 1969年、三重県生まれ。昭和に製造された家電や日用品を収集するために7000万円をつぎ込んだコレクター。三重県発の地域ドラマ『ラジカセ』(NHK)では、俳優・滝藤賢一が演じた主人公のモデルにもなった。現在は映画やテレビドラマで昭和のシーンを撮影する際の美術品として、それらを貸し出す「昭和ハウス 」を運営する。

“忍者の里”に昭和家電収集家は棲んでいた!

昭和カルチャー探検隊が向かったのは、名古屋からクルマで2時間ほどのとある場所。“忍者の里”として知られるその地に、われわれが“密書”(←取材依頼のメールですね)を送った人がいる。昭和家電収集家の冨永潤さんだ。

指定された住所に赴くと、冨永さんは挨拶もそこそこに、額にかかった髪をかき上げながら、「ブツは、ここからさらに30分くらいクルマで行った場所に保管してあります。僕の後についてきてください」と言う。住所は教えてくれない。なぜか無言でうなずき、言われるがままにクルマでついていく隊員たち。「われわれは一体どこへ行くのか……」。ん? 以前もこんなことがあったような……デジャブ? 

到着したのは、山あいにある小さな集落。そこに周囲の民家とは一線を画す倉庫が現れた。「こちらです。少し……というか、かなりゴチャゴチャしているので、取材したい家電があれば言ってくださいね。探しますので」。笑顔でそう話しながら、冨永さんはガラリと倉庫のドアを開けた。

大量の昭和レトロ家電が保管されている冨永さんの倉庫

ジャーン! 倉庫に保管されている昭和家電たち。

中に入るとそこは……昭和家電のラビリンスだった! 

右を見れば扇風機、左を見ればラジカセ、奥に見えるのはブラウン管テレビか!? ファミコン特集でも、似たような場所を訪れたので、われわれ探検隊も慣れたもの。躊躇(ちゅうちょ)することもなく、冨永さんとともにグイグイと奥へと進む。

所狭しと並ぶ扇風機の数々

所狭しと並ぶ扇風機の数々。青い透明なファンが懐かしい。

家電以外にも収集している三輪自動車や自動販売機

家電だけでなく、三輪自動車や自動販売機なども収集。

昭和家電のラビリンスの中でも、目当てのものをすぐに見つけられる冨永さん。

倉庫内はラビリンス状態でも、すぐに目当ての昭和家電を見つけられる冨永さん。

ラジカセコーナーで発見した、かなりレアな1985年製トリプルラジカセ

ラジカセコーナーで発見したトリプルラジカセは1985年製で、かなりレアもの!

しかし倉庫の中にある収集品は、どれもひと目で古いものであることはわかるものの、目的の家電かどうかはわからない。取材時間は限られている! どこにあるのか、冨永さんはすぐに見つけてくれるのか? 一抹の不安を抱えていた探検隊だったが、その心配は杞憂(きゆう)に終わることとなる。

「あ、あの何かおもしろいラジカセって、ありますか?」と聞くと、迷路のような通路を迷うことなく進み、ラジカセのコーナーへ。サッとひとつ取り出して、「これはナショナル、あ、今のパナソニックさんが出したトリプルラジカセですね。『ラブコールトリプル RX-F333』といって、2巻同時にダビングできたので、テープのコピーを何本もする際に便利でした。確か、1985年にグッドデザイン賞も受賞しましたよ」とうんちくをスラスラと。「おぉ〜、さすがコレクター! では遠慮なく……」と、撮影したい家電を次から次へと冨永さんに伝えていく探検隊。お目当ての家電をひと通りそろえ終えたところで、いよいよ冨永さんに、なぜこんなにたくさんの昭和家電を集めているのか、聞いてみた。

昭和家電が宿す“特別な機能”とは?

冨永:20年くらい前なのですが、たまたまリサイクルショップに行ったとき、壁掛けの古時計が売られていたんです。壊れていたから2000円くらいだったかなぁ。子供の頃に家で使っていたものと同じというわけでもなんでもなく、「レトロで懐かしい感じがイイ」「それに安い!」と、ただそれだけの理由で買ったんです。初めのうちは、壊れていたので飾っていただけだったのですが、「せっかくなら修理しよう」と思って使いはじめたのが、コレクションを始める引き金になりました。

昭和レトロ家電ミュージアムをつくりたいという夢を話す冨永さん

冨永さんの夢は、昭和家電ミュージアムをつくること!

冨永:昭和の壁掛け時計って、ずっと「カチカチカチカチ…」と音を立てながら秒針が動くし、1時間ごとに「ボーン♪」と音が鳴りますよね。夜中だろうとおかまいなしに(笑)。最初のころは鬱陶しいし、夜は止めておきたい、なんて思っていたのですが、次第にその“不便さ”が逆にイイと思うようになったんです。最初はその壁掛け時計だけだったのですが、それに合う昭和レトロなものをリサイクルショップや古道具屋さんなどで探すようになって……。茶だんすを買ったら、その上にラジカセを置いてみたり、丸いちゃぶ台を買って、やはり昭和の居間の象徴、テレビを買って置いてみたりするようになったんです。

特にテレビとラジオは、最初はただ“古い”というだけで購入していたのですが、「もっとカッコいいもの」「もっとおもしろいもの」などと思うようになり、デザインを重視して買うように。そのうちテレビが複数台になると、時代によるデザインの変遷、メーカー特有のデザインが無数にあることが見えてきたんです。そこからですね、僕のコレクションが始まったのは……。

日本に数台しか現存しないといわれる『TVK-Ⅱ型』テレビ

日本に数台しか現存しない「TVK-Ⅱ型」の1台を冨永さんがコレクション。

冨永:僕を昭和レトロ家電の沼に引き込んだ、テレビの進化について簡単にお話ししましょう。まずは僕のコレクションの中でもっとも古いのが、この東大無線が発売した、昭和27年式の「TVK-Ⅱ型」です。NHK放送技術研究所がテレビを家庭用に商品化するにあたって結成された、テレビ部品技術研究会(TVK)が、TVK-II型からⅥ型までの受像機を開発。これは家庭用に商品化されたテレビの第1号といわれています。画面サイズは非常に小さく7インチしかありません。

真空管白黒テレビのナショナル『T-1447』

真空管白黒テレビのナショナル『T-1447』は、昭和33年発売。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の撮影に使われた。

ナショナル『TK-220DR』

ナショナル『TK-220DR』。赤外線式になる前に主流だった音波リモコンが付いている。家具調のテレビ台付き。

冨永:テレビの何がおもしろいかというと、機能と関係ないところで勝負しているところなんです。たとえば、ラジオなんて音が出るだけだし、テレビもブラウン管なので基本は四角形。そうすると、やっぱり見栄えがよくなければ買ってもらえないので、金の装飾をつけて高級に見せるなど、デザイン合戦の様相になっているんですよ。これって、今の家電にはない話で、薄型液晶テレビは電源を切ったらただの黒い板なので1分も眺めていられないけれど、昔のテレビは、番組を流さなくても“それ以外”のところに楽しむポイントがいっぱいあるんです。

デザインの変遷でおもしろいといえば、昭和40年代によく見られた“花柄”ですね。炊飯ジャーやミキサー、冷蔵庫、洗濯機などによくあしらわれていました。なぜ流行したかは正確にはわかりません。が、聞いた話によると「女性は家を守り、男性は外に働きに出る」のが当たり前とされていた時代に、花柄の家電で女性に和んでもらうためにつくられたとか。ジェンダーレスがうたわれる今、“女性のためにつくった生活家電”というのも、“花柄は女性が喜ぶ”というのもナンセンスなんですけれど、当時はそういう時代だったんですよね。

花柄のデザインをあしらった魔法瓶3つ

花柄のデザインをあしらった魔法瓶。時代が新しくなるにつれ、イラストが簡略化されていった。

冨永:ところで、ポットを3つ並べてみましたが、同じ花柄でも少しずつ変わっていることに気が付きましたか? 左から古い順に並べたのですが、一番左の昭和40年代前半の商品では写実的な花柄が描かれているのですが、時代が新しくなるにつれて抽象化され、最後には幾何学模様で花を表現するようになるんです。

緑色のブラウン管テレビ

冨永さん所有の緑家電の多くが、映画『とんび』の美術品として貸し出されていた。そんな中、唯一残っていたのが、このブラウン管テレビ。チャンネルがダイヤル式ではなく、スイッチになっているところも昭和後期のデザインらしい。

冨永:“花柄家電”につづいて、昭和の終わりごろに訪れたのが“緑家電”ブームですね。ワインレッドの冷蔵庫などもありましたが、やはり昭和後期を象徴する家電というと緑! と、多くの人がイメージするようです。実際、映画『とんび』の昭和を描くシーンのために貸し出したのも“緑家電”ですからね。なぜ緑色のブームが起きたかは正確にはわかりませんが、緑色は目に優しいとか、どこかホッとする色だとか、そんな理由で人気になったのかもしれません。

これまで昭和家電について話してきましたが、当時の思い出がよみがえりませんか? 実は僕、夢があって、これらのコレクションを展示して多くの人に見てもらうミュージアムをつくりたいと思っているんです。今もたまに行っているのですが、こうした古いコレクションを養護老人ホームなどに持っていくと、シニアのみなさんが楽しそうに思い出話をされるんですよ。

僕が初めて壁掛け時計を買ったときのように、みなさんの気持ちを動かしているんじゃないかなと……。それって最新のものではなくて、昭和家電が時を経て搭載した“特別な機能”なんだと思いますね。これから紹介する、ちょっとユニークな昭和家電も、きっと読者のみなさんに喜んでいただけるかと! では、続いて僕のコレクションをご覧ください。


後編ではいよいよ、冨永さんのコレクションの中でも、珍しいユニークな昭和家電をご紹介します!

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