ダックス、マメタン、ミニトレ…働くバイクからレジャーバイクへ

愛すべき昭和の原付物語 1970年代編

世の中に数多(あまた)ある乗り物のなかでも、原付は不思議だなぁと思う。なにしろ、ともすれば特殊な乗り物と思われがちなバイクのイメージを、総排気量50cc以下(定格出力0.6kW以下)と限定された原付があっさり覆してしまったりする。と考えると、バイクの魅力や楽しさを理解するのに排気量やパワーの大きさなんて基本的には関係ないんだな、とあらためて思う。そんな原付が人々のライフスタイルに寄り添うように進化した1970~80年代には、たくさんの個性的で魅力的なモデルが生まれた。あの愛らしくも素敵な原付たちを振り返り、まるで自分の背中に羽が生えたかのような感動を覚えた昭和の「あの日」を、思い出してみたい。

タフで頼れる道具からの華麗なる転身
70年代原付たちはオシャレ揃いだった

「暮らしに根付いたバイク」として忘れてならないのは、なんといってもホンダ・スーパーカブだろう。そのデビューは1958年にまで遡り、世界中で高い評価を受けながら進化を続け、2017年には世界生産累計1億台を達成している。デビューと同時に爆発的に支持されたスーパーカブの成功を受け、1960年代以降にはヤマハ・メイトやスズキ・バーディーなども生まれる。こうして、いわゆる「ビジネス・バイク」というジャンルが確立し、瞬く間に社会に溶け込んでいった。

これら「働くバイク」の守備範囲は実に幅広く、新聞屋さんや牛乳屋さん、郵便配達におそば屋さんの出前、銀行員の外回りに駐在さんの巡回などなど、いたるところで見られるようになる。同時に、そこでの活躍で「タフで頼れる道具」としての地位を確立し、いつの間にかバイクは生活のなかで見慣れたものへと変わっていった。

そんな1967年、突如ホンダ・モンキーが現れる。実用一点張りのビジネス・バイクとは似ても似つかぬ愛らしい姿。それは一部のマニアのための乗り物と思われていたバイクとも、まるで違っていた。たとえるならば、最新ファッションに身を包んだモデルさんが建設中のビル現場に現れたようで、初めて見たときの驚きはキングコングどころじゃなかったと個人的には思う。なにしろ、ひと目でニッコリさせられてしまうのだ。そんなパワーはゴジラにだってない。

あらためて思い返すとエポックメイキングなモンキーの登場は、まるで来たるべき70年代を予見しているかのようだった。その後も愛らしいモデルがメーカー各社から続々と街中に解き放たれ、やがて「ファン・ビークル=楽しい乗り物」とか「レジャー・バイク」などと呼ばれるようになる。

それまでに類を見ないニュー・カマーたちが躍進するなか、「オンロード」や「オフロード」など従来ジャンルにも変化が生じ始める。具体的には、各ジャンルのなかで特徴や特性がより明確になり、目的や狙いの細分化も進んで本格志向が強まっていく。しかも、そうした傾向はデザインにも大きく影響した。要するに、どんどんカッコ良くなっていったのだ。

たとえばボディーカラーだけを見ても70年代から一気に使用色が増え、鮮やかでポップになる。と言ってしまえば簡単だが、単に奇をてらっただけでは当然ない。たゆまざる技術革新による性能向上という、当時の日本の勢いとモノ造りマインドに裏打ちされた説得力も感じさせた。そのうえで各モデルごとのキャラクターも際立たせたのだから、簡単に済ませてしまえる話ではないだろう。

また、こうしたことは排気量のヒエラルキーも覆していく。たとえばホンダのCBシリーズには50ccから750ccまでさまざまな兄弟車があるのだが、ともすると小排気量車は軽んじられがちだった。しかし、それぞれの排気量で独自の個性を打ち出し、決してコストダウン車などではないことを明確に主張したのだ。

では、そんな70年代に生まれた個性豊かなモデルたちをジャンル別に振り返ってみよう。

レジャー・バイク

1969年発売ホンダ・ダックスの画像

1969 ホンダ・ダックス

「ダックス」の名のとおりダックスフント犬がデザインイメージ。モンキーと同じく折りたたみ式のハンドルを採用し、車に載せて運ぶことも考慮されていた。
当時価格:66,000円

1972年発売スズキ・バンバンの画像

1972 スズキ・バンバン50

通常よりも太いタイヤを採用することでビーチサイドなど砂地での走破性も向上、楽しみのフィールドを広げてくれるモデルだった。
当時価格:78,000円

1976年発売ヤマハ・ボビィの画像

1976 ヤマハ・ボビィ

スタイリッシュなデザインに似合いの名前は「気ままにポンと弾むような」という意味を持つ英語bobからだという。その名のとおり軽快な走りが魅力だった。
​​​​​​​当時価格:99,000円

1977年発売スズキ・マメタン50の画像

1977 スズキ・マメタン50

低いシート高と手前に引かれたプルバックハンドルなど、原付でアメリカンスタイルを実現。燃料タンクもクラスとしては大容量の5.5L。
当時価格:109,000円

オンロード

1971年発売ホンダ・CB50の画像

1971 ホンダ・CB50

当時バイク市場の主流は2サイクルだったが、ホンダは4サイクルで孤軍奮闘。ホンダらしい10,500rpmという高回転で6ps(馬力)を絞り出した。
​​​​​​​当時価格:75,000円

1973年発売ヤマハ・RD50の画像

1973 ヤマハ・RD50

ヤマハのオンロード・スポーツモデルのシリーズ名である「RD」を冠した初の50ccモデルで、原付クラスでは初となる油圧ディスクブレーキを前輪に採用した。
当時価格:98,000円

1977年発売スズキ・RG50の画像

1977 スズキ・RG50

スズキ独自のパワーリードバルブ方式を採用したエンジンは6.3psを発揮。新開発のフレームとも相まって俊敏な走りを見せた。
当時価格:119,000円

1979年発売ホンダ・MB50の画像

1979 ホンダ・MB50

ホンダが満を持して送り出した初の原付2サイクル・スポーツは、ライバル車を凌駕(りょうが)する7psのクラス最高出力を誇った。
当時価格:136,000円

オフロード

1971年発売スズキ・ハスラー50の画像

1971 スズキ・ハスラー50

走る道を選ばない本格スクランブラーを自ら標榜(ひょうぼう)して誕生。オプションとしてモトクロッサーキットパーツも用意され本格レースにも対応していた。
当時価格:75,000円

1972年発売ヤマハ・GT50の画像

1972 ヤマハ・GT50

レジャー・バイクのテイストを持つスモールサイズながら、本格オフロードの走破性能を兼ね備えた万能選手。「ミニトレ」の愛称で人気だった。
当時価格:74,000円

1975年発売ヤマハ・TY50の画像

1975 ヤマハ・TY50

当時始まったばかりの新たなオフロード競技、トライアルの入門機として登場。競技の難しさや面白さ、その奥深さまで教えてくれるモデルだった。
当時価格:98,000円

1976年発売ホンダ・XE50の画像

1976 ホンダ・XE50

4サイクルの利点である粘り強さを生かした、クロスカントリーモデルとして登場。速さや効率だけではない「走り」を求めるライダーに支持された。
当時価格:109,000円

スクーターの萌芽(ほうが)とファミリー・バイクの誕生
そして空前絶後のバイクブームへ

70年代の中盤を過ぎた1976年、ホンダはロードパルをリリースする。さまざまなメディアを駆使して大々的に打ち出されたCMは、ホンダの本気をみなぎらせた力の入ったものだった。なにしろメインキャラクターに起用されたのはヨーロッパの大女優、ソフィア・ローレンさんだったのだ。その狙いがバイクという商材にとって、どうしても二の次にされがちだった女性ユーザーの取り込みにあったことは疑うべくもない。

バイクがバイクであるがゆえに誤解され、敬遠されがちだった状況が少しずつ、けれど着実に変わってゆくなかで、そのCMは実に効果的だった。いわれなきネガティブさが払拭され、文字どおり家族の一員として迎え入れられることになる。そう、「ファミリー・バイク」という新たなジャンルの誕生だ。

この大成功の翌1977年、ヤマハはパッソルを送り出した。ロードパルと同じく力の入ったCMには、聡明で美しく、そして優しい「日本のお母さん」を象徴するような女優、八千草薫さんを起用。そして、ロードパルが車体をまたいで乗る構造だったのに対して、パッソルは両足を揃えて乗れるステップスルー構造だった。と、文字にすれば大差ないようにも思えるが、当時この違いは論争にすらなった。すなわち、「スクーターであるか、否か」だ。

かくして70年代バイク市場からは数多くのモデルが生み出され、それを受け入れるライダーを社会が育んだ。そして、その勢いは「空前の」とまで評された80年代バイクブームへと突き進んでゆく。70年代は、そこへと至る熱くて素敵な助走期間だったのかもしれない。

ファミリーバイク

1976年発売ホンダ・ロードパルの画像

1976 ホンダ・ロードパル

ボタンひと押しで始動するセルはまだ搭載されておらず、「タップスターター」というゼンマイ式を採用し女性でも無理なく始動できた。愛称は「ラッタッタ」。
当時価格:59,800円

1977年発売ヤマハ・パッソルの画像

1977 ヤマハ・パッソル

エンジンやチェーンなどの駆動系がカバーされ、衣類への汚れに配慮したデザインと造りも女性ユーザーに高い評価を受けた。
当時価格:69,800円

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