昭和完全再現の台所、和室に驚愕! リアル昭和住宅の住み心地や、如何に!?
昭和の暮らし再現編【後編】子供の頃に暮らしていた団地の取り壊し、レコード店、食堂の閉店など、昭和の思い出が詰まった場所がなくなっていくのを目の当たりにするうちに、昭和への関心が高まっていった、という平山 雄さん。そんな中で始めたのが、昭和の暮らしを完全再現した一軒家での生活だった。 「昭和カルチャー探検隊」と名乗るならば、時代の“遺物”ではなく実際に日々の暮らしで活躍する昭和グッズたちを見てみたい……! そんな使命感に駆られて緊急出動した前回。後編も引き続き、隊員たちも垂涎(すいぜん)の“昭和”を体現する平山さんのご自宅を探訪。今回は台所と和室のこだわりを聞いた。
昭和の暮らし再現編【前編】
- 平山 雄
ひらやま・ゆう 1968年、東京生まれ。2007年頃より「昭和スポット巡り」と題して昭和を体感できるスポットをブログ、Instagram、TwitterなどのSNSを通じて紹介し続けている。これまで訪れたスポットは「数え切れない」というものの約2,000か所という。現在、昭和47(1972)年築の一軒家を購入し、完全に昭和スタイルの暮らしをしている。近著に『昭和遺産へ、巡礼1703景』(303BOOKS)がある。
廊下との区切りは、ビーズの玉のれん。奥には昭和感にあふれる台所が見える。
平山さんの並々ならぬこだわりは、洋間だけではない。続いて探検隊が案内されたのは、台所だ。ここもまた洋間同様に、玉のれんをくぐるスタイル。数珠のように連なるビーズがジャラジャラと音を立てつつ顔や背中に当たる感覚が懐かしい。
台所。家電、食器、テーブル、床……ここにあるすべてが昭和に作られたもので彩られている。
ここもまたタイムスリップしてしまったのか!? と思うほど完全再現された昭和の台所。川端康成の『雪国』の書き出しではないが、「玉のれんを抜けると昭和であった」などと思った隊員がいたとかいないとか。閑話休題。ちなみに、調べてみると川端康成が鬼籍に入ったのは昭和47(1972)年。くしくも平山さん宅が建築された年と同じだった。
床に敷かれている市松模様のPタイルは、この家が建てられた当時から使われているものだ。
石目調のシンプルなベースに、モミジ柄を散らした板ガラス。今では希少価値が高いという。
平山 雄(以下、平山):冷蔵庫、炊飯器、電子レンジなど、ここにある家電はどれも昭和中期に販売されていたものばかりです。もちろん、全部現役で使っています。
日立の電子レンジ「MR-600F」。ダイヤル部分に赤、目盛り部分に緑が配色されているところに昭和を感じる。
たとえば、これは日立製の電子レンジ「MR-600F」。加熱時間をダイヤルで設定し、電源をオンにすると右上の「調理」と漢字で記されたランプが赤く光る。問題なく使えているのだろうか?
平山:ターンテーブルがないタイプなんですけれど、ちゃんと温まりますよ。
タイガー「炊きたて JCA-070」。その横にあるのは、東芝のゆで卵器「BC-320」だ。
電子レンジの上にあるのはタイガーの「炊きたて JCA-070」。昭和の時代には炊飯機能しかない炊飯器も多かったが、こちらは保温機能付きの電子ジャー炊飯器だ。グリーンのストライプに愛嬌(あいきょう)を感じる。
平山:4合炊きのモデルなんですよね。これも問題なく使えるのですが、一人暮らしなので休眠状態です(笑)。
昭和50年代頃に流行した緑色の冷蔵庫も現役だ。
そして最も存在感があるのが、昭和を生きた人であれば、誰もが一度は目にしたことがあるであろう、“あの緑色”の冷凍冷蔵庫だ。
平山:これも日立製です。僕の実感なんですけれど、日立、ナショナル、東芝の製品は古くても壊れにくくて、長く使えるんですよね〜。なんだかんだ、メイド・イン・ジャパンの凄(すご)さを感じます。
昭和時代、どの家にもあった給湯器。これは、東芝「PH-52(LPガス用)」。
次に隊員たちが「懐かしい!」と連呼したのが、流しの上に設置されているガス給湯器だ。
平山:これはリサイクルショップで見つけたのですが、ガス屋さんに取り付けをお願いしたところ、型が古すぎるという理由で断られたこともありました(笑)。
当時のパッケージデザインの食器用洗剤「ママレモン」。
食器棚の上にはかき氷器の「きょろちゃん」の姿も。
驚くのは家電だけではない。流しの上に置いてあった食器用洗剤が「ママレモン」だったのだ。ママレモンは昭和40(1965)年にライオンが発売した食器用洗剤。CMで使われていた「ママレモーン♬」というメロディーがよみがえってくる。
平山:実は今も現役で販売されているんですよ。でも、これは昭和時代に発売されたパッケージ。中身は、別のものを入れて使っています。何でそんなことをしているかというと、時代にそぐわないものを置きたくないんですよ。だから、歯磨き粉やクレンザー、殺虫剤なども当時のものをそろえています。
食器棚には、平山さんが買い集めた花柄のデザインがあしらわれたコップがいくつも並んでいた。
平山:コレクターとは異なり、あくまで日常で使うものだけを購入しているのですが、いつの間にか増えてしまったものがコップです。この時代のガラスコップは花柄だったり、幾何学模様だったり、優れたデザインのものが多いんですよね。衝動買いをしているうちに、棚がコップだらけになってしまいました(笑)。
昭和感にあふれる和室。赤いチェック柄の座布団を選ぶあたりに平山さんのセンスが光る。
最後にお邪魔したのが洋間と台所の間にある、こちらの和室。普段、平山さんは主にここで過ごしているという。最近の家ではあまり見なくなった床の間がある6畳の空間を彩るのは、座卓、その四方に赤い座布団、ブラウン管テレビに石油ストーブなどなど。ここも完璧に昭和が再現されていた。
同じ和室。冬にはこたつを用意するとか。ピンク色の天板、緑色のチェック柄のこたつ布団がかわいい。
平山:今まで、さまざまな昭和スポットを巡ってきました。昭和を再現した資料館にもよく足を運んでいたので、この部屋もその影響を受けたと思いますよ。
床の間に飾られていたのは、ハブ(?)VSマングースの剥製! 床柱にも懐かしさを感じる。
猫の置物の横にある子供の人形は、平山さんが2歳の頃、母からプレゼントされたものだとか。
壁には昭和の土産物の定番であったペナントと虎の絵画も。このカオス感も昭和ならでは。
気になるのはブラウン管テレビ。台所で見た家電の多くが現役で稼働するのはわかるが、テレビだけはさすがに別物か。平成23(2011)年にアナログ放送が終了した際、ブラウン管テレビが多くの家庭から消えたからだ。これは、ただの昭和を演出するための飾りなのだろうか?
平山:いえいえ、これも現役で使っています。もちろん地上波は映りませんが、DVDプレーヤーをつないで昭和に放送されていたテレビ番組の録画を観ています。
和室に鎮座するブラウン管テレビ。「もともと白黒でしたが、中身だけ入れ替えてカラーにしました」(平山さん)
そう言うと、平山さんはおもむろにDVDを収めた分厚いファイルを取り出した。そして、数あるDVDの中から1枚をプレーヤーにセットしてくれた。画面比率4:3のブラウン管テレビに映し出されたのは『君こそスターだ!』。昭和48(1973)年〜昭和55(1980)年まで放送されたオーディション番組で、司会は三波伸介(初代)。取材そっちのけで、食い入るように見入る隊員たち。
隊員:岡崎友紀が歌っている! ドラマ『おくさまは18歳』で、石立鉄男と夫婦役を演じていましたよね。おっと、次のゲストはキャンディーズじゃないですか!!
『君こそスターだ!』を鑑賞する平山さん。
平山:これはスーちゃん(田中好子)がセンターで歌っているので、昭和50(1975)年より前の映像ですね。かなり貴重な映像ですよ。こんなふうに昭和の番組ばかりを楽しんでいます。
ここで最も気になることを聞いてみた。昭和のものに囲まれる暮らしに、実は不便を感じているのではないか……と。
平山:生活に必要なものはひととおりそろえたので、不便を感じたことはないですね。終戦直後だったらともかく、僕が完全再現しているのは、自分が子供の頃に過ごしてきた昭和中期の暮らし。当時、不便を感じましたか? ありませんでしたよね。そもそも、最新のものに興味がないのもありますが、こんな暮らしができてとても満足しています。スマホこそ使っていますけれどね(笑)。
昭和“完全再現”の暮らし、いかがでしたでしょうか。便利なものが当たり前にあふれている今、あえて、なにもかもが昭和な一軒家で、昭和の家具を日常使いし、昭和歌謡や懐かしの映像を楽しむ平山さん。大好きなものに囲まれた暮らしのなかには、便利さ以上の心を満たす豊かさがあるのかもしれません。