森永康平 幸せと限界効用の逓減

森永康平

「幸せって何だろう」は、小説家、エッセイスト、俳優、タレントなど、さまざまな分野の方にご自身の「幸せ」についての考え方や、日々の生活で感じる「幸せ」について綴っていただくエッセーです。 今回の執筆者は人の暮らしを経済を通し、さまざまなメディアで発信されている森永康平さん。そんな森永さんの感じる人々の幸せとは?

幸せと限界効用の逓減(ていげん)

私は現在、金融教育ベンチャーのマネネという会社を経営しながら、国内外のベンチャー企業の財務コンサルティングをしている。また、経済アナリストとして経済指標や企業業績を分析して、経済政策や事業計画の提案なども行っている。

平たく言えば、お金に関する仕事をしているということだ。このような環境にいると、いわゆる富裕層と接する機会も自然と増えてくる。ひと言で富裕層といっても、その身分はさまざまである。経営者もいれば、地主もいるし、若くして投資で数十億円の資産を築いた人もいる。

経済アナリストとして、経済指標を分析して現在の経済環境を理解するのだが、それだけだと机上の空論になりかねないため、私は足繫(あししげ)く実地調査も行っている。コロナ禍で業績が悪化し、いまにも倒産しそうな零細企業の経営者や、女手一つで2人の子供を育てるシングルマザーなど、苦しい環境下にある当事者から話を聞く一方で、前述の富裕層とも話をしていると、本当に同じ国で起きている現象なのかと眩暈(めまい)がすることも多い。


さまざまな人たちと話をしていて感じるのは、持っているお金の量と幸福度にはそれほど強い相関はないということだ。もう少し正確に言うと、ある程度はお金があったほうがいい。少なくとも生活に困らず、多少の余暇を楽しめるぐらいの経済的余裕は必要だろう。しかし、それ以上になってくると、持っているお金の量が増えても幸福度はそれほど上がらないように見える。経済学でいうところの「限界効用の逓減」という現象だ。

むしろ、莫大(ばくだい)なお金を手に入れたことでかえって不幸になってしまった人も数多く見てきた。幸せの尺度が自分の中に明確にあれば、お金がなくても幸せな人生を送ることは可能だが、他人との比較や他人からの評価など、幸せの尺度が外部に依存している人は不幸になる傾向が強い。

特にこの傾向はTwitterやインスタグラムといったSNSが助長してしまったと考えている。従来は可視化されていなかった他人の生活が見えてしまい、他人からの評価や反応も数字で見えてしまうからタチが悪い。しかし、ネット上にアップされた写真など、その多くが粉飾された虚構に過ぎないし、他人が下した評価など何も意味をなさないのだが、幸せの尺度が外部にある人は張り合って無駄に疲弊していってしまう。


本当に幸せになりたいのであれば、お金を追い求めたり、他人からの評価を気にするのではなく、人生を送る中で築き上げられた自己の幸せの尺度にのみ正直になるべきなのではなかろうか。

森永康平

もりなが・こうへい 1985年生まれ、所沢市出身。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。父である森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』など著書多数。

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