堂場瞬一 食べる幸せと痩せる幸せ
「幸せって何だろう」は、小説家、エッセイスト、俳優、タレントなど、さまざまな分野の方にご自身の「幸せ」についての考え方や、日々の生活で感じる「幸せ」について綴っていただくリレーエッセーです。 今回は「刑事・鳴沢了」シリーズや「チーム」シリーズなどの著者・堂場瞬一さんが、相反する2つの幸せについて綴ってくださいました。
食べる幸せと痩(や)せる幸せ
ジム通いを始めて、今年でちょうど20年になった。きっかけは、体重がかなりやばい水域に達してしまったことだ。しかし当時は、食事制限しようなどという気はさらさらなかったので、自然に、体を動かして減量しようと考えた。「仕事は休んでもジムは休まない」というモットーで、週3回のペースで通い続けている。
さほど負荷をかけなかったので、急激には痩せなかったが、それでもこれまでゆっくりと、16kgほど落としてきた計算になる。無理しない範囲で、まあまあ上手くやってきたと思う。
しかし2021年になって、体重は激しくリバウンドした。コロナ禍による緊急事態宣言下、楽しみといえば家で美味(うま)いものを食べることぐらい。ジム通いは続けていたものの、何となく単なる習慣になってしまって、体重は春先から秋にかけて徐々に増え、人間ドックの結果は散々なものになった。
そこで一念発起して、より真剣にダイエットに取り組むことにした。食事に少し気をつけて炭水化物の摂取を減らし、ジム通いの他に、週2回のウォーキングを追加。
こういう生活を始めて半年弱、体重は順調に下向きカーブを描いて、3kg以上減った。適正体重に至る道はまだまだ長いが(あと5kgぐらい)、決して諦(あきら)めてはいない。以前、知り合いの医者が口にした名言「筋肉は何歳になっても成長する」が、私にとっての金科玉条なのだ。筋肉が育つなら、ダイエットだって何歳になってもできるだろう(たぶん)。
とはいえ、常に思うように体重をコントロールできるわけではない。人間の体とは実に不思議なもので、あまり食べなかったはずなのに翌朝体重が増えたり、ドカ食いしたりウォーキングをサボったりしたのにぐっと減ったりと、予想できないことがしばしば起きる。
しかし、ずっと記録し続けている体重のグラフは、このところ基本的に右肩下がりで、日々眺めてはニヤニヤしている。朝イチで体重計に乗って、前日より減っていると分かった瞬間の幸せといったらない。軽くガッツポーズが出るぐらいだ。
と言いつつ、痩せることだけが幸せではない。食べる幸せだって放棄したわけではないのだ。これを書いているのは夜の10時過ぎ。明朝の体重の変化を考えながら、果物を食べようかどうしようかと迷っている。
食べる幸せか、減量の幸せか。
堂場瞬一
どうば・しゅんいち 作家。1963年茨城県生まれ。 2000年『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。主な著書に「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ、「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「アナザーフェイス」シリーズ、「ラストライン」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズなど。近著に『赤の呪縛』『0 ZERO』『小さき王たち 第一部:濁流』など。