写真・文=高橋 学

長崎市にある2本のエレベーター。実は市道なんです

坂の街ならではの道の工夫に注目!
高橋 学

今回のテーマは「エレベーターの市道」です。海上のフェリー航路が国道だったり、階段が国道だったりと、珍しい道は全国にいろいろとありますが、坂の多い長崎市にはエレベーターが市道という極めて珍しい道があります。山の多い日本で坂道はそれほど珍しい存在ではありませんが、エレベーター自体を道路としているのは極めてまれなこと。しかも私道ではなく公共の市道です。今回は、この地域に暮らす方の生活道路として、そして観光都市長崎の観光客の足として活躍するエレベーターのお話です。 「日本と世界の道の雑学」では道路にスポットを当てたお話をお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持っていただければ嬉しいです。

目次

坂の街・長崎ならではの生活道路「グラバースカイロード」

異国情緒漂う坂の街、長崎市

異国情緒漂う坂の街、長崎市

全国区の観光地としても知られる長崎市。古くから海外との交流があり、西洋の文化の面影をいたるところに感じられる街です。また坂の多い街としても知られ、高低差の大きい独特の地形と、かつての西洋文化の風情はこの街の大きな魅力になっています。一方で平地が少ないこの街では斜面にも住宅街が形成され、高齢者や障がい者が快適に移動することが難しい場所も少なくありません。もちろん、ここを訪れる観光客にとってもそれは同じです。

斜面に沿って設置された斜行エレベーター

斜面に沿って設置された斜行エレベーターの屋根と、坂の街らしい長崎の風景が見えます

斜行エレベーターの脇にある階段

斜行エレベーターの脇には階段もありますが、なかなかの急勾配です

そこで長崎市が考え出したひとつの答えが、エレベーターの市道です。この珍しい道は市の中心部から南下した南大浦地区にあります。急斜面に住宅が密集するこの地域に設置されたエレベーターは、斜面に沿って設置された斜行型と通常の垂直型の2基。斜行型を含む市道は「相生町上田町2号線」、垂直型を含む市道は「相生町南山手1号線」といい、この2本の市道で麓からグラバー園で最も高い位置にある第2ゲートまでラクラク移動ができるのです。

斜行エレベーターの下部には商店街、上部には小学校、垂直エレベーターの上部にはグラバー園の入り口と非常に実用性の高い道路で、実際に眺めていると地元の方と思われる利用者が多く、生活道路として機能していることがわかります。

市道の斜行エレベーターに乗ってみた

斜行エレベーターの乗降口

長崎市道相生町上田町2号線、斜行エレベーターの乗降口

斜行なので矢印も当然斜め

斜行なので矢印も当然斜めです

エレベーター内部

エレベーター内部。斜めに配置された1・2・3・4・5のランプが楽しい

斜行エレベーターの頂上乗降口

斜行エレベーターの頂上乗降口。左奥に垂直エレベーターが見えます

垂直エレベーターの乗降口

垂直エレベーターの乗降口。こちらは長崎市道 相生町南山手1号線

市道のエレベーターは観光客にもメリットが多い

グラバースカイロードは観光地へのアクセスにも便利

観光地へのアクセスにも便利な市道「グラバースカイロード」の案内板

斜行エレベーターの下部は長崎電気軌道(長崎市電)の石橋駅が近く、垂直エレベーターの最上部は長崎観光でも人気の高いグラバー園の第2ゲートがあり、実は観光客にとってもメリットの多い市道です。傾斜地にあるグラバー園の最上部から入場し、下りながら園内観光、そして世界遺産の大浦天主堂やお土産屋さんなどが並ぶグラバー坂を利用し帰りは長崎市電の大浦天主堂停留所などを利用すると、その行程のほぼすべてが下り坂となり、体力的にはとても楽です。また、園内には専用のルートも設定されていますので車いすの利用者も無理なく楽しめます。坂の多い観光都市におけるバリアフリー化のひとつの答えとも言えるでしょう。

市道ですので利用はもちろん無料です。自転車が載せられないなど一部制限はあるものの、そもそも平地の少ない長崎県は世帯当たりの自転車保有率も低く、地域性ともマッチしているようです。エレベーターの市道というだけで非常にレアな存在ではありますが、登場の背景には長崎市の地域特性が目いっぱい詰まっている、まさに長崎らしい道なのです。

長崎観光に訪れた際には地域の方に迷惑をかけないよう配慮しながら、この市道(エレベーター)を利用して、もうひとつの長崎らしさを感じてみてはいかがでしょうか。途中で見える風景もなかなか美しい道でした。

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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