日本と世界の道の雑学

下関と門司を結ぶ関門海峡って、実は歩いて渡れるんです

海底トンネルで県境を渡る、レアな体験ができる

高橋 学
2024.01.03

写真・文=高橋 学

2024.01.03

写真・文=高橋 学

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

今回紹介するのは、本州と九州を結ぶ「関門トンネル」です。関門海峡で隔てられた本州側の山口県と九州側の福岡県を行き交う手段は、船ならば関門連絡船、鉄道トンネルが山陽本線と山陽新幹線の2本、道路では、唯一橋で渡れる高速道路の関門橋、国道2号の関門トンネルと多くの手段があります。中でも関門トンネルは自動車道にくわえ歩行者用の専用道を備えた全国的にみても非常に珍しい海底トンネルです。今回はそんなレアなトンネルで海の下を歩いて渡ってみました。

「日本と世界の道の雑学」では道路にスポットを当てたお話をお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持っていただければ嬉しいです。

関門トンネルの基礎知識

かつて源氏と平家が戦った壇之浦古戦場跡から眺める関門海峡

かつて源氏と平家が戦った壇之浦古戦場跡から眺める関門海峡。海の上には関門橋、そしてここの下に関門トンネルが通っています

関門トンネルは、山口県下関市と福岡県門司市(現在の北九州市門司区)を結ぶ海底トンネルとして1958年に開通しました。調査用トンネルの工事を経て、39年に本坑に着工したものの途中第二次世界大戦により中断。戦災で立坑などの施設が焼失するなどの紆余曲折を経て52年に工事を再開、それから6年後に開通し現在に至ります。73年には関門橋が開通し、本州と九州を結ぶ自動車道路は橋とトンネルの2系統となりました。ちなみに橋は高速道路、トンネルは一般国道ですが、車両はトンネルにも通行料金がかかります。

高速道路である関門橋の本州側には檀之浦PA(下り線のみ)、九州側には めかりPA(上り線のみ)があり、どちらからも関門橋が見渡せます(写真は檀之浦PA)

高速道路である関門橋の本州側には檀之浦PA(下り線のみ)、九州側には めかりPA(上り線のみ)があり、どちらからも関門橋が見渡せます(写真は檀之浦PA)

関門トンネルは歩行者も利用できます

関門トンネル人道のほぼ中間地点にある、山口県と福岡県の県境

関門トンネル人道のほぼ中間地点(実はわずかに九州側)にある、山口県と福岡県の県境

この関門トンネルの最大の特徴は、なんと言っても歩行者用の専用道が用意されていることです。円筒状のトンネルの上部約2/3が自動車用、下部1/3程度が歩行者用となっています。トンネル延長は3,461.4mで、そのうち海底部は約780mです。自動車は地上から海面下56mの最深部を通り、再び地上に向かいます。歩行者は本州側、九州側それぞれに設置されたエレベーターで地下に向かい、海底部の約780mだけを歩きます。斜度も3.84~4%と緩やかなので生活道路としても無理な感じはありませんし、片道15分程度ですので筆者のように観光目的でも海底散歩を気軽に楽しめます。

関門トンネル人道入口(下関側)

関門トンネル人道入口(下関側)

エレベーターで一気に55m下り、トンネルへ向かいます

エレベーターで一気に55m下り、トンネルへ向かいます(門司側は60m)。通行料金は歩行者が無料、自転車・原付は20円

コンクリートのトンネルは、水族館のトンネル状の水槽のように水中を眺められるわけではありませんが、本物の海の下を歩いていると思うとちょっとドキドキします。また、トンネルを抜けると九州だったり本州だったり、トンネル内でその境界線を跨(また)いだりする体験はちょっぴり不思議な感覚でした。下関側の入り口に隣接した「関門プラザ」では、このトンネルの歴史についての展示がされていますので、ぜひ立ち寄ってみてください。

エレベーターホールに設置された国道番号の案内標識。このトンネルは上部の自動車道と同じ国道2号

エレベーターホールに設置された国道番号の案内標識。このトンネルは上部の自動車道と同じ国道2号。車道と歩道が縦に並んでいるのです

連絡船でも渡ってみました

最も狭いところで650m、そこだけ見れば海というよりは川レベルの幅の関門海峡には、下関(唐戸)~門司港を約5分で結ぶ関門連絡船が航行しています。5分といえば、かつて大ヒットした歌謡曲でも知られる「矢切の渡し」(東京~千葉を結ぶ江戸川の渡し船)と同じくらいの乗船時間ですが、鳴門海峡、来島(くるしま)海峡に次ぐ流れの速さで日本三大潮流に数えられる関門海峡ですから、船の規模も趣もまったく異なります(当たり前ですね……)。海峡を行き交う大型船の航跡の影響を受けたときはかなり揺れますが、船酔いする前に到着してしまいますので心配無用です。

乗船前から見える対岸への5分の船旅。海上から見る関門橋が美しい

乗船前から見える対岸への5分の船旅。海上から見る関門橋が美しい

車で一気に渡るもよし。歩いて渡るもよし。船を使ってもよし。関門海峡は「渡る」バリエーションが豊富で、それぞれに実用性と楽しさが共存する珍しい場所でした。中でも県境がある海底人道トンネルは国内でここだけですのでおすすめです。

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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