安東弘樹の運転履歴書

安東弘樹が証言! 日本カー・オブ・ザ・イヤーにまつわる噂の真相とは!?

安東弘樹
2023.06.17
2023.06.17
1年点検を受けると、だれにでもチャンス

2023年4月から連載を開始した、フリーアナウンサー安東弘樹さんのクルマにまつわるエッセー。今月は前回に続き、安東さんが選考委員を務める日本カー・オブ・ザ・イヤーの試乗会と、そこにまつわる噂の真相について紹介します。

日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の仕事内容とは?

前回に続いて、日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下COTY)選考委員の仕事について紹介いたします。

COTYの選考委員は毎年12月の発表までに、その1年間に新しく販売され、選考にエントリ-されたクルマの中から、各部門賞とカー・オブ・ザ・イヤーを決めるのですが、そのためには当然、エントリーされたクルマのすべてに乗り、吟味しなければなりません。

そこで各メーカーや輸入車インポーターは、新しく発表される(された)クルマを、たとえばホテルの駐車場などに数台から十数台ほど集め、自動車メディアやジャーナリストが中心のCOTY選考委員に対し「試乗会」というものを開きます。

一般的には3日間~1週間ほどの期間、毎日同じ内容の試乗会を開き、予約制で数十人の選考委員が試乗する、という形をとります。会場の例としてホテルをあげましたが、コンパクトカーやミニバン、小型のSUV、ハイブリッドカーなどの場合は、日常的な使い方で、その走りや燃費、使い勝手をジャーナリストに知ってもらうため、東京都内や横浜市内などのホテル駐車場にクルマを並べ、1~2時間ほど試乗、撮影などの機会を与える、といった具合です。

COTYエントリー車試乗会の例

COTYエントリー車試乗会の例

COTYエントリー車試乗会の例

COTYエントリー車試乗会の例

試乗会では夏のゲレンデを車で下り、冬には凍った湖を走破!?

試乗場所のバリエーションとして、スポーツカーやプロトタイプでナンバーが付いていないクルマなどは、サーキット走行がメインになる場合もあります。また、メーカーの狙いがスポーティーな走行を試してほしい、というクルマの試乗会は、箱根などのワインディングロードが近いホテルを拠点に、景色のよい観光道路を走らせるという場合も。あるオフロード車の試乗会では、草が生い茂る夏のスキー場の斜面を下りてくる、というシチュエーションもありました。

それから、メーカーが「このクルマは長距離を走ったほうが良さがわかる」と判断したのでしょう、松山のホテルを拠点に1泊2日で本州と四国を結ぶ「しまなみ海道」と、その周辺を走る、という試乗会もありました。

そして、雪道に強いクルマの試乗会では、岩手県の安比(あっぴ)高原を拠点に、豪雪地帯として有名な青森県の酸ヶ湯(すかゆ)温泉までの雪道を走り、その雪上走行性能を十分に検証するという機会もありました。

さらに冬期には、雪道どころか凍った湖の上を走る、氷上試乗会というものが開催されることも多く、そこで新しい4輪駆動システムの優秀さをアピールする、なんていうこともあります。

氷上試乗会の様子

氷上試乗会の様子

メーカーは試乗会対策をしている? 独自の検証方法とは

その昔、メーカーが試乗会専用の特別なクルマを用意していた、などという噂もありました。もちろん現代ではあり得ませんし、私も、メーカーやインポーターを疑っているわけではありませんが、基本的に、このような試乗会に参加した後は、必ず近所の販売店に行って「いちユーザー」として同じクルマを試乗することにしています。実際にシチュエーションが違うと同じクルマが違って見えたり、違う感触になったりすることも少なくありません。幸い自宅が大きな国道の近くにあるため、近所に多くのメーカーの販売店がひしめいています。

そして最近増えてきたEVの試乗会では、「航続距離が短く、充電も不便」というイメージを払拭するために、出発地点は充電設備が整っている東京や横浜にあるメーカー本社や販売拠点をスタートし、箱根や静岡県浜松市辺りまで1泊2日で往復する、というような行程のものが増えてきました。その場合、目的地には充電設備がある宿泊施設が設定され、翌日、フル充電になっているクルマで帰ってくる、という流れです。
たしかに最新のEVの場合、東京から高速道路を使って200kmほど走っても半分くらいはバッテリーに電気が残っていることも多く、実用性を肌で感じるクルマもありました。このような試乗会の場合、最低でも5時間はそのクルマと対峙することになり、さまざまなことが理解できますので、ありがたい機会と言えます。

毎年、各メーカー合わせて30~50車種が新しく販売されますので、単純計算で、1~ 2週間に1度くらいの頻度で試乗会が開かれることになります。かなりの作業になるのをご理解いただけるのではないでしょうか? しかも私の場合は本業のアナウンサーの仕事がありますので、まさに合間を縫っての試乗会参加となります。

選考委員としての使命感

念のため申し上げておきますが、選考委員としての報酬はありませんし、地方会場での試乗会の場合、宿泊代は先方が負担してくれますが、私の場合は基本、地方でも(北海道、九州は除く)自分のクルマを運転して会場まで行くので、その場合交通費は出ません。そう自腹です。

またメーカーやインポーターから、何らかの利益供与があるのではないかという噂も耳にしますが、少なくとも私がCOTY選考委員を拝命してからはまったく、そのようなことはありません。これは誓います! むしろ完全に出費のほうがかさんでいて、年末には年間の費用に驚くほどです……。しかし、日本のクルマの向上や車文化の醸成(じょうせい)のために、使命を全うしようと思っています。

安東弘樹

あんどう・ひろき 1967年神奈川県生まれ。フリーアナウンサー。1991年にTBSテレビに入社後、さまざまなテレビ、ラジオの報道やバラエティなどの番組を担当。19歳の免許取得から現在までに、45台以上のクルマを乗り継ぐ経験と知識を生かし、活躍の場を広げている。現在はTBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s~愛車のこだわり~」、TOKYO MX「バラいろダンディ」、テレビ東京 「ミライの歩き方」、bayfm78 「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。2017年より「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」選考委員。

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