座席が180度倒れる夜行バス「FLATON」に乗ってみた! 東京~高知11時間、フルフラットの寝心地は?
業界初の2段式フルフラットシートで東京から高知へ。狭さや揺れ、寝心地まで45歳ライターが本音レポート
「推し活×遠征」をテーマにした本連載。夜行バス遠征につきまとう最大の悩み、それは身体への負担ではないでしょうか? 特に腰。今回は、そんな常識を覆す夢の夜行バス「FLATON(フラットン)」に乗車してきました!
座席が180度倒れる業界初の「完全フルフラットシート」を備え、東京〜高知間の約11時間を“完全に横になったまま”移動できるという画期的な一台。これを身をもって体験した一部始終を徹底レポートします。
- 高知FLATON乗車レポート! 後編「高知県久礼大正町市場で本場のカツオの藁焼き食べてみた」は9月30日公開予定!
「横」になれるバスがあるらしい
名前は「flat on(フラットな状態)で眠れる」ことを語感で表現した造語 (写真=株式会社高知駅前観光)
フルフラットシートタイプの座席「ソメイユ・プロフォン(sommeil profond)」を搭載(フランス語で「熟睡」)。名前の響きがなんだかバンド名みたいでかっこいいですね (写真=株式会社高知駅前観光)
夜行バス移動は寝て起きたら到着してるし値段も安い。しかし、年齢を重ねるごとにひとつの懸念点が出てきました。私にとってバス移動最大のネックは間違いなく「腰」です(ネック=首なのに、腰とは?)。実際、東京発のバスで大阪より西へ向かうと、私(45歳)の腰とお尻は悲鳴を上げます。先日、実家の山口に帰省するために東京〜広島間(約850km)をバス移動してみたところ、軽い拷問感がありました。
「とにかく、腰に負担のかからないバス移動がしたい」。180度椅子が倒れて完全に「横」になれる、寝台列車のようなフルフラットシートの夜行バスがあればいいのに。と思っていたら、そんなバスが、なんと昨年から運行しているらしいのです。
その名も「FLATON -フラットン-」。 高知駅前観光が2025年冬に運行を開始した、「高知・鳴門・東京」間を結ぶ高速夜行バスの路線愛称。
と、いうわけで、蟹めんまさんと一緒に東京から高知まで「FLATON」乗車チャレンジをすることになりました。
※奈良在住のめんまさんにはいったん奈良から東京に来てもらいました。お手数をおかけします……。
普段と違うフラットンのマナー
今回の便は東京駅直結の地下2階、「バスターミナル東京八重洲地下B」からの出発でした
今回利用する「FLATON」は東京駅発。21時半に東京駅を出て、高知駅に到着するのは翌朝8時前後。約11時間、ほぼ半日を車内で過ごすことになります
車内は土足厳禁という案内があり、入り口の靴箱に靴をしまってから座席へ向かいました
いざ乗車。まず目に入ったのは入り口付近のアメニティ類です。歯ブラシやおしぼりといった定番品はもちろん、耳栓まで。また、アイマスクの貸し出しも行っているとのこと。
「ソメイユ・プロフォン」の最大の特徴は、業界初だという上下2段式シート。すでに全席が2段ベッド状態(座席モードにもできるそうです)。上下2段の寝床が整然と並ぶ光景は非日常的でワクワクしました。
今回、私とめんまさんは上段シートを選んだため、はしごを使ってのぼることに。頭からスルッと滑り込むそのスタイルは、バスに「乗る」というより「格納される」という言葉がしっくりきます。
私の体感としては、足を伸ばしてもまだ余裕がありました。ちょうどいい感じ。しかし、ふと気づいてしまったのです。小柄な私で「ちょうどいい」のであれば、そうでない人にとってはかなり窮屈なのでは……? 快適に横たわったまま、めんまさん(身長162cm)が無事に格納されているだろうかと、彼女の状況に思いを馳せるのでした。
「想像以上に狭い!」2段式フルフラットシートへ
頭が入る部分は壁で囲われているため、通路からのまぶしさはさほど感じませんでした。ただ、足元は通路から丸見え状態なので、そこが気になる人はいるかも (写真=株式会社高知駅前観光)
シートの頭上付近には、ドリンクホルダーと小物入れがあり、Wi-Fiの案内も貼ってありました。電源コンセントはないものの、USB(Type-A)ポートがあるのでスマホなどの充電には十分です。さらに足元と胸元あたりにはエアコンの吹き出し口が。週末の夜行バス特有の空気のよどみもなく、風通しはかなり良い感じでした。
シートに入ってまず私が気になったのは荷物の置き方。パソコン入りの大きめリュックを持ち込んだところ、備え付けの荷物スペースには入りきらない! (これは自業自得感があります。) 迷った挙げ句、自分の膝下に置くことにしました。これから乗る方は、乗車前に「何をどこに置くか」のイメージトレーニングをしておくことをおすすめします。
上段シートから天井までの距離は座席ごとに異なるそうですが、50-85cm
とのこと。そこそこ小柄なわたしでも起き上がるときにうっかり頭をぶつけそうになりました。めんまさんのマンガで言及されているように、わたしは元自衛官なので、匍匐(ほふく)前進的な姿勢には慣れていますが、みなさんはどうでしょうか。
備え付けのアイテムは、枕とブランケット。ツルツルとした素材のマットは柔らかく、寝心地はいい感じです。シートベルトを着用しないといけませんが、ずっと「横」の体勢なのでそこまで違和感はなかったです。
横になって出発。揺れは? 本当に眠れる?
バスが走り出すと、走行音はそれなりに響き、予想以上に揺れを感じます。身体が横になっているぶん、クルマの揺れを全身でダイレクトに受け止めるような感覚です。あまりに揺れるので逆に少し面白くなってしまったほどですが、高速道路に入ると多少は安定しました。なお、私は耳栓をつけると違和感で眠れなくなるタイプなので、今回は使用していません。
せっかくの長旅なので、「長時間用のシートマスク」を持参して時間をつぶすことにしました。仰向けの体勢なので、顔から剥がれ落ちる心配が少ないのも良いところです。
さらに、しっかり睡眠をとるために酔い止めと睡眠改善薬を飲み、夜行バス移動定番のお供「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」を着用した結果、ぐっすり眠ることができました。 何度か目を覚ますことはあったものの、海老名SAを過ぎたあたりから具体的な記憶があまりなく、終盤の淡路島南PAでの停車にいたっては、まったく気づきませんでした。
翌朝、腰はどうなった? 11時間乗車した結論
そして翌朝。お肌の調子はバッチリで、膝下にリュックを入れていたため足が少し高く保たれ、むくみもありません。なにより、一番心配していた「腰」への負担がないことが最高でした。ありがとうFLATON、ありがとうソメイユ・プロフォン。
スッキリと目覚め、出入口り口付近に備え付けてあるゴミ袋にシートマスクやペットボトルを捨てて、意気揚々と高知駅に舞い降り……そこには、ゲッソリと疲労困憊のめんまさんの姿が。「(ヽ´ω`)」の絵文字のような顔になっています。大丈夫ですか?
めんまさんいわく、手違いでブランケットなしで最初の数時間を過ごしたそうで、エアコンの冷えでダメージが蓄積されてしまったとのこと。私が感じた「風通しの良さ」が仇になるとは。終盤はトイレの横の車内後方のスペースで過ごしたそうです。私と同じバスで同じ時間を過ごしたとは思えない感想だ……。
ちなみに、わたしは帰りもFLATONで「横」になって帰りました。全然余裕でした。
なぜこんなバスが生まれた? 開発担当者に聞いてみた
旅を終えた後に、FLATONを運行する高知県の(株)高知駅前観光のソメイユ・プロフォン総括責任者の本多氏にお話を伺うことができました。
そもそもこの「フルフラットシートの夜行バス」、一体どうやって生まれたのでしょうか?
本多氏によると、発案者は同社の現会長。約30年前に中国で寝台バスに乗り、「腰が全然疲れない! これを日本でもやりたい!」と感銘を受けたのがすべての始まりとのこと。しかし、日本の厳しい安全基準の壁に阻まれ、一度は断念したものの、ある日、「『寝台』がダメなら、通常の座席が『180度リクライニング』するだけならどうだ?」とひらめき、再挑戦。「何度まで倒してはいけない、という法律はないですよね?」と国交省に掛け合い、なんと自腹で実物大の模型(!)を作って国を説得。ついに国土交通省にフルフラットシートのガイドラインを制定させてしまったという、まさに執念の産物なのだそうです。
「初めて乗る方の第一印象が『狭い!』というのは間違いないと思います(笑)。ですが、法定基準の通路幅30cmを確保し、安全面もクリアしています。実際にお客様からは『朝、下半身や腰の疲れがない』というお声を多くいただいており、8割以上の方に『従来の3列シートより良かった』とご満足いただいているんですよ」(本多氏)
その感想には同意しかない。ただ、個人的には多少狭くても我慢できるんですが、「万が一事故が起きたときの避難経路を想像しにくい」と感じました。
本多氏によると、バスの通路幅は法律で「最低30cm」と定められているとのこと。一般的な独立3列シートの夜行バスは通路が2本あるように見えますが、実は片方は30cm未満の「ただのスペース」で、もう片方だけを広く取って正式な「通路」として設計しているのだとか(たしかに本能的に広い方を通っていました。知らなかった……!)。
一方フラットンの場合、両側の通路から座席へ出入りする構造上、両方の通路を法定基準の「30cm」ずつ確保する必要があります。限られた車幅から2本分の通路幅を差し引き、残りを3分割して極限までベッドを広げた結果、あのような構造になったそうです。「法定の最低ラインと避難経路などの安全基準はしっかりクリアしています」とのことでした。
本多氏ご自身も頻繁に客として乗車し、自ら課題を見つけては細かなアップデートを繰り返しているのだそう。 現在、暗くなりがちな下段シート用の照明を準備しているほか、出張客から要望の多い「スーツを掛けるスペース」の導入なども日々検討しているといいます。
そして最後に今後の展開についても語ってくれました。
自社だけでなく全国のバス会社にこのシートを導入してもらい、業界全体を盛り上げたいとのことで、今後は東京〜高知間以外でもFLATONが運行する日が来るかもしれません。さらに、「被災地での移動式ベッド・救援物資の運搬など、災害支援にも活用できるのではないか」という構想もあるそうで、このアイデアには思わず「いいじゃないですか!」と前のめりになりました。もしこのバスが被災地に乗り込み、そのまま「すぐ横になれる休憩所」として機能したら、かなり心強いのではないでしょうか。
ただ快適なだけでなく、日本の長距離移動の可能性をグッと広げてくれそうな「FLATON」。いつか全国の夜行バスで「横」になって帰るのが当たり前になる日が来るかもしれません。
●高知駅前観光 フルフラット夜行高速バス「FLATON 」/ 高知県高知市桟橋通5-1-57 Tel. 088-831-7289
- 高知バス旅後編「久礼大正町市場で本場のカツオの藁焼き食べてみた」は9月30日公開予定!
蟹めんまさんと藤谷千明さんのプロフィール
蟹めんま
かに・めんま 漫画家・イラストレーター。大阪芸術大学卒。奈良県出身・在住。小学生の頃ヴィジュアル系バンドに目覚め、バンギャル歴は約28年。著書に『バンギャルちゃんの日常(全4巻)』(KADOKAWA)、『今日もライブに行けません!~アラフォーバンギャル、魂のV系語り~』(ぶんか社)、共著に『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(ホーム社)などがある。
X:@kanimen
藤谷千明
ふじたに・ちあき 1981年生。フリーライター 。ヴィジュアル系やオタク・サブカルチャーについての記事を執筆。著書に、アラフォーオタク4人で都内の一軒家を借りて暮らす実体験をつづったエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎文庫)がある。同タイトルでコミカライズ全2刊も刊行(作画:泥川恵/幻冬舎コミックス)。そのほかの著書に、対談集『推し問答!』(東京ニュース通信社)、共著に『バンギャルちゃんの老後』(ホーム社)、『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)、3月24日に単著『人恋しくて女性用風俗に行ったあとで考えたお金とケアと欲望のこと』(中央公論新社)を発売。TBS『マツコの知らない世界』V系回出演。
X:@fjtn_c
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