菊地成孔が推す「車内の二人」を切り取ったいまどきのドライブデート風景〈ぷにぷに電機 / 君はQueen〉
ミュージシャン、文筆家の菊地成孔さんが助手席で聴いてきたドライブソング4曲を紹介!![](/writer/__icsFiles/afieldfile/2023/10/24/kikuchinaruyoshi_header.jpg)
ジャズミュージシャンの菊地成孔さんが選ぶ3曲目は、Z世代から支持を得ているぷにぷに電気の「君はQueen」。ラブソングの古典的な手法をとりながらも、いまどきの楽曲として聴けるのは歌詞に秘められたある視点にあるといいます。
音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。
3曲目
ぷにぷに電機 / 君はQueen(『創業』収録)
ジェンダーレスなドライブを体現する
YOASOBIとか最近のSEKAI NO OWARIとか優れた若いミュージシャンが大勢いますが、ぷにぷに電機さんはさらに若い世代。個人的な推しです。ジャンル的にはヴェイパーウェイヴ(※)で、ネオ・シティポップというかオルタナR&Bというかさまざまな捉え方ができるけれど、歌声とルックスと歌詞が好きなんで。曲はいろんな人と作っていますが、こういうジャンルの宿命として、曲調はどれもほぼ一緒なんです。一番有名な「ずるくない?」という曲と、この「君はQueen」はほとんど同じで(笑)、この2曲だけずっと聴いててもいいという。
完全にドライブミュージック用に作られていて、いわゆるアーバンなラブソング。バブル期には「君とドライブしてて好きって言いたいんだけど、言い出せないまま街の景色が過ぎ去っていく」みたいな毒にも薬にもならないような歌謡曲が50万曲くらい作られたわけですが(笑)、ぷにぷに電機の歌詞にはそれと違って毒が含まれている。
ユーミンになる前の荒井由実「中央フリーウェイ」はドライブミュージックのクラシックですよね。誰もが言う「中央高速はフリーウェイじゃない」というトリビアも含めて(笑)。おそらく初めて意図的に作られたであろうドライブミュージックである「中央フリーウェイ」の歌詞にも、よく聴くと皮肉や毒が散りばめられてるじゃないですか。その血脈ですよね。
サビの「君はQueen 僕のQueen」は、20世紀だったら女王様たる女の子がいて平伏(ひれふ)す男の子がいるという、Win-Winというよりも組み敷かれるSM的な関係性の表現になっていたはずなんだけども、この曲が素晴らしいのは視点を逆にしても成立するところで。
ジャズのスタンダードだって、男性ボーカルが女性視点の歌詞を歌うことはあっても、それは「女性になったつもり」で歌っていますよね。その逆もしかり。演歌やムード歌謡は男性が女心を歌ってますけど、それも特権的なマウントだからプレ・フェミニスティックなんですよ。八代亜紀さんが「俺の港は~」って歌う曲はないから(笑)。
ぷにぷに電機さんの歌詞では、ジェンダー逆転してもクールだし、LGBTQ含め、要するに、めちゃくちゃ古典的な、「前の時代のジェンダー」の詞が、ダイバーシティーに読める、というところに素晴らしさのコアがあるの。ただ僕的には、多様性の中でも、<女の子が自分の彼氏に向かって>「君はQueen 僕のQueen」と言っている状況が一番刺さるし、そもそもそう言う意味ではないの?とまで思いますけれども(笑)。
音楽的にはラブソングでドライブミュージックの古典の形をとっているけれど、歌詞には極端な現代性がある。ジェンダーレスな現代社会を最も奇麗にスキルフルに体現しているのがぷにぷに電機の歌詞だと思ってます。自分と相手のセクシャリティや社会の風潮がどうであれ、「二人きりで車に乗って走る」という魔法は今も変わらないし、永遠だ、ということも。
- ※Vaporwave 1980~90年代当時の「最先端」的な音楽やビジュアルを再解釈して提示する、インターネット発のカルチャームーブメント。ビジュアル面では意味の通らない謎日本語が多用され、世界的なシティポップリバイバルもここから派生している。
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菊地成孔
きくち・なるよし 音楽家、文筆家、音楽講師、ジャズメンとして活動。思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽・著述活動を旺盛に展開し、ラジオ・テレビ番組でのナビゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画・テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の音楽を自らの生徒とともに立ち上げた「新音楽制作工房」とともに担当。
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