わたしのドライブミュージック

菊地成孔がミュージシャン同士のドライブでかける沢田研二の隠れ名曲! 〈沢田研二 / 晴れのちBLUE BOY〉

ミュージシャン、文筆家の菊地成孔さんが助手席で聴いてきたドライブソング4曲を紹介!

菊地成孔
2023.11.26

聞き手・構成=張江浩司 / 編集=神保勇揮(FINDERS編集部)/ イラスト=若林 萌

2023.11.26

聞き手・構成=張江浩司 / 編集=神保勇揮(FINDERS編集部)/ イラスト=若林 萌

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

菊地成孔さんが選ぶ4曲目は、ジュリーこと沢田研二が83年にリリースした知られざる名曲「晴れのちBLUE BOY」。レトロ歌謡曲が再評価される以前から、この曲のヤバさに目をつけ、ミュージシャン仲間に話していたほどのとっておきの1曲だそう。菊地さんが移動でよく利用するタクシー車内での過ごし方、プレイリストもご紹介します。

音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。

4曲目
沢田研二 / 晴れのちBLUE BOY(『ROYAL STRAIGHT FLUSH3』収録)

今まさに再評価されるべき曲、そしてタクシーでの意外な過ごし方

ミュージシャン同士で車に乗ると、お互いに曲をかけて「これ知ってる?」合戦になりがちなんですが、大抵「よく知らない、センスの良い外国の人」なんですよ(笑)。そんなゲームもう飽き飽きなわけ(笑)。

そんななか、もう20年以上、僕の必殺のカードがこれです(笑)。野猿feat.CA「First impression」とかだと意外とみんな知ってるからいまいち盛り上がりに欠けますが(笑)、このカード切って、車中がザワつかなかったことないですね(笑)。

「晴れのちBLUE BOY」は、沢田研二さんのキャリア的にはザ・タイガースがありPYGがあり、ソロ第一形態になって「時の過ぎゆくままに」も「勝手にしやがれ」も経て、1980年に「TOKIO」をリリースして、ソロ第二形態に進化し、どんなに傾いてもTBS「ザ・ベストテン」の上位に入るっていう帝政を敷いてから、の爛熟期ですね(1983年リリース)。古今東西のノッてるスターがなぜかやらかすご乱心曲というか(笑)。

「そして僕は途方に暮れる」をヒットさせる直前の大澤誉志幸のソングライティングもすごいし、早過ぎたジャングルビートというか、リズムトラックにベースしか入っていないアレンジもすごい。Beyoncéの大ヒット曲「Single Ladies」の元ネタはこの曲なんじゃないかという(笑)。そのぐらいの強度があるし、めちゃくちゃ現代的でもある。当時から普通にかっこいいと思ってましたよ。歌詞もサビは「言いたいことはヤシの実の中」の繰り返しだから。まさにアバンポップ(※)として屹立(きつりつ)してますよ。「いつの世も再評価されるべき曲」だと思います。ドライブしながら聴いたらすごく気持ちいいですよ。「TOKIO」じゃあ大した気分にならない(笑)。

僕は免許持ってないから、乗る機会が一番多い車はタクシーで。タクシーに乗ってるときは全然音楽聴かないんですよね。何してるかというと、ずっと座席の前のモニターを見てる。あれにずっとエグゼクティブ向けのCMが流れてるじゃないですか。企業で使う人材管理ソフトとか。あんなにいっぺんに企業向け広告を見る機会もないから、あれが楽しみで。日本の断末魔と闇雲な希望がミックスされてる(笑)。

「加藤浩次さんはCEOの懐に入るキャラが板についてきた」とか「おぎやはぎで和ませようとしてるな」とか、起用されてる芸人さんもチェックして(笑)。僕の世代はテレビがCM全盛期だったので、とにかくありとあらゆるCMが流れてた。今はテレビを見るにしてもバカでかいディスプレイか、極端に小さいスマホでしょう。あの大きさのモニターで延々CMを見るという行為に、ある種のノスタルジーがあるんでしょうね。

  • 楽曲やビジュアルなどに実験的・前衛的な要素も含まれているが、あくまでポップス(大衆音楽)であること志向する音楽。

菊地成孔さんのプレイリスト

菊地成孔

きくち・なるよし 音楽家、文筆家、音楽講師、ジャズメンとして活動。思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽・著述活動を旺盛に展開し、ラジオ・テレビ番組でのナビゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画・テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の音楽を自らの生徒とともに立ち上げた「新音楽制作工房」とともに担当。

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