バブル時代、菊地成孔がデートで聴いたユーミンと聴けなかった山下達郎〈山下達郎 / RIDE ON TIME〉
ミュージシャン、文筆家の菊地成孔さんが助手席で聴いてきたドライブソング4曲を紹介!
ジャズミュージシャンの菊地成孔さんが選ぶ2曲目は、女性とのドライブデートで聴いた思い出の曲について。免許を持たず、助手席で彼女のサポートに徹していたという菊地さん。そんなバブル時代のドライブでいつも流れていたのはユーミンの名曲たち。ドライブデートにふわさしい曲に欠かせない要素について語ります。 音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。
2曲目
山下達郎 / RIDE ON TIME(『RIDE ON TIME』収録)
「ドライブ」という補助線から見えてくる達郎とユーミン
僕は免許を持っていないんですが、そもそも実家に免許持ちが一人もいない。だから取ろうという発想がなかったんです。車自体は好きで「1963年製の赤色のカルマン・ギアやべえ!」とか興奮していたこともあるんですけどね。女性とドライブデートに行きまくってた若い頃も、運転する側に回ろうとはつゆほども思わなかった(笑)。
バブル時代、ドライバーはナイトの役割だったんです。ジェンダーレスな現代と違ってはっきり「ジェンダー」の時代だったから、助手席に座ろうとする男なんて相当ダメなヤツ扱いで。だから免許がなくて運転してもらう僕は、女の子を疲れさせない、良い気分になってもらうことにすごく腐心しました。手製のミックステープつくったり、運転中につまめるようにおいしいサンドウィッチを探して買って行ったり(僕の手製のがずっとうまかったんですけど、ちょっとキモイじゃないすか……笑)。もともと女の子が良い感じになるのが好きだったんですよね。
それで苗場のプリンスホテルに松任谷由実のコンサートやとんねるずの「こんと いん なえば」を女の子と一緒に観に行ったりしたんですよ。自分が同じ苗場で開催されるフジロックに出演するようになって、出演者のホテルが苗プリだから、バンドメンバーと一緒に部屋でボケッとしてるのがなんか辛いんだよね。昔の思い出が美しすぎるから(笑)。
80年代のドライブは松任谷由実の『SURF&SNOW』を積んでればよかったわけですが、彼女は大変に知的な音楽家で、サーフィンとスキーを&でつないだことは前人未到ですよね(笑)。アメリカの遊び人だってどっちかだったんだから(笑)。年間で両方やっちゃうというのは日本特有のもので、しかもどちらも板を載せて車で移動する必要があった(笑)。
松任谷由実の音楽はどんなBPMで、どんなスタイルでも、すべて<ドライブデート>という状態に落とし込まれてるから流石(さすが)だなと思いますね。マイケル・ジャクソンだってビリー・ジョエルだって、聴きながらドライブしてるとコンフリクトするんですけど、松任谷由実は一切しない。
一方で山下達郎の音楽も「ドライブデートにバッチリ!」とか言われてたんだけど、実はドライブに向かないんですよ。もっと言うと、ダンスミュージックとしても少しBPMが遅い。達郎グルーヴというのは腰が重いから、煌(きら)びやかなイメージに反してダンスにもドライブデートにも使えなくて、じゃあ山下達郎の音楽はどんなときに聴くのかというと、ステレオの前で正座してちゃんと聴く(笑)。「シティですよ、キラキラしてますよ」という面構えと、座して聴かねばならない圧力の齟齬(そご)こそが山下達郎の一番の凄(すご)さなんですよね。ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンからの影響だと思うんですけど。
そんな達郎さんの曲の中で、ギリ実用的なのが「RIDE ON TIME」。あまりにも有名曲なんでがっかりしてる人もいるかもしれないけど(笑)。大体「DOWN TOWN」と同じBPMで、ダンスにもドライブにも使えます。ただ、実際には当時ドライブでプレイすると、「このアレンジすげー!」とか「音の分離がハンパない!」とか、そっちに耳がいっちゃって女の子との会話どころじゃなくなってましたけど(笑)。
菊地成孔1曲目 菊地成孔が選ぶテクノの先駆による純然たるドライブミュージック〈クラフトワーク / Autobahn〉
菊地成孔2曲目 バブル時代、菊地成孔がデートで聴いたユーミンと聴けなかった山下達郎〈山下達郎 / RIDE ON TIME〉
菊地成孔3曲目 菊地成孔が推す「車内の二人」を切り取ったいまどきのドライブデート風景〈ぷにぷに電機 / 君はQueen〉
菊地成孔4曲目 菊地成孔がミュージシャン同士のドライブでかける沢田研二の隠れ名曲! 〈沢田研二 / 晴れのちBLUE BOY〉

菊地成孔
きくち・なるよし 音楽家、文筆家、音楽講師、ジャズメンとして活動。思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽・著述活動を旺盛に展開し、ラジオ・テレビ番組でのナビゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画・テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の音楽を自らの生徒とともに立ち上げた「新音楽制作工房」とともに担当。
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