聞き手・構成=張江浩司 / 編集=神保勇揮(FINDERS編集部)/ イラスト=若林 萌

菊地成孔が選ぶテクノの先駆による純然たるドライブミュージック〈クラフトワーク / Autobahn〉

ミュージシャン、文筆家の菊地成孔さんが助手席で聴いてきたドライブソング4曲を紹介!
菊地成孔

今月お届けする4曲の選曲を担当するのは、ミュージシャン、文筆家、音楽講師として幅広く活躍する菊地成孔さんです。1曲目はドイツの高速道路「Autobahn」というタイトルが付けられたクラフトワークの曲。まるで自分がAutobahnを走行しているような気分に陥るような描写力に衝撃を受けたのだとか。 音楽好きの著名人たちが、月替わりで自動車やドライブにまつわる音楽との思い出とともに至高のドライブミュージックを紹介します。

目次

1曲目
クラフトワーク / Autobahn(Album『Autobahn』)

サブスク時代にドライブでクラフトワークに出会い直す

ご存じの通り、世界中のテクノミュージックの先駆であるクラフトワークが1974年に発表したのがこの「Autobahn」。車のドアがバンッと閉まってイグニッション・キーを回すところからの22分47秒、ドイツの制限速度がない高速道路「アウトバーン(※¹)」をただひたすら走っていくだけという音楽で、ドライブミュージックの始祖というか「ドライブそのもの」ですよ。やっぱ凄いです。クラフトワークの即物性というか唯物性というか(笑)。

ドライブミュージックというとデートのBGMだったりそういう手垢に塗(まみ)れたイメージがあるけど、この曲がすごいのは何のために車を走らせてるのかまったくわからない(笑)ところ。ドライブが過度にセクシーでもスポーティーでもない、いわば純粋ドライブミュージックで。

僕が30代の頃は山下洋輔のニュートリオだったり、大友良英のGround Zeroのメンバーだったこともあり、長いと2か月くらいヨーロッパをサーキットしっぱなしで。特にドイツはジャズフェスが多くてドレスデンやベルリンを行ったり来たりするから、頻繁にアウトバーンを使うんですね。そうすると、いかにこの曲が高速を飛ばしている様子を正確に描写しているかがわかる。石畳のボコボコから解放された爽快感。ドイツに限らず世界中の高速道路に合うんですよ、「Autobahn」は。シンセやリズムボックスなど機材のビンテージ感もあって、国産のEV車で聴いたとしてもベンツとかワーゲンみたいなヨーロッパの旧車に乗ってる感じになる。爽快と退屈(=トランス)っていう両極を持ってる唯一のリアルドライブミュージックかもしれない(笑)。

今は、20世紀のクラシックスに当たり直すことが新鮮な時代になってますよね。若い子は「昨日はフランク・シナトラを初めて聴いた、今日は黒澤明を初めて観る」ということが普通に起きる。でも、この時期のクラフトワークに出会うっていうことはあまりないような気がするんですよ(笑)。なんでぜひ、この機会に(笑)。クオリティはもちろん高いし、何せとてつもなくフレッシュですから。

2007年に雑誌の連載でパリコレを取材に行ったんだけど(※²)、その期間は渋滞が酷(ひど)くて車がまったく動かないの。ファッションショーの会場を移動するときにタクシーが渋滞で止まっちゃって、同じく止まってる隣の車を見たら超有名デザイナーのカール・ラガーフェルドがいたんだよね(笑)。飛行機の滑走路でも走ってるかのようなドイツのアウトバーンと、動脈硬化みたいに動かないパリの路地裏。真逆すぎる光景でよく覚えてます。

※¹ 混雑区間や合流分岐付近などには制限速度がある。
※² 当時のエピソードは菊地成孔著『服は何故音楽を必要とするのか?』(河出書房新社)に収録。

菊地成孔

きくち・なるよし 音楽家、文筆家、音楽講師、ジャズメンとして活動。思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽・著述活動を旺盛に展開し、ラジオ・テレビ番組でのナビゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画・テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の音楽を自らの生徒とともに立ち上げた「新音楽制作工房」とともに担当。

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