災害時の車中泊避難で注意すべきこと
JAF Mate 2020年4月号掲載「災害と車中泊」より2004年の新潟県中越地震、16年の熊本地震では、多くの避難者が車中泊を余儀なくされた。その後、17年の九州北部豪雨、18年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震、19年の台風19号の際も、車中泊避難が行われた。その理由は? リスクは? さまざまな視点から災害時の車中泊について検証する。
※本記事はJAF Mate 2020年4月号に掲載した特集「災害と車中泊」を再構成した記事です。取材は2020年1月、2月に行いました。記事中の取材対象者の肩書や発言等は当時のものです
災害時の車中泊避難、その理由
2017年に熊本県が行った調査によると、熊本地震の際に避難したと回答した2,297人中、自宅の駐車場や周辺道路などの「自動車の中」(車中泊)で避難した人は1,568に上った。
なぜ、これほど多くの人が車中泊を行ったのか。
熊本地震の調査を行った、長崎県立大学の黒木誉之准教授(現教授)は、「理由はさまざまだが、見方を変えれば、避難所のあり方も含めた災害時の課題として理解しておく必要がある」という。
熊本県「平成28年度熊本地震に関する県民アンケート調査」より
最も多かった理由の「車が一番安全だと思った」は、自宅や避難所となる建物の耐震性への不安が要因と考えられる。
次に多かった「プライバシーの問題」という理由は、避難所ではプライバシーに配慮した取り組みも進んでいるものの、多数の人との共同生活を送るうえでの不安解消には至っていないという現状を示している。
ダンボールベッドとテントで仕切られた避難所の一例(写真は北海道北見市で2020年1月に行われた「厳冬期避難所展開・宿泊演習」の様子)
ほかにも、「小さい子供や体の不自由な家族がいた」「避難所が満員で入れなかった」「ペットがいた」などのほか、空き巣が気になるといった、平時に解決していない、あるいは見えていない課題に直面した人々が、避難所に代わる緊急の避難先、あるいは避難所生活で支障が生じた場合の拠点として車中泊を選んだと、黒木氏は指摘する。
車中泊避難の課題とは
車中泊避難の一例(写真は北海道北見市で2020年1月に行われた「厳冬期避難所展開・宿泊演習」の様子)
車中泊による避難は、市民の安全・安心を担う行政の側からすると、異なる視点もある。
本誌が複数の自治体に対して行った車中泊についてのアンケートでは、「避難者を把握できない」「食糧や情報の提供などが十分に行き届かない」「避難者同士のトラブル」「救助や消火活動に支障をきたす」「車中泊を行うスペースがない」「エコノミークラス症候群が発生する」など、支援や情報、治安、健康などの面で、車中泊への懸念を示す意見が多くあがった。
これについて黒木氏は、「災害時に市民が納得するような対応策を提示できなければ、車中泊がゼロになることはない」とし、車中泊の是非については「行政と市民、企業、ボランティア、NPOなど地域の多様な主体が関わって決めるべき」と言う。
被災を経験した自治体では、「車中泊の発生を前提に、地域社会と協力して必要な支援を行う」との回答もあった。
車中泊避難で最低限知っておきたいリスクとは?
こうした課題を踏まえつつ、もし災害時に車中泊を行う場合、注意すべき点は何か。
日本赤十字北海道看護大学 災害対策教育センター長の根本昌宏教授は、高齢者や妊婦などは車中泊を行うべきではないとの前提で、「自分の車で車中泊ができるのか確かめておくなど、自力で何をどこまでできるのか、また、できないならどうすべきかを考えておく必要がある」と言う。
新潟大学大学院 医歯学総合研究科(現医歯保健学研究科(医)) 特任教授で医師の榛沢和彦氏は、車内で長時間座った状態では、足の静脈に生じた血栓が肺の血管を詰まらせるエコノミークラス症候群の危険が増すため、「着圧ソックスを履くなど、血栓の発生を予防するように」と言う。
災害時に移動可能なコンテナ型トイレの例
また、トイレを我慢しようと水分摂取を減らすと、健康状態が悪化するという悪循環にも陥る。
さらに、熱中症や低体温症、一酸化炭素中毒にも注意が必要だ。
こうしたリスクの知識と予防がなければ、車中泊は命にかかわる、ということを十分に理解しておこう。
車中泊で注意すべきポイント
日本赤十字北海道看護大学 災害対策教育センターの根本教授に聞いた、車中泊の際の注意点とは?
エコノミークラス症候群
血栓を防ぐため、座った状態でつま先を引き寄せて数秒キープしたり、伸ばした状態で体重をかけたり、少し負荷をかけた運動を。着圧ソックスも有効。
トイレの場所
トイレを我慢せずに水分を摂取することはとても重要。定期的に体を動かすことにもつながるので、安全にトイレが使える駐車場所かどうかを確認しておこう。
一酸化炭素中毒
雪でマフラーが埋まったり、狭い場所でエンジンをかけ続けると排ガスが車内に入り込み、最悪の場合は死に至る。必ずエンジンを切り、空調以外の冷暖房を。
※編集部注:主に積雪期の車中泊を前提にしています
車内での就寝
きちんと睡眠できるよう、段差に毛布を置く、隙間に荷物を詰めるなどして、車内をなるべくフラットに。あらかじめ自分の車でシートアレンジを試しておくといい。
車に備えておきたいもの
・着圧ソックス(ふくらはぎ圧19hPa/足首圧23hPaの圧力値標準規格を満たすもの)
・手回しラジオ
・懐中電灯(ヘッドライトが良い)
・軍手
・レインポンチョ
・ウェットティッシュ
・タオルや歯ブラシなどの洗面用具
・寝袋
・毛布
・使い捨てカイロ(※冬期、体に貼るタイプ)
・虫よけスプレー(夏期)
など。
災害時の熱中症予防~避難生活・片付け作業時の注意点~|内閣府 消防庁 厚生労働省 環境省
- ※本記事はJAF Mate 2020年4月号に掲載した特集「災害と車中泊」を再構成した記事です。取材は2020年1月、2月に行いました。記事中の取材対象者の肩書や発言等は当時のものです。