疑問解決!? JMO特命調査団

停止線の止まり方で運転スキルがバレる!? 菰田潔流・カッコいい止まり方とは

街行くクルマを大調査! ドライバーの車両感覚はいかに?

2022.11.30

文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/写真=柴田直行

2022.11.30

文=高橋 剛/イラスト=北極まぐ/写真=柴田直行

「停止線の止まり方ひとつで、その人の運転スキルはバレバレです」と言うのは、JAF Mate 運転レッスンでもおなじみのモータージャーナリスト・菰田潔さん。「どこでどう止まるか」は、確かに運転の基本中の基本だ。そこで今回は街中の停止線でクルマがどう止まっているかを調査。菰田さん流「カッコいい止まり方」を軸に、徹底解説していただいた。さあ、「人の運転見て、我が運転直せ」だ!

停止線、どこで止まるのがカッコいい?
「手前50cm以内なら上出来」と菰田さん

「ドライバーの運転スキルを判断するには、停止線の止まり方がもってこい」と語る菰田さん。菰田さん流の判断基準を教えていただいた。

◉2m以上手前……××
「一見すると安全に気を使っているように思える止まり方ですが、実はかなりのカッコ悪さ。実際、免許実技試験の検定では『停止線で止まったことにならない』と判断され、NGとなります。ムダにスペースを食ってしまい、後方で不用意な混雑を引き起こす可能性もありますよね。2m以上も手前で止まってしまうのは、車両感覚のなさがバレバレ。昔のクルマはボンネットがよく見えて見切りがよかったのですが、最近はいろいろな理由からボンネットが見えづらく、前がどこまでかわかりにくいのは確か。ですが、クルマの変化に合わせて車両感覚もアップデートしなければなりません」

◉2m~50cmの間……△(及第点)
「交通ルール&マナーには適合していますが、自車の先端がどこにあるのかわかっていないのが残念! 『停止線を守ろう』という意識はあるものの、カッコいいドライバーになるためには不十分です。『白線ピッタリにカッコよく止めよう』と、もう一歩先の意識を持ってほしいものです」

◉50cm以内……○(上出来)
「前方の車両感覚が備わっていますし、法令遵守(じゅんしゅ)の意識も高い! 上級レベルの仲間入りです」

◉停止線ピッタリ……◎(素晴らしい!)
「車両感覚はバッチリ! これはカッコいい運転と言えますね。……肝心なのは、これが『たまたま』や『まぐれ』ではないこと。毎回ピッタリ止まれていれば文句ナシです。ただ、少しでも停止線とかぶるとアウトなので注意してください」

◉停止線とかぶる……×(惜しいが実はアウト)
「一見ちゃんと止まれているように見えますが、道路交通法に則れば、バンパーが停止線上に少しでもはみ出せば即アウトです」

◉停止線を越えて止まる……×(完全にアウト)
「赤信号でも、前輪が停止線を越えて止まっているクルマを目にすることがあります。これは運転に慣れてしまい、なあなあになっている証拠。ベテランドライバーにも多く見られますが、非常に良くない習慣ですね。また、信号機のない一時停止の交差点では、『停止線で止まっても先が見通せないから』という主張もありますが、それは違います。停止線では必ずいったん停車し、ゆっくり前に出ながら確認することが安全上必要です。逆の立場になってみてください。横から急にクルマの頭が飛び出してきたら怖いですよね?」

◉停止線で止まらない……××(論外)
「運転スキル以前に、道交法を守ろうという遵法精神がありません。論外! 中には、速度を落として止まらずに通過し、『止まったよ!』と言い張る人も。自分では止まったつもりなのでしょうが、タイヤが完全に停止しなければ止まったことにはなりません。正確に『止まった』かどうか、スピードメーターで確認するクセをつけるとよいでしょう」

◉一時停止について
停止線による一時停止は道路交通法第43条によって定められており、「車両等は、(中略)道路標識等による停止線の直前(道路標識等による停止線が設けられていない場合にあっては、交差点の直前)で一時停止しなければならない(後略)」とある。
停止とは、完全にタイヤが止まっている状態のこと。停止時間の定めはないが、タイヤの動きを完全に止め、左右および前方の確認をしてからゆっくりと発進することを考えれば、少なくとも2~3秒は停車することになるはずだ。
警察庁の発表によると、2021年は停止線で止まらない「一時不停止」による検挙数がもっとも多く、158万8628件にも上る。「一時不停止」の違反点数は2点、普通車の反則金は7,000円。くれぐれもご注意を。
なお、信号のある交差点で赤信号の際に停止線をはみ出した場合は、道路交通法施行令第2条「赤色の灯火:車両等は、停止線を越えて進行してはならないこと」に該当。厳密には信号無視として検挙の対象となる可能性がある。

信号のある交差点の停止線で100台を調査

調査場所は、下って上るという、ちょうど谷間に設けられた信号のある交差点。右折レーンがあるため停止線は長く、車両感覚はつかみやすいはず。その一方で、下り坂になるため、ブレーキテクニックを要する面も。

信号のある交差点

信号のある交差点の停止線

停止線の手前50cmと2mの位置にあたる歩道の縁石に、目安となるテープを貼付。赤信号で先頭に止まったクルマを対象として、100台の止まり方をJMO特命調査団員が目視で確認した。

停止線から50cmと2mの位置に貼られたテープ

停止線と車の位置を目視で確認する調査団員

結果発表! カッコよく止まれていたのは100台中わずか10台

菰田さんコメント:
私が「カッコいい」と思える、停止線ぴったりに止まったドライバーが2名、そして50cm以内に止まったドライバーが8名という結果に。これは全体のちょうど10%にあたりますが、「思ったより多いな」というのが私の印象です。
普段の交通状況を眺めていて、「カッコいいな」と思える止まり方ができているドライバーは、実際には1割にも満たず、ほんのわずかです。この交差点を通過したドライバーは、まずまず優秀と言えそうですね(笑)。
停止線を越えて止まった12名のドライバーは論外として、気になるのは2m~50cmの間で止まったドライバーが49名、2m以上手前で止まったドライバーが16名と、合わせて65名にも上ることです。残念ながら車両感覚が足りず、あまりカッコよくはありませんね。2m以上手前に至っては、停止線で止まったことになりません。
恐らく、「停止線を越えずに止まろう」という安全意識が強く働くからこそ、手前で止まってしまうのでしょう。もしかしたら技能試験での「ちょっとでも停止線をはみ出したら減点される」という記憶が染みついているのかもしれません。
ただ、車両感覚が足りていないのは間違いありません。

信号のある交差点での調査結果

調査団員は見た…。「停止線あるある」

  • 停止線で止まるやいなや、「待ってました!」とばかりにスマホを取り出してチェックする人たち。何人かいました。
  • 若めの男性が停止線の2m以上手前で停止。止まっている間中ずっとスマホを触り続け、なんと発車時もその視線はスマホに落とされたままだった……。運転に集中してください!
  • 2mどころか約5mも手前で停止した高齢男性。隣の右折車線の車も思わずつられて、高齢男性の横に停止。つられちゃダメ~!

調査団員は、調査中に上記のようなシーンを目撃していた。
赤信号などでクルマが完全に停止していれば、スマホの操作が道交法に触れることはないとされている。しかし、操作に集中力を奪われ、周囲の状況認識がおろそかになりやすい。また、青信号に変わっても発進が遅れるなどして、後続車にも影響を及ぼしかねない。危険につながる行為であると認識し、赤信号での停車中もスマホの使用は控えたほうがいい。
また、高齢者は車両感覚にも衰えが出やすい。「手前で止まればいいってものではない」と認識し、練習のうえ、できるだけ停止線の近くに止めるよう心がけたい。

【番外編】衝撃! 信号のないT字路での調査結果は…

JMO特命調査団は、信号がないT字路に設けられた停止線でも調査を敢行。片側1車線の通りに出る信号がないT字路で、停止線の先には横断歩道がある。

信号のないT字路

すると驚きの光景が! なんと100台中59台が停止線で止まらず、16台が停止線を越えて止まり、合わせて75台が完全論外という非常に残念な結果となった。これには菰田さんも「衝撃的ですね……。運転スキル以前の問題ですよ」とあきれ顔。「恐らく、停止線で止まっても先が見通せないからだと思います。でも、それは言い訳。ここには横断歩道もあり、大変に危険です。いったんはしっかりと停止線で止まることが事故防止の大原則。安全を確認しながらゆっくりと発進しましょう」。道交法を守っていたドライバーは18人だったが、停止線ピッタリに止まり、菰田さん流「カッコいい運転」に該当したのは、そのうちたった1人。カッコよさへの道は険しい……。

信号のないT字路での調査結果

停止線できちんと止まることは、運転の腕前に直結する!

菰田さん総評:
私が考える「カッコいい運転」とは、クルマを完全に意のままに操れている状態のこと。車両感覚にもこれは当てはまり、狙ったポイントでしっかり止まれていることが、傍(はた)から見ていても「うまい!」「カッコいい!」という評価につながると思います。
逆に言えば、狙ったポイントできちんと止まれていないとなんともだらしなく、カッコ悪く見えてしまうものです。運転下手がバレバレですので、くれぐれもお気を付けください。
付け加えておくと、真の「カッコいい止まり方」は、ただ狙ったポイントに止まるだけではなく、スッと滑らかに止まり、スッと滑らかに再発進することです。同乗者の頭が動かないようなスムーズな運転は、ワンランク上のドライビングとして一目置かれることでしょう。
車両感覚は、練習することで身に付けることができます。詳しくは私の運転レッスンをご覧ください。世界的に見ても、日本は一時停止の多い国。それだけ練習の機会が多いとも言えます。道交法を遵守することは当然のこととして、もう一歩先の「カッコいい運転」をめざしてくださいね。

  • 狭い道にある停止線で、大型車両が曲がってきた際に危険を感じる場合などは、状況に応じて安全を確保できるスペースを取って停車するなど、臨機応変に対応しましょう。

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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