疑問解決!? JMO特命調査団

飲酒運転の悪影響をバーチャル環境で徹底検証!

eモータースポーツでその恐ろしさを証明!?

2022.10.04

文=高橋 剛/撮影=堤 晋一

2022.10.04

文=高橋 剛/撮影=堤 晋一

ドライバーが絶対にやってはいけないことのひとつ、飲酒運転。「飲んだら乗るな 乗るなら飲むな」の標語はあまりにも有名だ。今回は、実際にお酒を飲んだら運転にどのような影響を及ぼすのかを、ゲームの世界で徹底検証。バーチャルだからこそ可能な調査により、飲酒運転の恐ろしさが改めて浮き彫りになった!

テストのために集結したのは
eモータースポーツのトップランカーたち!

調査にご協力いただいたのは、リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズのトップランカーたち。国内最大規模のeモータースポーツである「JEGT」の認定プレイヤーで、日本はもちろん、世界を舞台に大活躍している。運転の腕前は確かだ。

山中智瑛選手
「レース巧者」のワールドチャンピオン

山中智瑛選手の写真

日本におけるeモータースポーツの第一人者。5歳からグランツーリスモを始め、2012年、「GT5 アジアチャンピオンシップ2012」で大会デビュー。2019年には世界大会「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ マニュファクチャラーシリーズ」でワールドチャンピオンを獲得した。最後まで諦めない粘り強さと、レース展開を読んでの走りが持ち味。運転技術はもちろん、トーク力もバツグン。後輩の面倒見がよいアニキ肌だ。29歳。

佐々木唯人選手
物怖じしない、期待の若手ホープ

佐々木唯人選手の写真

2019年、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI グランツーリスモSPORT部門」少年の部で3位、日本自動車工業会主催の「都道府県対抗U18全日本選手権」でも3位に。翌2020年は、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 KAGOSHIMA グランツーリスモSPORT部門」少年の部で全国第3位となった。物怖じしないタイプで、レースでも強さを発揮するが、「何かひとつ足りないんスよね」とは本人の弁。今後に期待できる20歳。

鍋谷奏輝選手
マイペースで安定した走りが持ち味

鍋谷奏輝選手の写真

2019年、JAF認定「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ」西東京大会で優勝し、鈴鹿グランドファイナル大会に出場。2020年、「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 KAGOSHIMA グランツーリスモSPORT部門」では一般の部・埼玉県代表で全国第8位に、翌2021年の「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 MIE グランツーリスモSPORT部門」一般の部では全国3位となった。声優アーティストの大橋彩香さんの大ファン。物静かで、レース運びも慎重派。21歳。

まずはいつも通りレース!
ハイレベルな争いが繰り広げられる…

シート、ハンドル、モニタをセットした写真

今回は、飲酒が運転に及ぼす影響を調査するのが目的。まずはシラフの状態でレースをしてもらった。使用したコースは首都高速をイメージした「東京エクスプレスウェイ・東ルート 外回り」を使用。1周7301mの高速コースで、壁に囲まれているためわずかなミスで接触してしまい、大きなタイムロスにつながる。

さすがはトッププレイヤーたち。ロングコースでもコンマ数秒を争う見応えのあるハイレベルなレースが展開された。各プレイヤーとも正確かつ繊細な運転操作を行っており、シビアなコースながら接触などもほとんど見られず。

「バーチャルではさほど変わらないのでは」という予想とは裏腹に、運転は大きく変化

乾杯時の様子

シラフでのレースを終えた後は、別室で飲み会開始! eモータースポーツでも通常ではあり得ない行動に、「いいのかなぁ……」と、戸惑いを隠せない各プレイヤー。あくまでも調査のために、あえてご自分たちのペースでお酒を飲んでもらった。

1時間で缶ビールを2~2本半ほど飲んだ各プレイヤーだが、いつも以上にトークが滑らかになる山中選手、「すぐに顔に出るんですよね~」と真っ赤っかな佐々木選手、そして普段とあまり変わらず物静かな鍋谷選手と、三者三様だった。

3人の呼気中アルコール濃度
山中選手……0.23mg/L
佐々木選手……0.25mg/L
鍋谷選手……0.19mg/L

  • 酒気帯び運転の基準値……0.15mg/L以上

東京エクスプレスウェイ・東ルート 外回りの画面

1時間の飲酒では、佐々木選手の顔が多少赤くなった程度で、各プレイヤーの行動や様子に大きな変化は見られない。「シラフのときとそんなに変わらないんじゃないかな~」と半信半疑でハンドルを握ったプレイヤーたちだったが……端から見ていると運転はかなり変わっている! 皆さん妙に明るくなって、操作が派手に。

「もっと相手に意地悪してやろうかな~と思った」と山中選手が言えば、「よく言えば大胆。悪く言えば雑になった」と佐々木選手。マイペースの鍋谷選手は「ドライバーズシートに座れば目が覚める」と言いつつも、「細かい操作ができなくなって、反応も遅れますね……」と驚いた様子だった。トップを走る山中選手に、佐々木選手と鍋谷選手が迫る展開。実際の道路ならあおり運転で検挙される勢いの接近戦が繰り広げられる。シラフのときよりも接触が多く、かなりアグレッシブだ。2周目、佐々木、鍋谷の両選手が山中選手をパスするが、その直後に鍋谷選手がまさかのクラッシュ。飲酒が運転に危険な影響を及ぼすことが早くも明らかに! 
混乱に乗じてトップを奪い返した山中選手が、そのままチェッカーを受けて優勝した。

運転操作が雑になりミスが頻発! レースのレベルが大幅にダウン

盛り上がる飲み会の様子

「1時間で終わる飲み会なんてない!」というわけで、さらに飲酒を続けてもらう。延べ1時間半を過ぎると、だいぶできあがった雰囲気に。ソファに腰かける姿勢もグダグダに崩れ、会話の内容もグダグダに。

後輩たちに絡む山中選手、絡み返す佐々木選手と鍋谷選手、といった感じで、もはや完全に酔っ払い。かなり楽しそうだ。ただし、酒量はそれほど増えていない。最後の1時間で追加したのはチューハイなど1~1.5本だったが、呼気中アルコール濃度は大幅に増えている。

3人の呼気中アルコール濃度
山中選手……0.75mg/L
佐々木選手……0.59mg/L
鍋谷選手……0.26mg/L

延べ2時間の飲み会を終えて、2レース目を開始……しようにも、各プレイヤーの動きはすっかり緩慢になり、トイレからなかなか戻ってこなかったりとスムーズに進行しない。かなり「酔っ払っちゃった」状態と言っていい。

それでも、さすがはトッププレイヤーたち、ハンドルを握ると目つきが変わる。真剣なレースがスタートしたが、各プレイヤーともまばたきがゆっくりで、みんな眠そうだ。レースが始まると、壁への激突や車両同士の接触など、シラフのときには見られなかったシーンも頻発し、全体に相当レベルが低下していた。

物静かな鍋谷選手は口数が増え、饒舌(じょうぜつ)な佐々木選手が無口に。山中選手の様子は一見すると変わっていないようだったが、運転は細かいミスが頻発した。各プレイヤーからは「行ってしまおう!」という言葉も目立ち、冷静な判断力を失っていることがわかった。

全員がタイムダウン
集中力が落ち、走りは不安定に

飲酒時のタイムアタックの様子

次はレースではなく、単独走行で最速ラップタイムを狙うタイムアタック。他車との駆け引きがない分、より純粋な運転技術が問われる。シラフ時にタイムアタックしてもらい、データを保存。2時間の飲み会後に再度タイムアタックする。

その際は、シラフ時の車両映像(ゴースト)が0.5秒先行した状態でスタート。ゴーストに追いつけばタイムアップ、離されたらタイムダウンということになる。

結果は当然のように、全員タイムダウン。トッププレイヤーの意地もありタイムの落ち幅は少ないものの、運転操作は軒並み雑に。冷静な判断が持ち味の山中選手は「タイムは変わらないと思ってたけど……。迷ったときに下す判断を間違えやすくなってますね」とコメント。佐々木選手は「危険を顧みずに突っ込んじゃいますね」。マイペースで安定志向、呼気中アルコール濃度も最も低かった鍋谷選手だったが、走りは明らかに不安定に。「集中しようとしてもできないんですよ。頭がボーッとして気が散ってしまう。反応も鈍くなってました」と語った。

影響はやはり大!
プロでもアルコールには抗えなかった!

現実を精密にシミュレートしたゲームでの調査の結果、飲酒は運転操作に大きく影響することがわかった。今回調査にご協力いただいたのは、高い運転技術を備えた日本のトッププレイヤーたち。それでもお酒を飲むと、レースはグダグダ、タイムはダウンと、大きく能力が落ちてしまうのだ。

ゲームの世界は、現実よりもかなりシンプル。複雑な事柄が同時に起き、それらすべてを正確に認知し、判断し、操作しなければならない現実の運転では、飲酒は絶対に許されないことが明らかになった。

飲酒は絶対に許されない。両手でバツを作る三人。

調査を終えて

山中選手の写真

自分ではそれほど操作に影響は出ないと思っていましたが、想像以上にうまくいかなくなっていました。見えている景色に対して、脳が下す判断がそのつど間違えてしまう、という感じです。eモータースポーツでは「0.1秒タイムが落ちた」という程度で済みますが、現実の公道では0.1秒の遅れが致命的な事態を引き起こしかねません。飲酒運転は論外だな、と改めて思いました。

 佐々木選手の写真

お酒を飲むと、全体的に動きがだるくなり、反応も鈍くなりますね。ゲームとしては瞬間的に勢いが出るという面もありますが、操作は雑に。しかも、本能で走っているような感じで、行き当たりばったり。1周全体を考えて走りを組み立てることができなくなりました。頭が回転していない状態になってしまいますね。

鍋谷選手の写真

ゲームでも細かくブレーキを踏むなど、かなりていねいな操作が求められるんですが、かなり大ざっぱになりました。細かく調整しようと意識していても、体が言うことを聞いてくれないんです。自分の持ち味である安定性は、かなり失われてしまいましたね。率直な印象としては、「お酒を飲んでの運転はかなり恐ろしいことなんだな」と感じました。

  • 飲食は撮影場所である埼玉県のガイドに則り行いました。
  • 自動車を運転する際には、絶対に飲酒をしないようにしましょう。
  • 今回は実験として、ゲームプレイに際し飲酒しています。ゲームの場合でもプレイ中に体調が悪くなったら、すぐにプレイするのをおやめください。

・使用したゲームソフト
PlayStation 5.PlayStation 4用ソフト『グランツーリスモ7』
Gran Turismo 7: TM & ©2022 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.

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