疑問解決!? JMO特命調査団

レンタルカートで徹底調査! レーシングドライバーの超的確アドバイスで我々はどこまで速くなれるのか!?

2022.08.04

文=高橋 剛/撮影=堤 晋一

2022.08.04

文=高橋 剛/撮影=堤 晋一

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

手ぶらで楽しめるとても気軽なモータースポーツ、レンタルカート。だが「スポーツ」の名が付く以上、我々はガチで挑み、ドライビングテクニックを向上させなければならないのだ……! アマチュアドライバーたちを、少しでもタイムアップさせるために、熱きレーシングマインドを持つ男、プロドライバーの飯田章が立ち上がった。

レンタルカートをより楽しむために
タイムアップを狙おう!

買い物客で賑(にぎ)わうショッピングモール。広大な駐車場の一隅にサーキットがある。千葉県の「ハーバーサーキット木更津アウトドア店」だ。バタバタバタッとエンジン音を響かせて走っているのは、レンタルカート。買い物途中のカップルがキャッキャとはしゃぎながら、270ccのカートを走らせている。

お気軽なレジャー感満載のハーバーサーキットだが、ある男の登場により空気が一変した。スポンサーロゴ入りのレーシングスーツに、オリジナルカラーのヘルメット。プロのレーシングドライバーとして活躍し、スーパーGTのチーム監督を務め、国際自動車連盟(FIA)の仕事にも従事している飯田章さんだ。

「よーし、みんなをタイムアップさせるぞ!」。やる気マンマンの飯田さんに従っているのは、3人のJMO特命調査団員たち。今回は、プロのアドバイスにより、我々アマチュアがレンタルカートでタイムアップできるのかを調査するのだ。

プロが速く走れるのは当たり前。調査の焦点は、「プロのアドバイスは、アマチュアに対して本当に的確に作用するのか」である。

誰もが気軽に楽しめるレンタルカートだが、電光掲示板には走行タイムが表示され、その日、その月のランキングも掲示される。ここはやはりサーキット。モータースポーツの舞台なのだ。果たして、飯田さんのアドバイスを受けた調査団員たちは、タイムアップできるだろうか……。

調査の舞台は千葉県・ハーバーサーキット木更津アウトドア店

コース図

コースの写真

全長430mで、コーナーは9つという本格的なレイアウトを備えるハーバーサーキット木更津アウトドア店は、レンタルカートの人気コースだ。Sodi Kart社製カート「RT8」は、同コースでの最高速が時速約60km。視線が低いので、体感スピードは2倍とも言われる。また、サスペンションがないのもカートの特徴。クイックな操縦感覚が味わえる。シートベルトやロールバー、360度プロテクション機構など安全面にも配慮。ヘルメットなどの装具も一式レンタル可能で、キッズ専用カートも用意されている。

住所:千葉県木更津市築地1-4 イオンモール木更津内 館外
TEL:0438-53-8055
ハーバーサーキットウェブサイト

レンタルカートも全力全開!
講師はプロレーシングドライバーの飯田章さん

飯田章さんの写真

19歳で4輪レースにデビューし、ツーリングカーレースを中心に、全日本F3000選手権、ル・マン24時間レース、フォーミュラ・ニッポンなど国内外のさまざまなレースで活躍。SUPER GTでは2002年にGT500クラス総合優勝を果たしている(当時は全日本GT選手権)。2022年はLM corsaチーム監督として、SUPER GT・GT300クラスに参戦。EVレースやドリフト競技の普及にも積極的に取り組む。

ベテラン、超ビギナー、ノーマル…。
タイムを伸ばせるのはいったい誰か!?

モニター1の写真

学生時代に少しだけレーシングカートを経験。圧倒的な才能を有する少年カートドライバーたちを目の当たりにして、レーシングドライバーへの道は早々に断念した。運転をこよなく愛し、所有する車は3台ともすべてマニュアル。運転歴30年以上。

モニター2の写真

2022年4月に免許を取得したばかり。運転歴2か月のリアル初心者ドライバー。教習所に通うことすら苦痛だったが、運転するたびに車特有の操縦感覚に魅了され、今やモータースポーツにも興味を示すように。ちなみに取得したのもMT免許。

モニター3の写真

運転歴9年。F1は欠かさずチェックするものの、ものすごく運転が好きというわけでもない、中庸の人。レンタルカートは何度か経験があるが、お遊び程度。柔和な笑顔を絶やさない穏やかな人柄だが、今回の企画で秘めたる負けず嫌いが炸裂(さくれつ)する。

走行時間は6分×2枠のわずか12分。
プロのアドバイスでタイムアップを狙う

飯田さんの話を聞くモニターの写真

ハーバーサーキット木更津アウトドア店の走行枠は、1枠6分。これを各人2枠利用して、調査を行った。1回目は単独で自由に走行し、タイムを計測。ピットに戻ってから飯田さんのアドバイスを受ける。2回目はコースへの慣れを早めるべく、最初の数周を飯田さんが引っ張る先導走行を実施。その後は単独で走行する。再びタイムを計測し、ベストタイムが1回目より短縮できているかを探る。

モニター1

カート経験者だがドライビングのクセが強い!
ストイックにタイムを追い求めよ

1回目のベストタイム・・・33秒731

さすがは経験者、走り始めてすぐに3人の中ではトップの33秒台後半に突入。だがほどなく頭打ちとなり、34秒台前半~33秒台後半をウロウロ。飯田さんのひと言目は「クセが強い!」。勢いはあるが、我流が染み込んでいるようだ。「コーナリングや縁石に乗ることを楽しんじゃってるね。でもそれは無駄」と飯田さんはバッサリ。「タイムを出すには、無駄をなくす必要がある。コーナー進入時にしっかり減速して、コーナリングするというより、カートの向きを変えることを意識して」

2回目のベストタイム・・・33秒261
⇒0.470秒短縮!

33秒台前半でコンスタントに周回し、最終ラップに33秒261のベストタイムをマーク。アドバイスを受けてのコンパクトな走りが功を奏した。しかし本人いわく「タイムを出す走りはストイックすぎる~。無駄な走りの方が楽しい~」とのこと。「それじゃ速くなれないよ。うーむ、最大の問題は性格だな……」と苦笑いする飯田さんであった。実際のところ、レースの世界ではドライバーの性格がかなり運転に現れるそう。無理、無茶、無駄などを好むドライバーは大成しないのだとか。モニター1、ノックダウン。

モニター1アドバイス前走行写真

アドバイスを受けて、コーナーに進入する前にカートの向きを変える「ストイック走り」を習得したモニター1。

モニター2

全開の魅力を知ってしまった超ビギナー。
熱心さも幸いして圧巻のタイムアップ

1回目のベストタイム・・・36秒432

まったくの初心者ドライバーであるモニター2は、性格的にもかなりの慎重派。いかにも「恐る恐る」という走りで、1回目のベストタイムは36秒432に留まった。本人としてはそれなりに頑張ったつもりだったが、カートならではのスピード感にも慣れなかった。「まずはコースとカートに慣れて」と飯田さん。「大事なのは、アクセルを全開にできるところでキッチリと全開にすること。コーナーを脱出したら、次のコーナーまでアクセル全開! それがモータースポーツの原点だよ」

2回目のベストタイム・・・34秒124
⇒2.308秒短縮!

飯田さんに先導走行してもらい、アクセル全開にしても大丈夫だということを知ったモニター2は、なんと2秒308もの飛躍的タイムアップ! モータースポーツはコンマ1秒を競う世界だけに、これは驚異的だ。勉強熱心なモニター2は、飯田さんに積極的に質問。「なるべく速いスピードでコーナーに突っ込むべきでしょうか?」という問いに、飯田さんは「いやいや、逆だよ。考え方としては『スローイン、ファストアウト』。教習所で教わることと同じなんだ。速いスピードでコーナーに突っ込むと、外側にふくらんでしまうのでなかなかアクセルを開けられず、結果的に遅くなる。コーナーに入る前にしっかりと減速し、コーナリングスピードを落としたほうが、アクセルの全開時間を長くできるんだよ」

モニター2走行写真

飯田さんに先導してもらうモニター2(左)。「自分より速い人に頑張ってついていく練習は、コースに慣れることにとても有効です」と飯田さん。

モニター3

性格通り安定安心のドライビングだが
速く走るためには熱さや勢いも必要

1回目のベストタイム・・・35秒429

「性格、すごく素直でしょう? 走りににじみ出てるよ」と飯田さんに見抜かれてしまったモニター3。ステディなドライビングだが、気迫というか、気合いというか、もうひとつ熱さが足りない。「丁寧だし、慎重なのは好感が持てるんだけど……」と飯田さん。「頭の中に自分なりのセオリーがあって、ただその通りに走ってるという感じだね。コーナーも、アウト-イン-アウトという鉄則に従ってるだけ。でもサーキットでは、必ずしもそれが正解とは限らないんだ。次のコーナー、さらにその先のコーナーに向けて、違うラインを探す必要もある。臨機応変さも大事だよ」

2回目のベストタイム・・・33秒853
⇒1.576秒短縮!

飯田さんのアドバイスを聞き、先導してもらうことで1秒576の大幅タイムアップを果たしたモニター3。最終コーナーへのブレーキングでは車体を激しく揺らすアグレッシブさを見せ、「だいぶ気持ちよく走れるようになりました!」と満面の笑み。ベテラン・モニター1とコンマ6秒差にまで迫る好タイムとなった。だが、ここからのコンマ数秒は高くブ厚い壁。飯田さんは「カートは、コーナーの外側に体重をかけると旋回力が増すんだ。体重移動も意識してみてね」とさらなるアドバイスを送った。

モニター3アドバイス前走行写真

アウト-イン-アウトに縛られてアウト側ギリギリを走る、アドバイスを受ける前のモニター3。

モニター3アドバイス後走行写真

アドバイスを受けたあとの走行では、走り方を変えながらベストな走行ラインを模索していた。

飯田章さん直伝!
これが速く走るための3原則だ!

レンタルカートは、タイムアップが醍醐味(だいごみ)の立派なモータースポーツ。飯田章さんに、タイムを縮めるためのコツを教わった。これを読んで実践すれば、レンタルカートはもっと面白くなる!

  • アクセルを全開にできるポイントをつかむ

「まず大事なのは、アクセルを全開にすること。特にエンジンパワーが不足気味のレンタルカートでは、これが必須です。アクセル全開は、公道ではほとんどやらない操作なのでなかなか馴染(なじ)まないと思いますが、モータースポーツの出発点ですね。もっとも、サーキットといえども、どこでもアクセルを全開にできるわけではありません。コーナーを抜け、次のコーナーまでの間に距離がある直線区間などで、ストッパーに当たるまでアクセルを踏み込み、全開にしてみましょう」

  • コーナー手前でブレーキは早く、強く

「アクセルを全開にすると、当然、車速が上がります。でも、コーナーでは遠心力がかかるため、タイヤのグリップ力以上のスピードを出すことはできません。つまり、アクセルを全開にすることと、コーナー手前でしっかり減速することは、セットで考える必要があるんです。車速が上がっている分、コーナー手前では想像より早いタイミングで、想像より強くブレーキをかけることになります。これも公道では経験できないこと。サーキットでのアクセル全開と全力ブレーキは、車の挙動を知るうえでとても役に立ちますよ」

  • コーナリングスピードを高めすぎない

「これはちょっと上級テクニックですね。速く走ろうとすればするほど、頑張ってコーナリングスピードを高めたくなるものですが、むしろ逆。速い人ほどコーナリングスピードをしっかりと落としています。レンタルカートのタイムアップのコツは、とにかくアクセル全開時間を長くすること。コーナリングスピードを高めすぎると、コーナー出口に向けてどんどん外側にふくらんでしまい、なかなかアクセルを全開にできません」

正確で無駄のないレーシングドライバーの走り。
エンジンパワーをロスなく路面に伝える

飯田さん走行写真

飯田さんのドライビングは、とにかく正確だ。「いち早くアクセルを全開にする」という目的に向けて、あらゆる操作に無駄がない。レンタルカートは(レーシングドライバーからすれば)エンジンパワーがないので、いかにロスをなくすかが重要なポイントなのだ。レンタルカートは気軽に車体を振り回せるため、ついドリフトしてみたり、タイヤを鳴らしてみたくなるが、飯田さんの走りはそういうお遊びゼロのストイックさ。しっかりとタイヤをグリップさせて、無駄なく走ることを心がけている。ちなみに縁石に乗るのも、そこがベストラインだから。モニター1のようにハデに走りたいから、ではない。

飯田さんの提案で急きょ模擬レース開催!
競争は本当に人を向上させるのか!?

スタート前の写真

プロのアドバイスにより、大幅にタイムアップすることが確認できた今回のJMO特命調査団。無事終了……と思いきや、テンションの上がった飯田さんから「せっかくだから模擬レースしようよ!」という大胆な提案が。超ビギナードライバーとレーシングドライバーを交え、前代未聞の凸凹模擬レースが行われた。
スターティンググリッドは、タイムが遅い順に並ぶという「逆ポールポジション」式。飯田さんは「プロなんだからハンデがあって当たり前」と、みんなから大きく離れた最後尾グリッドとなった。

  • 撮影のために特別に許可を得て模擬レースを行いました。走行ルールについては施設まで直接お尋ねください。

スタートから飛び出したのは、なんと超ビギナーのモニター2。レンタルカートはパワーがない分、体重が軽いほど圧倒的に有利。痩身(そうしん)のモニター2は、軽さを生かしてグイグイとスピードを乗せる。
後方では、ベテランのモニター1が中庸モニター3をパス。と、最後尾から猛追してきた飯田さんが、モニター3、モニター1を瞬く間に抜き去る。モニター1は飯田さんを抜き返そうとするも、無理がたたってスピン! 戦線離脱してしまった。
飯田さんは、快調に飛ばすモニター2の背後に迫ると、あっさりとパス。トップに立つとそのままチェッカーを受け、おとなげなく優勝を果たした。以下、モニター2、モニター3、モニター1の順でゴール。
……というレースだったが、超ビギナーのモニター2と、ジェントルなモニター3はレース中に自己ベストタイムを更新! 「人と競い合うことで自分の限界を高める」という、レースの効能が浮き彫りになった。

模擬レースを終えて…

飯田章さんの写真

「おとなげないって? そりゃレースだから(笑)。それにしてもモータースポーツは性格が出るね。2位のモニター2は、走れば走るほどタイムアップする時期。慣れと体重の軽さが大きく影響していると思う。これからもっと速くなると思うよ。3位のモニター3は、レースってことでかなり気合いが入ってたね。優等生的だった走りが鋭さを増して、その分、ちょっと雑さもあったけど、これからに期待! そして4位になったモニター1は、無理なブレーキングでスピン。やらかすと思ってた人がやっぱりやらかしたね(笑)。レースだからって無理するとこうなる。実力以上の走りはできないんだから、落ち着いて!」

モニター2の写真

「めちゃくちゃ緊張したし、めちゃくちゃ頑張りました。いきなりポールポジションスタートでどうしたらいいかわからないし、後ろで何が起きているかもわからないし、とにかく必死。難しいことを考えている余裕がなかったので、シンプルにアクセル全開にすることだけを意識しました。ただ、なぜいいタイムが出たのか自分でつかめていないのがモヤります。頭の中でしっかり検証して、次戦(?)につなげたいと思います」

モニター3の写真

「……。……あ、すいません、悔しくてすぐには言葉が出てきません。ぐぬぬ……という感じですね。いくら体重差があるとはいえ、超ビギナーのモニター2に順位でもタイムでも負けてしまうとは……。タイムでいうとビリ。あ~、これはめちゃくちゃ悔しいですね。飯田さんのアドバイスをもとにもっと練習して、次戦(?)はさらなるポジションアップ、タイムアップを狙いたいです」

モニター1の写真

「飯田プロにズバリと抜かれて、その鮮やかさにすっかり楽しくなってしまったのが敗因ですね。『へへっ、抜き返してやれ!』と無理なブレーキングをしてスピンしました。その後は落ち着きを取り戻せず、雑な走りで単独走行時よりタイムを落としてしまいました。パワーもなく、スピードもあまり出ないレンタルカートですが、やはり無理は禁物、雑は御法度と痛感。性格を叩き直して、次戦(?)に臨みます」

JAF会員の皆様に向けて、レンタルカートがお得に利用できる優待があります。
詳しくはこちらをご確認ください。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles