休憩中の行動で変わるのか⁉ 長距離運転時の疲労度を調査してみた!
長時間のドライビングにおいて休憩が重要なのは、誰もが知るところである。しかし私たちドライバーは、本当に効果的な休憩を取っているのだろうか? 漫然と、非効率的な休憩をしてはいないだろうか? 「休めばいいんでしょ? 休めば」と「やらされ休憩」になっていないだろうか? 休憩の真髄をより深く探るべく、我々JMO特命調査団は、長時間運転時にとる休憩中の行動が疲労度に与える影響について、可能な限りの科学的検証を行うこととした。休憩についてマジメに向き合う、極めて真摯(しんし)な取り組みである。.
「マジメな休憩」と「不マジメな休憩」の違いを探る
東京都内を出発し、山岳風景が楽しめる福島県・浄土平(じょうどだいら)をめざす。市街地、高速道路、山岳路を含むルートは、1日で約400kmを走行するためにあえて遠回りしている。途中、数か所の休憩ポイントを設け、「マジメに疲労回復メニューをこなした場合」と「欲望の赴くままに不マジメに過ごした場合」で、疲労度に違いが出るのか検証する。
個人差が大きく、未解明な部分が多い、疲労。疲労に科学のメスを入れ、客観的に評価し、広く社会に役立たせようと取り組んでいるのが、株式会社疲労科学研究所だ。今回は同社の疲労ストレス測定システム「VM302」を使用。左右の人差し指を測定器に入れるだけで脈波(PPG)と心電波(ECG)を同時に測定し、疲労やストレスの評価基準となる自律神経のバランスをグラフで確認することが可能だ。
- ※自律神経とは……内臓の働きや代謝、体温などの機能を調整する神経のこと。交感神経と副交感神経の2種類がある。アクセルに例えられる交感神経は体の働きを活発にし、ブレーキに例えられる副交感神経は体の活動性を下げてリラックスさせる。車の運転と同じで、両方の適切なバランスが重要だ。
マジメ派&不マジメ派の理想的ペア
- マジメ派 モニター1
日頃から長距離運転の機会が多く、休憩の大切さは身をもって理解しているが、自らについて若干「疲れ知らず」と慢心気味。今回は休憩の質をさらに高めるべく、よりハイレベルな休憩を体感した。
- 不マジメ派 モニター2
学生時代にスポーツで鍛えた頑健な肉体の持ち主。かつては長距離運転にもへこたれなかったが、最近は体力の衰えを痛感。こまめな休憩を心がけている。道中好き放題飲み食いできると聞き、今回不マジメ役を買って出た。
- ほぼ同仕様のMAZDA3で条件を揃える
モニターが運転する車両が違うと、乗り心地や運転にまつわる緊張感が異なり、調査結果に影響を及ぼす。そこで条件を揃えるために、ほぼ同じ仕様のMAZDA3を2台用意。扱いやすいエンジン特性と快適な乗り心地、そして先進的な安全装備で、必要以上の疲労が及ばないよう配慮した。
出発前:東京都内
個人差はほぼない状態でスタート
風光明媚(ふうこうめいび)な観光スポットに向けての長距離ドライビング。テンションは上がるが、計測結果にできるだけノイズが入らないよう心を落ち着かせる。グラフの縦軸は自律神経の活動量(上に行くほど活動的)を、横軸は副交感神経と交感神経のバランス(左に行くほど副交感神経が優位でリラックスした状態)を表していて、モニター1は自律神経の活動量が若干少ないが、前夜もしっかりと睡眠を取ってかなり健全なコンディション。一方のモニター2はやや仕事の疲れが残っている模様。自律神経の活動量が少なく、バランスも崩れ気味で、ちょっと元気がない。しかし、両者の差はわずかだ。
マジメ派 モニター1
不マジメ派 モニター2
休憩の頻度と時間は揃え、内容を変える
以前JAFが行ったACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)利用時の疲労度を計測するJAFユーザーテストに倣い、約400kmのテストコースを設定。適切なタイミングで休憩を挟むこととした。モニター1はマジメに休憩し、モニター2は不マジメに休憩。その都度、疲労ストレス測定システム「VM302」で疲労度を記録していく。同じ車種で、できるだけ通常通りの走りを心がけ、なるべく純粋な疲労度合いを計測できるよう心がけた。
出発:東京タワー
↓ 首都高・外環道・関越道
第1休憩ポイント:上里サービスエリア(関越道)
↓ 関越道・北関東道・東北道
第2休憩ポイント:上河内サービスエリア(東北道)
↓ 東北道
第3休憩ポイント:安積パーキングエリア(東北道)
↓ 東北道
ゴール:浄土平ビジターセンター
疲労度調査のドライブがスタート
都内を出発してすぐに首都高速に乗り、関越道の上里サービスエリアをめざす。平日朝で、渋滞というほどではないものの、全体的な交通量はやや多し。それぞれ初めて乗るMAZDA 3に体を慣らしながらの走行になった。
休憩1:上里(かみさと)サービスエリア
ヨガでイキイキ。仕事で元気ダウン
上里サービスエリア到着時の計測結果(スタート地点から約120km運転)
モニター1
モニター2
マジメ派 モニター1
出発時とほぼ変わらない落ち着いたコンディション。もともと車好きで運転頻度も高いため、リラックスして今回の調査に臨んでいることがわかる。
不マジメ派 モニター2
リラックスしているものの、自律神経の活動量が落ち込み、より元気がない状態。あまり遠出をするタイプではないうえに、仕事に追われている影響か。
マジメ派 モニター1 ヨガ
人目をはばかることなくヨガを実践。自律神経を活発化させる目的で、腹式呼吸→チャイルドポーズ→猫のポーズ→長座前屈というメニューをこなした。これにより自律神経の活動量が大幅にアップ。交感神経が活発化し、イキイキとしている。
不マジメ派 モニター2 仕事
白昼堂々PCを広げ、ストレスフルな業務に邁進(まいしん)。自律神経の活動量は回復せず……。「休憩中に仕事してしまうと、まるでリラックスできない」という当然の事柄が科学的に実証された。
休憩2:上河内(かみかわち)サービスエリア
食べ過ぎにはご用心
距離を稼ぐために関越道から北関東道に入り、東北道へ。しばらく走って上河内SAでお昼休憩を取る。この走行も意外と交通量が多く、快走とはいかなかった。ここでのポイントは食事。
上河内サービスエリア到着時の計測結果(上里サービスエリアから約115km運転)
モニター1
モニター2
マジメ派 モニター1
ヨガ効果で高まっていた自律神経の活動量は低下。単調な運転が続いたせいか副交感神経が優位になっており、ちょっとリラックスしすぎ。
不マジメ派 モニター2
自律神経の活動量がアップし、なおかつ適度にリラックスもできている。仕事が一段落して落ち着いてからののんびり運転が功を奏したようだ。
マジメ派 モニター1 おそば&エナジードリンク
血糖値の急上昇・急降下による眠気や体への負荷を避けるため、血糖値が上がりにくいおそばをチョイス。食べ過ぎによる疲労を防ぐ狙いで、セットの天ぷらも没収。若干さみしいランチとなった。食後は自律神経の活発化に効果的とされるエナジードリンクをゴクゴクと。自律神経の活動量が上がり、交感神経が優位な運転モードへとスイッチが入った。
不マジメ派 モニター2 かつ丼&ソフトクリーム
食欲に任せてかつ丼をガッツリと。モニター1から取り上げた天ぷらも食し、お腹はパンパン。食後、おやつとしてソフトクリームを追加した。この適当なランチはてきめんに悪影響が出た。自律神経の活動量が低下して一気に疲労度が増加。しかもこの後、強い眠気に襲われることになる……。
休憩3:安積(あさか)パーキングエリア
シャワーで全面リフレッシュ
東北道をさらに北上。交通量がグッと減り、郊外の気持ちのいい景色を眺めながらの快適なハイウェイドライブに。安積パーキングエリアには10分200円のコインシャワーがあり、長距離ドライバーの癒やしの場となっている。
安積パーキングエリア到着時の計測結果(上河内サービスエリアから約95km運転)
モニター1
モニター2
マジメ派 モニター1
適切な食事によりコンディションはまずまず良好だが、運転するにはややリラックスしすぎ? 自律神経の活動量は低下気味になっており、こまめな休憩の必要性が浮き彫りに。
不マジメ派 モニター2
食欲の赴くままに食べ過ぎたことにより、お疲れモードから脱出できていない。緊張状態も続いている。本人曰(いわ)く「眠気もすごかった……」と、食べ過ぎのデメリットを痛感した。
マジメ派 モニター1 シャワー&高級栄養ドリンク
利用待ちの客がズラリと並ぶ人気施設、コインシャワーを利用。シャワーでサッパリした後は高級栄養ドリンクを飲み、完全リフレッシュを狙う。効果はバツグン! 低下していた自律神経が一気に活発化し、身体的にも興奮状態に。運転に集中できるコンディションになった。
不マジメ派 モニター2 アメリカンドッグ
食べ過ぎのランチに追い打ちをかけ、アメリカンドッグを食す。「個人的には、かつ丼かアメリカンドッグのどちらかでよかった」とモニター2。人類に役立つ調査のためとはいえ、よく入るものだ……。結果、運転を休むという意味での休憩は取っているのに、疲れは悪化の一途を辿(たど)ることに。
目的地:浄土平ビジターセンター
疲労度合いには明確な差が
東北道を福島西インターチェンジで降り、福島吾妻裏磐梯線~磐梯吾妻スカイラインを経由して浄土平ビジターセンターへ。高速道路、市街地、そしてカーブの多い山岳路を走行する。アルペンムードが楽しめるルートだ。
浄土平ビジターセンター到着時の計測結果(安積パーキングエリアから約80km運転)
モニター1
モニター2
マジメ派 モニター1
安積パーキングエリアでの最後のひと押し、シャワー&高級栄養ドリンクがかなりの効果を発揮したようで、山岳路を運転した後でも自律神経の活動量は高い。交感神経が活発化しており、覚醒状態に。カーブが連続する磐梯吾妻スカイラインでも運転に集中できていただろう。
不マジメ派 モニター2
終始、自律神経の活動量が低いまま。休憩頻度、休憩時間はモニター1とまったく同じだが、内容が異なっているため疲労度合いに大きな差が出ている。つまり、ただ休憩するだけではあまり意味をなさないということが明らかになった。
マジメに休憩しよう!
一般的に「疲労回復に効果アリ」とされる模範的休憩をマジメに取り続けたモニター1と、本能と欲望の赴くままにテキトーかつ不マジメに休憩したモニター2。休憩時間そのものは同じだったにもかかわらず、疲労度には想像以上の差が出た。ただ車を停めるだけで休憩になるわけではない。真剣に疲労回復に取り組んだときに初めて、心身を休めて憩う「休憩」と言えるのだ。皆さんも安全な長距離運転を実現すべく、ぜひ休憩時間の過ごし方を見直されてはいかがだろうか。
調査終了時のコメント
マジメ派 モニター1
今回の調査ではかなり極端にマジメな休憩を取ったが、とても効果的であることが確認できた。常に運転に集中し、時間が経過しても運転を楽しむ余裕があったからだ。驚かされたのは、実は自分が疲れていたという事実だ。運転好きだから「自分は疲れ知らず」と思い込んでいたが、疲労ストレス測定システムはしっかりと疲れていることを明示。自分では疲労にまったく気づいていなかったことにはゾッとした。これからは、今まで以上に真剣に休憩に取り組む所存だ。
不マジメ派 モニター2
もともとこまめに休憩を取るタイプだが、今回はあえて不マジメに過ごしてみた。……と言いつつ、今まで休憩の過ごし方にまで気を使っていたかといえば、あまり自信がない。今回の調査では、不マジメな休憩では休憩にならないことがよくわかった。特に効いたのは、食事だ。食べ過ぎは眠気を誘うし、集中力も散漫になる。おそばだけ、というのはさすがにちょっとさみしいが、今後は長距離運転時の食事にはくれぐれも気を使おうと思う。
翌朝の疲労回復度合いにも差が⁉
モニター1
モニター2
1日約400kmを走行して都内から福島・浄土平まで行った我々JMO特命調査団は、無理をすることなく福島駅前に宿泊。余裕をもって翌日に帰途に就いた。念のため、ホテルをチェックアウトする直前に疲労度を計測。前夜に酒を飲まなかったモニター1と飲んだモニター2、当日朝にシャワーを浴びたモニター1と浴びなかったモニター2といった具合で過ごし方がまちまちなため参考程度だが、運転に適した状態を維持しているモニター1、あまり元気を取り戻せていないモニター2という差は明確だった。何事においてもマジメに取り組むべき、という調査結果は、翌朝にもしっかり現れたことになる。