普通免許で運転できて⾞検も不要! 最近よく見かけるマイクロカーってどんなクルマ?
⼩型モビリティが実現するちょい乗りカーライフ最近、街中や観光地などでよく目にするメチャ小さなクルマたち。小さなボディーでスイスイと意外に速い。そんな小さなクルマたちも、実はいろいろな種類があって法規的に違いがある。今回は小型モビリティのなかでも普通免許で運転できて車検不要の「マイクロカー(ミニカー)」と呼ばれているクルマにフォーカス。小型モビリティが秘める新たな可能性を、モータージャーナリストの竹岡圭さんと探っていこう。
そもそも、マイクロカーってどんなクルマのこと?
マイクロカーの正式名称は「ミニカー」。ミニカーは道路運送車両法で次のように定められています。「3輪以上の原動機付自転車」で、「総排気量20cc超50cc以下(定格出力0.25kW超0.6kW以下)」のうち、「車室を有する」または「輪距(トレッド)が50cmを超えるもの」。また、大きさは全長2.5m以下、全幅1.3m以下、全高2m以下で、乗車定員は1名となっています。ミニカーは第一種原動機付自転車に区分され、原動機付四輪自転車や原付ミニカーと呼ばれることもあります。
一方、道路交通法では普通自動車に区分されています。そのため運転には普通自動車免許が必要です。最高速度は60km/h以下となり、道交法上は原動機付自転車(いわゆる原付バイク)ではないため、二段階右折やヘルメットの着用は不要。普通自動車のように公道を走行することができます。
マイクロカーの正式名称は「ミニカー」。最高速度は60km/h以下で普通自動車免許で運転できる
小型モビリティは細かく規定が分かれている!
また、近年話題になっている電動キックボードは、2023年7月に施行された改正道路交通法により新設された「特定小型原動機付自転車」に区分されます。運転免許証は不要で最高速度が20km/h以下となるなど、マイクロカーとは別ものとなります。
マイクロカーと似た超小型モビリティという区分もあります。こちらは排気量が125cc以下、定格出力0.6kW超と大きく、乗車定員も2名で、軽自動車に区分されます。
●小型モビリティの区分
道路運送車両法および道路交通法に基づく各車の比較。車体の大きさをはじめ、細かく規定されている
マイクロカーのメリットとデメリットは?
前述のとおり、マイクロカーは第一種原動機付自転車に区分されます。したがって車検はありませんし、重量税や環境性能割もかかりません(軽自動車税はかかります)。自賠責保険の加入が義務付けられますが、保険料は原付バイクと同じ。任意保険はバイク保険の利用が可能。セカンドカーとして所有するならファミリーバイク特約も利用できるなど、維持費や諸経費が抑えられるという大きな利点があります。さらに、車庫証明を取得する必要もありません。また、車体がとても小さいので狭い道でも運転がしやすく、取り回しにも優れています。
ただ、ボディーが小さいため積載能力は必要最小限のレベル。最大積載量は90kgとなるので荷物を積むことは苦手。1人乗りという点もデメリットに感じる方がいるかと思います。また、原付扱いのため、高速道路や自動車専用道路の走行はできません。マイクロカー1台で日常使いからレジャーまでカバーすることは難しいでしょう。
<⭕️メリット> <❌デメリット>
・維持費や諸経費が安い ・乗車定員が1人
・車庫証明は不要 ・積載量は最小限
・取り回し性はおおむね良好 ・高速道路や自動車専用道路の走行は不可
マイクロカー専門メーカー「タケオカ自動車工芸」で実車拝見!
タケオカ自動車工芸の店舗を紹介する竹岡さん
富山県富山市にあるタケオカ自動車工芸。ここは1981(昭和56)年の会社設立以来、マイクロカーを作り続けている日本で唯一のメーカー。初の自社開発マイクロカーは1982(昭和57)年に発売した三輪の「アビー(1型)」で、1984(昭和59)年には四輪のアビー(2型)を発売。このアビーは改良を重ねながら現在でも主力製品になっています。また、電気自動車への取り組みも早く、1997(平成9)年には北陸電力と共同開発した「ルーキー」を販売。2016(平成28)年にはアビーと並ぶ主力車種の「ララ」をリリース。
代表の武岡学さんは「マイクロカーは『人に優しい』乗り物です」と言う。スピードが出ないから万が一歩行者と接触しても衝突時のエネルギーも小さい。さらに、ボディーの外板パーツが鉄板ではなくFRPなどの強化プラスチックというのも、人への被害を軽減する要因のひとつ。原付バイクとは違い乗る人自身がボディーに守られているというのも優しいポイントだと言う。
タケオカ自動車工芸代表の武岡学さん。マイクロカーは性能的にも構造的にも「人に優しい」乗り物だと話す
製品の製造は工程のほとんどが手作業。そのため生産台数は限られるが、丁寧に組み上げられている。また、さまざまなオーダーにも柔軟に対応してくれる
さっそく50ccガソリンエンジンのABBEYに試乗してみた!
走り出してすぐに「楽しい」と感じる。エンジン音や振動がダイレクトに伝わってくるが、不快感はなく、バイクを運転しているような楽しさがある
オモチャっぽさも許せるキュートな見た目
ABBEY(アビー)は原付バイクのエンジンを搭載したモデル。まず、見た目がとてもキュート。車体の小ささもあってまるでオモチャのよう。1人乗りというだけあって車内はミニマムですが、窮屈さは感じません。窓がアクリルガラス製の手動開閉となるなど装備は必要最低限ですが、それもオモチャっぽさを強調していて許せてしまいます。
早速エンジンを始動して走ってみます。トランスミッションはオートマチックですが、遠心クラッチを使用しているためアクセルを深めに踏み込まないと発進しません。これはいい! というのも、近年ペダルの踏み間違いによる重大事故が数多く報告されていますが、アクセルを踏み込んでもすぐに発進しないため、事故の減少や被害の軽減につながりそうです。
乗り味はバイクのような楽しさがある
走り出すとすぐに「これは楽しい」と笑顔になってしまいます。エンジン音が大きめだったり、振動もダイレクトに伝わってきますが、それはまったく不快ではなく、むしろバイクのような楽しさ。上り坂はちょっと苦手だけれど、平たんな道ならすぐにスピードに乗って、周りのクルマの流れに合わせて走れるので怖さもありません。ちなみに、走行状況にもよりますが、ガソリン満タンで200km以上の距離を走行するオーナーさんもいるとか……。お財布にも優しいですね。
このような楽しさもあって、「趣味的に乗る人も多いんですよ」とのこと。長年バイクに乗ってきたという年配の方がバイクを降りた後の移動手段として選んだり、セカンドカー、サードカーとして利用するケースも多いそう。「クルマにはない楽しさがある」という声をよく聞くそうで、50ccガソリンマイクロカーの人気の秘密はここにありそうです。
ハンドルの角度が寝ていてトラックのような感覚。ステアリングはMOMO製で、ちょっと豪華
1人乗りのシートは座面も背もたれも幅が広い。ヘッドレストやシートベルトを装備している
荷室にはリアのアクリルハッチからアクセス。カバンや買い物袋くらいなら十分に載せられる
荷室は幅75cm×奥行き47cm×高さ64cm。ちょっとした買い物の荷物なら十分に載せられるスペース
アビーを持ち上げて傾ける武岡さん。「このほうがよく見えるでしょ」と笑う。軽いから脱輪しても大丈夫なんだとか
エンジンはホンダ製の4ストローク単気筒。最高出力は4.5psだが、車両重量は160kgと軽いため元気に走る
最新の電気マイクロカーLalaにも乗ってみた!
電気自動車らしく発進時から力強く、そのままスピードに乗っていく感じ。エアコンなど快適装備も充実していて、普段使いとしても満足できる
力強くスムーズに走る。荷物も積めて実用性も高い
100%電気のLala(ララ)は、クルマらしい見た目から「アビーよりも実用性が高そう」というのが第一印象。アビーとは違い、エアコン(オプション)やパワーウインドー、オーディオユニット、シートのスライド&リクライニング機能などが装備されて、グッと快適性が高くなっています。背の高いボディーのため車内の圧迫感もまったくありません。
ララには発進時から驚かされます。電気モーターを使用しているだけあって、動き始めから力強さ満点。アクセルを深く踏み込むとグンっと背中を押される感じがするほどで、そのまま軽々とスピードに乗っていきます。坂道もアビーよりもラクラクです。
普通のクルマのように乗れることもあって、日常の移動手段だけではなく幅広いシーンで使われているのがララの特徴。「訪問介護の移動車両としても使われています。狭い道路でも走りやすいですし、少しの駐車スペースがあれば家の前に止めることができるので、とても重宝してもらっています」とのこと。利用者からは荷室を含めて「意外と荷物が積めるんです」というコメントを聞くそうです。
気になる航続距離は、リチウムイオン電池仕様車で公称120km。実際に日常的な使い方でも100km以上は走ることができるとのこと。家庭用のAC100Vコンセントで充電できるのも嬉しいポイントですね。
運転席が右側にオフセットされているので、普通のクルマのような感覚で運転できる
デジタル表示のメーターは視認性が良く、バッテリー残量をはじめとする各種情報もわかりやすい
シフトポジションは中央のダイヤルで選択。パワーウインドーや空調のスイッチもここに配置
ゆったりとしたサイズと厚いクッションで快適性の高いシート。スライドやリクライニングも可能
座席左側は手荷物や買い物袋を置けるスペースとして重宝。下にはバッテリーが収められている
リアのガラスハッチを開けてラゲッジ部分に荷物を載せられる。ガラスハッチはリモコン開閉式
自転車以上クルマ未満のマイクロカーは現代社会の救世主!?
原動機付自転車に区分されるように、マイクロカーはあくまでも原付。2台に試乗して感じたのは「自転車以上クルマ未満」の乗り物ということ。と同時に、大きな可能性を秘めているとも感じました。
というのも、近年は高齢者による交通事故のニュースが大きく取り上げられ、運転免許証の自主返納を求める声も小さくありません。しかし、私は安易に自主返納を勧めることには反対。移動の自由を奪ってしまうことはその人の生活の自由を奪ってしまうことにもつながってしまうからです。スーパーやコンビニまで数km、バスの運行本数も少ないなど、地方では自分で移動できる手段がないと困ってしまう現実が多くあります。それが免許を返納したくてもできない理由のひとつです。
しかし、重大事故を懸念して免許証の返納を求める家族の気持ちも理解できます。そこでマイクロカーという選択です。最高速度が60km/hのマイクロカーなら一般道を周囲のクルマの流れに合わせて走ることができますし、原付バイクのようにクルマの陰に隠れて事故に遭うというケースも回避できそうです。スピードが出ないことは安全にもつながりますし、武岡代表が言うように万が一の事故の際も人に優しい。屋根やドアがあるため原付バイクよりも安全で、雨の日でも乗れることも大きなメリット。
このように、マイクロカーには現代社会の問題を解決する可能性があります。もちろん、クルマを所有したくてもスペースなどの問題で所有できない都市部の移動手段としても活躍してくれるはず。キュートな見た目は街乗りで話題になるかも……? チョイ乗りから交通問題の解決まで、新たな乗り物マイクロカーに大注目です!
他にもまだあるマイクロカーの注目車!
マイクロカーには、前述したタケオカ自動車工芸の「アビー」と「ララ」の他にも注目車が登場しています。ここでは注目の3モデルを紹介。アビーを含めマイクロカーの車両価格はモデルによりかなり差があります。安価なもので40~50万円、スタンダードなモデルは80~110万円程度。リチウムイオンの電気仕様では150万円を超えています。量産モデルではないため価格はやや高めの印象ですが、車検は不要で維持費も安いのは魅力です。
- トヨタ車体「COMS」
2012年に販売が開始された超小型BEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)のCOMS(コムス)。近未来的なデザインとドアのないスタイルが特徴。多くのトヨタ車を製造してきたトヨタ車体が設計しただけあり、ラダーフレームと軽量パイプフレームにより安全性も高い。一充電走行可能距離はカタログ値で57km。充電時間は家庭用100Vコンセントで約6時間。セブン-イレブンがデリバリーカーとして導入するなど、都市部を中心に活躍している。
コムスの詳細はこちらをチェック!
- トライクファクトリージャパン「ミニジープ」
名前とスタイルが物語るミニマムサイズのジープ。トライクファクトリージャパンが設計・販売するミニジープは、50ccガソリンエンジンモデルとEVモデルを用意。EVモデルは約100kmの走行が可能だ。ビーチなどのレジャー向けとして開発されているが、もちろん公道走行も可能。キャリアやオーバーフェンダー、ウインチなどオプションパーツが豊富。自分好みにカスタムする楽しさも!
ミニジープの詳細はこちらをチェック!
- KGモーターズ「mibot」
広島県のKGモーターズが開発するEVマイクロカー「mibot(ミボット)」。レトロさと前後対称の近未来感が融合したキュートなデザインが目を引く。そのスタイルからもわかるように十分な積載性も確保。ラゲッジ部分には18Lの灯油タンク2つを積載可能。航続距離は100km、充電時間は5時間(家庭用100Vコンセント対応)。現在は予約を受け付けており、発売は2025年を予定している。
ミボットの詳細はこちらをチェック!
- 竹岡 圭
たけおか・けい モータージャーナリスト。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)副会長。雑誌やWebへの執筆のほか、テレビのMC&コメンテーター&レポーター、ラジオパーソナリティー、イベントのトークショーなど、幅広い分野のクルマ関係のサポーターとして活動。自身でレーシングチームを運営し、ドライバーとしてレースやラリーに参戦もする。