クラウン、セルシオ、プレジデント…大排気量、多気筒が偉さの証!? 平成ビッグセダン14選
3.5Lオーバーの高級セダンをピックアップ!今も昔もセダンにはステータス性があるが、平成初期は、そのステータス性を測るひとつの要素にエンジンの排気量があった。今ではボディサイズが大きなクルマでも、ハイブリッドシステムやターボと組み合わせて2L以下なんてクルマはざらにある。しかし、昔は直6だ、V8だと気筒数の多さと排気量の大きさが自慢のタネだったのだ。今回はそんな平成の大排気量セダンを懐かしんでみましょう。
「俺のクルマはV8 4Lなんだぜ〜」
そんなマウントの取り方ができたあの頃
日産・インフィニティQ45搭載V型8気筒 4.5LエンジンPLASMA-VH45DE
今ではその地位をアルファード&ヴェルファイアなどのプレミアムLサイズミニバンに奪われつつあるが、「高級車といえばやっぱりセダンでしょ!」と考える人は多い。販売台数の減少やメーカーの戦略もあり、伝統的な高級セダンはここ数年で軒並み生産を終了。
現在ディーラーで取り扱っているラインアップを見ると、大排気量のセダンに乗りたくても選択肢が限られてしまうのが現状である。しかし、大柄で重厚感あふれる高級車にふさわしいスタイリング、本革シートやマルチビジョンなど高い質感や豪華な装備を持つインテリア、そしてボディの重さを感じさせないトルクフルな走りと、所有する満足度の高さは格別である。
現在販売されているセダンは、他のモデル同様に燃費の良さが求められていて最先端のハイブリッドシステムと組み合わせてみたり、排気量を2Lクラスに落としてターボを搭載するなど、時代やユーザーのニーズに合わせてメーカーも改良を重ねている。確かに今のエンジンは走行性能においては申し分ないのだが、昭和後期から平成中期にかけて販売されていた高級セダンを見ると、大排気量のエンジンを搭載するのがスタンダードであった。
たとえばトヨタ・センチュリーや日産・プレジデントといったショーファーカーは後部座席に重役を乗せて高速道路など長距離を走る機会が多いため、ストレスなく巡航するには静粛性に優れ、トルクがあって力強く加速する大排気量エンジンが必要不可欠とされていた。巨額の費用をかけて開発されたフラットな乗り心地の足まわりと相まって、お偉いさんもゆったりくつろぎながらゴルフ場へ向かったことだろう(?)。
また、日産・セドリック&グロリアのグランツーリスモやトヨタ・アリストなど、お抱え運転手ではなくオーナー自身が運転を楽しむスポーツセダンの登場も、ハイパワーエンジンの人気を後押しした。特に「シーマ現象」というブームを生んだ日産・初代セドリック/グロリア シーマは、255馬力を発生する3L V6DOHCターボのVG30DETエンジンのパワフルさが話題に。エアサスを搭載した足まわりは、リアにセミトレーリングアーム式を採用。アクセルを思いっきり踏むとリアが沈み込みながら加速する姿は、多くの人が憧れたものである。今と比べたらガソリン価格が格段に安かった時代だから燃費なんか関係なし。とにかくパワーがあって、加速も良くて、快適に高速クルーズを楽しむことができるかつての大排気量セダンは、長い歴史を誇る国産車を語る上で欠かせない存在となっている。
そこで今回は、現在もファンが多い「あの頃」の大排気量セダン、しかも3.5Lオーバーのクルマをピックアップしてご紹介。「そういえばこんなセダンがあったよね」と当時を懐かしみながら、もう一度セダンの復権を願いたい。
クラウン唯一の4Lエンジン搭載世代
トヨタ・クラウン(130系)/平成元(1989)年デビュー/V型8気筒3968㏄
1987年のフルモデルチェンジによりデビューした8代目クラウン(130系)。1989年にクラウン初の4Lエンジンが追加された
先代に続き、「いつかはクラウン」のキャッチコピーで昭和62(1987)年に登場した8代目クラウン(130系)。前期型のハードトップは3Lエンジン、そして5ナンバーサイズに落とし込んだナローボディの2Lエンジンを設定。平成元(1989)年にマイナーチェンジを行ったが、3Lに加えV8 4Lの1UZ-FEエンジンを導入。最上級グレードである4000ロイヤルサルーンGに搭載された。V8エンジンを採用したクラウンとしては初となる(センチュリーのルーツとなるクラウンエイトは除く)。フロントグリルに装着された「V8」のエンブレムが、さり気なく存在感を主張していた。
トヨタ・クラウン(130系)
世界を驚かせた国産高級セダン
トヨタ・セルシオ(10系)/平成元(1989)年デビュー/V型8気筒3968㏄
トヨタ・セルシオ(10系)
現在は日本国内でも展開しているが、当時トヨタの北米専用ブランドとして誕生した「レクサス」。そのフラッグシップモデルとして、LS400の名で先行リリース。大きな反響を得たことから、日本でも平成元年10月にセルシオの名称で販売を開始した。クラウンの上を行く高級車としてデビューしたこともあり、エンジンは同年にマイナーチェンジを実施したクラウンと同じV8の1UZ-FEエンジンを全グレードに採用。最上級のC仕様には電子制御エアサスペンションを設定し、国内では初採用(輸出モデルのLS400が世界初)の自発光式オプティトロンメーターを採用するなど、まさに至れり尽くせり。
セルシオに搭載していたV型8気筒4Lエンジン、1UZ-FE。260馬力で最大トルクは36.0kg・m/4600rpm
インフィニティブランドを知らしめた大型セダン
日産・インフィニティQ45(G50)/平成元(1989)年デビュー/V型8気筒4494㏄
日産自動車の高級ブランド「インフィニティ」から、1989年に世界に向けてデビューしたインフィニティQ45
トヨタと同じく、日産もアメリカで高級車ブランド「インフィニティ」を設立。フラッグシップモデルとなるQ45は日本でも同時販売された。小さな七宝焼エンブレムをあしらったグリルレス仕様の前期型はあまりにも斬新すぎて日本では好みが分かれたが、エンジンに関しては新開発のV8 4.5LのVH45DEを搭載して大きな話題となった。当時の自主規制値となる280馬力まで磨きをかけ、トルクフルな加速感を実現。この力強さを油圧アクティブサスペンションがしっかり受け止め、荒れた路面でもフラットな乗り心地を堪能できた。
日産・インフィニティQ45(G50)
日産のフラッグシップセダン
日産・プレジデント(JG50)/平成2(1990)年デビュー/V型8気筒4494㏄
前モデル登場から17年ぶりのフルモデルチェンジにより、1990年にデビューした日産の3代目プレジデント(JG50)
初代インフィニティQ45をベースに専用の意匠を設け、日産が誇るショーファードリブンとして平成2年にフルモデルチェンジを実施したプレジデント(JG50系)。Q45とほぼ同サイズのショートボディに加え、後部座席の居心地の良さを重視したロングボディを採用したのが大きな特徴。エンジンはQ45と同じくVH45DEを搭載しているが、クルマの特性を考慮して最高出力を270馬力に落としている。大排気量ならではのゆとりある走りを実現しながら、高級セダンに欠かせない静粛性を見事に両立させている。こちらも上級グレードには油圧アクティブサスペンションを設定する。
日産・プレジデント(JG50)
シーマ現象を受け継いだ2代目は4.1Lへ排気量UP
日産・シーマ(Y32)/平成3(1991)年デビュー/V型8気筒4130㏄
高級車ブーム、いわゆるシーマ現象を生み出した初代に続き、1991年に登場した2代目シーマ(Y32)
「シーマ現象」という伝説を残した初代シーマも、平成3年にY32系へとモデルチェンジ。発売時、エンジンは全車V8を採用した。排気量はインフィニティQ45やプレジデントよりも抑えた4130㏄のVH41DEを新設定。中・低速域から高いトルクを発生し、高回転域では伸びやかな加速感を実現。他にも最新鋭の技術を導入したが、初代から大きく変わったスタイリングが仇となって販売台数は振るわなかった。なお平成5年のマイナーチェンジでは、255馬力を誇る3L V6ターボエンジンのVG30DETを追加で設定。自動車税を抑えることができるため、人気を博した。
4席重視思想に基づき前後ともに快適な室内を実現。配色の統一を図った広がり感のある雰囲気が特徴
チューニングベースにも重宝されたスポーツセダン
トヨタ・アリスト(14系)/平成3(1991)年デビュー/V型8気筒3968㏄
スポーツセダンとして爆発的人気を誇った初代アリスト(14系)。4Lエンジンもあったものの、3Lツインターボ車が圧倒的人気だった
トヨタ・アリスト(14系)
大柄なボディにより高級車らしさを残しながらも、思いっきりスポーツ路線に振ったトヨタ・アリスト。平成3年に登場した初代のスタイリングには、ジョルジェット・ジウジアーロが立ち上げたイタリアのデザイン会社、イタルデザインが関わっている。エンジンは、V8 4Lに加えて、この弾丸のようなフォルムにふさわしい、3L 直6の2JZ-GTEを設定。こちらは280馬力を誇るツインターボで、80系のスープラにも搭載されている伝説の名機。4ドアセダンながら、チューニングのベース車としても人気があった。他には3L NAエンジンの2JZ-GEも設定されていた。
北米デザインの大排気量セダン
日産・レパードJ.フェリー(JY32)/平成4(1992)年デビュー/V型8気筒4130㏄
当時の日本車らしからぬ、丸みを帯びた柔らかなデザインが特徴だったレパードJ.フェリー(JY32)
レパードといえばドラマ『あぶない刑事』シリーズで活躍した2代目のF31系が有名だが、平成4年にフルモデルチェンジ。レパードJ.フェリーの名でデビューした。F31系はスクエアな2ドアクーペボディだったが、J.フェリーは全体的に丸みを帯びた4ドアセダンに生まれ変わった。これは北米ブランドのインフィニティではJ30の名で販売され、スタイリングも北米マーケットを重視したため。エンジンはY32系シーマと同じくVH41DE、そして3L NAのVG30DEの2種類。日本での販売台数は伸び悩んだが、北米では好評だったという。
「やわらかさ、あたたかさ」をテーマに高級車にふさわしい質感高い内装を実現。シートには、イタリアの高級家具メーカーであるポルトローナフラウ社製の高級本革も採用
国産唯一のV型12気筒エンジン搭載
トヨタ・センチュリー(G50)/平成9(1997)年デビュー/V型12気筒4996㏄
トヨタ・センチュリー(G50)
改良を重ねながら約30年にわたって生産された初代の雰囲気を色濃く残しつつ、平成9年にフルモデルチェンジを実施した2代目トヨタ・センチュリー。内閣総理大臣や大企業の社長など、要人の送迎車としてメディアに登場する機会も多かった。エンジンも一切妥協せず、国産車初のV型12気筒、1GZ-FEを搭載。排気量は5Lと車格にふさわしいものであり、280馬力を発生した。平成30(2018)年に3代目へとバトンタッチしたが、エンジンはV8のハイブリッドに変わったため、V12を採用した市販車の国産セダンは後にも先にもこの2代目センチュリーのみとなる。
国産では唯一のV型12気筒として存在した、トヨタ・センチュリー(G50)搭載のV12 5Lエンジン、1GZ-FE
昭和のショーファードリブンも大排気量
日産・プレジデント(250系)/昭和48(1973)年デビュー/V型8気筒4414㏄
日産・プレジデント(250系)
日産・プレジデント(250系)搭載のV型8気筒4414ccエンジン、Y44型
昭和48年に登場し、灯火類の変更などマイナーチェンジを行ったものの、ほぼ同じスタイルのまま平成2(1990)年まで生産された2代目プレジデント(250系)。スクエアなフォルムを持ち、メッキを多用した押し出し感あふれるフロントマスクがアメ車テイストを感じる。ドアミラーの設定はなく、モデル末期までフェンダーミラーを貫き通したため、元号が変わってもたたずまいは昭和そのもの。エンジンは4.4L V8のY44、そして3L直6となるH30の2種類を設定。どちらも昭和中期に多く見られたOHV方式となる。
磨きをかけて280馬力に到達したV型8気筒
トヨタ・クラウンマジェスタ(17系)/平成11(1999)年デビュー/V型8気筒3968㏄
クラウンの上級車種として登場したクラウン・マジェスタ(17系)。クラウンでは8代目のみ採用されたV8 4Lエンジン(1UZ-FE)を、マジェスタではこの3代目まで搭載していた
クラウンの系譜を受け継ぐ上級車種として、平成3(1991)年に登場したクラウン・マジェスタ。初代からV8 4Lと直6 3Lの大排気量エンジンを採用して、ワイド感あふれるフォルムも相まって大ヒット。V8の1UZ-FEエンジンは3代目の17系まで継承されるが、時代に合わせて改良。初代は260馬力、2代目の15系は265馬力に拡大。さらにマイナーチェンジによって280馬力に向上。3代目の17系も280馬力を継承し、ストレスのない走りを体感できた。なお直6 3Lは3代目まで設定されているが、3代目は直噴仕様の2JZ-FSEに変更された。
トヨタ・クラウンマジェスタ(17系)
4.3Lに排気量アップした最終型
トヨタ・セルシオ(30系)/平成12(2000)年デビュー/V型8気筒4292㏄
厚みがあるスタイリングが特徴だった3代目セルシオ(30系)。国産高級セダンのトップモデルとして高い人気を誇った
初代モデルの華々しいデビューから、トヨタの高級セダンとして着々と実績を積み重ねてきたセルシオ。平成12(2000)年にフルモデルチェンジを行った3代目の30系は、ワイド感あふれる滑らかなスタイリングへと進化。平成15年に実施したマイナーチェンジではシャープなフォルムに生まれ変わり、この後期型は中古車もいまだに高値で取り引きされているほど人気が高い。エンジンは初代・2代目と同じくV型8気筒だが、排気量を4.3Lに拡大した3UZ-FEを搭載。耐久性に定評があり、モータースポーツ用のベースエンジンにも選ばれた。
生産台数59台 999万円のリムジン
三菱・ディグニティ(S43A)/平成12(2000)年デビュー/V型8気筒4498㏄
マニアックな高級セダン好きにはたまらない、三菱のリムジン、ディグニティ(S43A)。全長は5335㎜
三菱といえばデリカやパジェロといった四駆のイメージが強いが、かつては高級セダンも販売していた。思い浮かぶのが3代まで生産を続けたデボネア。その後継車種という位置付けで平成12年にプラウディアが登場。そのプラウディアをベースにホイールベースを約28㎝延長し、リムジン仕様として同時リリースしたのがディグニティである。エンジンは直噴(GDI)仕様のV8、8A80を搭載。排気量は4.5L、最大出力は280馬力を発生する。宮内庁に納入された実績も持つが、価格は999万円と高価で販売台数はわずか59台にとどまった。
収納式ウッドテーブル、バイブレーター、シートヒーター、イージーアクセスなどの快適機能を備えた後席周辺には、マガジンラックやタワー型フロアコンソールなどの快適装備が満載
レクサスブランドのフラッグシップ
レクサス・LS460(40系)/平成18(2006)年デビュー/V型8気筒4608㏄
現在でも国内屈指の高級セダンといえば、レクサス・LS。国内では初代となるLS460(40系)は2006年にデビュー
レクサスが日本国内での展開を開始してから早くも18年。当初はGSとIS、SCの3車種態勢でスタートしたが、平成18年にはフラッグシップセダンのLS(40系)が登場。同時期にセルシオが生産を終了したこともあり、日本国内では後継モデルとしての位置付けとなった。エンジンは大柄なボディに見合ったV型8気筒を採用しているが、4.6Lの1UR-FSEを新開発。この時期はすでに280馬力規制が撤廃されたため、2WD車は385馬力というハイパワーを実現。平成24(2012)年にビッグマイナーチェンジを実施した後期型は、392馬力(2WD車)まで引き上げている。
ホンダ唯一の大排気量セダン
ホンダ・レジェンド(KB1/2)/平成16(2004)年デビュー/V型6気筒3664㏄
ホンダのフラッグシップセダン、レジェンド。4代目(KB1/2)は最終的に3.7Lエンジンを搭載し、309馬力を実現
5代目の生産終了でその名が途絶えてしまったが、ホンダが誇る高級セダンとしてその地位を確立したレジェンド。3代目まではFFだったが、平成16年に登場した4代目(KB1/2)は全車「SH-AWD」と呼ばれる4WDを採用。走行性能を大幅に向上させた。また搭載しているエンジンは3.5L V型6気筒のJ35Aだが、最大出力は300馬力。平成16年に日本国内で280馬力規制が撤廃され、国産車では初めての280馬力超えのクルマとしても知られている。平成20(2008)年のビッグマイナーチェンジにより、エンジンは3.7Lとなり、309馬力までパワーアップ。4代目レジェンドは平成24(2012)年まで生産を続けた。
ホンダ・レジェンド(KB1/2)
マツダにも12気筒4Lエンジンがあった!?
平成元(1989)年、トヨタはレクサス、日産はインフィニティと、北米マーケットを狙った高級車ブランドの展開が開始された。時を同じくしてマツダにもその動きがあり、高級車ブランド「AMATI(アマティ)」が立ち上がる予定だったのだ。そのフラッグシップはアマティ1000と呼ぶ大型サルーンで、エンジンはW型12気筒4Lエンジンが搭載される予定で開発が進む。しかし景気悪化に伴い、アマティブランドの計画は中止され、このエンジンが使われることもなくなってしまったのだ。
昭和・平成をセダンに乗って過ごしてきた方々には、かなり懐かしかったのではないでしょうか。今では2Lを超えることすら一部の大型セダンやスポーツカーに限られる状況ですが、昔はミドルクラスのセダンでも大排気量エンジン搭載車は結構あったんですね。
岩田直人
いわた・なおと 自動車雑誌専門の編集プロダクションと出版社勤務を経て、2009年にクルマ系フリーライターとして独立。カスタマイズカーはジャンルを問わず大好物で、自身もいちユーザーとして愛車のドレスアップに励み、アワードも多数獲得。40代に突入しても年中金欠。