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構成=ダズ/文=高橋陽介

懐かしのダットサン・キャブライト ライトバン、プレーリーから、アルファード、N-VANなどへと続くスライドドアの系譜

実は60年も前からあるんです! 国産スライドドア車の歴史を知る

車のボディと平行に引き戸のようにドアが開閉するスライドドア。狭い駐車場で乗り降りがしやすく、またお子さんが開けても、隣の車にぶつける心配がないと、ミニバンを中心にさまざまな車で採用されています。そんなスライドドアが初めて日本で採用されたのは、もう60年も前なのです。今回の特集では、スライドドアの始まりから、ちょっと変わったスライドドア車までを振り返ります。昔懐かしい車も登場しますよ。

目次

国産初登場から60年の今。スライドドアはスイッチレスにまで進化

ファミリーカーの定番とされるカタチがセダンやハッチバックからミニバンへと移行した現代。ショッピングモールの駐車場や保育園の送り迎えなど、日常的に見かける風景に何の違和感もなく溶け込んだ機能がスライドドア。ひと昔前までは商用車向けという見方が一般的だったこの機構を乗用車の分野にも取り入れるべく先鞭(せんべん)をつけたのは日産。1982年に発売された、国産ミニバンの元祖とも言えるプレーリーは3列シート・8人乗りのユーティリティを備えた(5人乗りの設定もあり)トールキャビンの車体に、大胆にもセンターピラーレスの両側スライドドアを採用。もちろん当時はミニバンという言葉はまだ使われていなかった時代であり、開口部を広く取ったことで生じる剛性低下を抑制するビルトインセンターピラー(Bピラー)という発想が生まれるのもはるか先の話。商用1BOXをベースに豪華な内装や快適装備類の追加で乗用車仕様に仕立てたワゴンモデルでさえスライドドアは左側1枚のみというご時世だったこともあり、プレーリーは新種の1.5ボックスカー(当時この種の車両はRV=レクリエーショナル・ヴィークルと呼ばれた)として大いに注目を集めた。

しかし、80年代といえば現代とは逆にまだまだ4ドアセダンやハッチバックがファミリーカーの定番とされていた頃だけに、プレーリーの斬新なコンセプトは話題性をこそもたらしたものの、手応えは今ひとつ。「スライドドア=商用車」というイメージの払拭や、同仕様のフォロワーを生み出すまでの成果にはつながらなかった(ユーザーからの親しみやすさという点では同様の3列シートレイアウトながら、通常のヒンジ式ドアを採用していた後発の三菱シャリオのほうがリードしていた)。

一方、開口部の広さがもたらす優れた乗降性や狭い場所でも開閉可能というスライドドアならではのメリットを、モノスペース車以外にも活用しようとするメーカーの試みはその後も続けられ、1988年にはスズキが3代目アルトに両側スライドドア(後期型で運転席側のみに変更)を、97年にはトヨタがラウムのリアの両側にスライドドアを採用。アルトは短命に終わったが、ラウムの技術は後に誕生するポルテやアイシスといったモデルにも継承されている。

時代は移り変わり、90年代に入るとトヨタエスティマや日産セレナ、ホンダオデッセイ、マツダMPVなどの登場とともに、市場でもミニバンという言葉が徐々に定着。この時点では開口部が車体左側のみのスライドドア勢に対し、4方向から乗降が可能なヒンジ式ドア勢の方が使い勝手という点においてアドバンテージがあったが、1999年に車体の両側にスライドドアを備えた2代目セレナ、同マツダMPVが相次いで発売されると、その形勢は徐々に変化していくことに。
「なんとなく商用車っぽい」、「便利だけど開閉にはそれなりに力が必要」といったネガティブな印象もあったスライドドアが大々的に普及する起爆剤となったのが、電動開閉機構の実用化。初期のものはドアノブを引っ張ることでモーターを動作させていたが、タッチスイッチ式、リモコン式などに続き、車体に触れず手の動きに反応したり車体下部に足を突っ込んでセンサーに感知させる方式も出現するなど、操作方法も日々進化。

あの軽ハイトワゴンのパイオニア、スズキ・ワゴンRでさえも、1993年のデビュー以来長年守ってきたヒンジ式ドアのみでの展開にスライドドア仕様の姉妹車「スマイル」を加えるなど、力要らず、手間要らずの電動スライドドアは、ミニバンが主役となった現代のファミリーカー事情において不可欠な装備として広く浸透しているようだ。

バンタイプに国産初のスライドドア機構採用
ダットサン・キャブライト ライトバン(1964年登場)

ダットサン・キャブライト 1150ルートバン(1966年)のスライドドアを開けた状態。

ダットサン・キャブライト 1150ルートバン(1966年)のスライドドアを開けた状態。

ダットサン・キャブライト 1150ルートバン(1966年)

ダットサン・キャブライト 1150ルートバン(1966年)

ライトバンに初めてスライド式ドアを採用したモデルがダットサン・キャブライト。ライトバンの他、サイドウインドーがパネルで塞がれたルートバン、3列シート9人乗りのコーチという3種類を設定。全長はわずか3,970mmに過ぎなかった。1966年の改良により、エンジンは1,046ccから1,138ccのD11型OHV4気筒エンジンに変更。

国産ミニバンの祖は両側スライド&ピラーレス
日産・プレーリー(1982年登場)

日産・プレーリーは40年も前に両側スライドドアを採用していた。

日産・プレーリーは40年も前に両側スライドドアを採用していた。

日産・プレーリー 1800 JW-G(1982年)

日産・プレーリー 1800 JW-G(1982年)

新たなファミリーカーのカタチとして日産が投入したプレーリー。世界初のセンターピラーレス両側スライドドアやトーションバー+フルトレーリングアーム式リアサスによるフラットフロア、2列目の2人掛け側がクルリと回って3列目と対座可能なシートアレンジなど、現代の目線で見ても意欲的な試みが満載されていた。

2ドアの軽自動車でフロント両側スライドドア
スズキ・アルト スライドスリム(1988年登場)

2ドアの軽自動車でスライドドアを取り入れた斬新なモデル

2ドアの軽自動車でスライドドアを取り入れた斬新なモデル。

スズキ・アルト スライドスリム(1988年)

スズキ・アルト スライドスリム(1988年)

2代目アルトでスカートや着物の女性が足を揃えたまま乗降できるようにと、女性仕様車「ジュナ」で回転式の運転席を採用したスズキだが、3代目はこの発想をさらに一歩進めた画期的な両側スライドドアモデルが登場。メーカー側の意気込みに対し市場のウケは今ひとつだったが、マニアの間では希少車として人気となっている。

センターピラー内蔵のパノラマオープンドア
トヨタ・ラウム(2003年登場)

センターピラーをドア内蔵とすることで巨大な開口部を実現。

センターピラーをドア内蔵とすることで巨大な開口部を実現。

トヨタ・ラウム スマイルエディション(2010年)

トヨタ・ラウム スマイルエディション(2010年)

左右のリア側にスライドドアを採用し、コンパクトカーの中でも際立ったユーティリティの高さを誇った初代ラウム。2代目モデルでは後席へのアクセス性をさらに向上させるべく、助手席側の前後ドアを開けるとセンターピラーのないパノラマオープンドアを採用。開閉動作は一部グレードを除き、電動式が採用されていた。

パノラマオープンドア採用の3列ミニバン
トヨタ・アイシス(2004年)

ラウムで得たノウハウを3列ミニバンで採用したロングセラーモデル

ラウムで得たノウハウを3列ミニバンで採用したロングセラーモデル

トヨタ・アイシス プラタナ 2.0L(2004年)

トヨタ・アイシス プラタナ“V-SELECTION”2.0L(2011年)

2代目ラウムで好評を得た、センターピラーを内蔵したスライドドアがもたらす1,890mmという広い開口部を備えた3列シート・7人乗りのミニバンがアイシス。センターピラーレスボディのミニバンタイプ車は日産プレーリー以来となるが、こちらは車体左側のみ。やっぱりプレーリーのチャレンジ精神は偉大だった?

2ドア車で助手席側大開口スライドドア
トヨタ・ポルテ(2004年登場)

助手席側をスライドドアとしたコンパクトカーとして人気に。

助手席側をスライドドアとしたコンパクトカーとして人気に。

トヨタ・ポルテ 150r(2004年)

トヨタ・ポルテ 130i“Cパッケージ”(2007年)

名は体を表す、ではないが、フランス語のPorte(ドア)からというストレートなネーミング。ただし、フランス語では「ポルト」と発音するところ、あえてローマ字読みで「ポルテ」とした。運転席側は通常のヒンジ式ドアだが、助手席側はひと回り大きな面積の電動スライド式ドアを採用。助手席シートには前後750mmというロングスライド機構も備わり、後席へのアクセス性や車内での移動のしやすさなど、卓越した実用性を誇った。

軽自動車初のセンターピラーレス採用
ダイハツ・タント(2007年登場)

ハイトワゴンタイプの軽自動車で乗降性抜群のピラーレス構造。

ハイトワゴンタイプの軽自動車で乗降性抜群のピラーレス構造。

ダイハツ・タント X Limitedスペシャル(2007年)

ダイハツ・タント X Limitedスペシャル(2007年)

子育てママ世代からのニーズに応えるべく、リアドアを初代のヒンジ式からスライド式に変更。しかも左側にはセンターピラーレスの「ミラクルオープンドア」を採用した2代目タント。もちろん開閉は電動式で、半ドアを防ぐイージークローザーも装備。軽自動車クラスでもハイトワゴンにはスライドドアはマスト案件、という時代の到来を実感させた。

車に近づくと自動でスライドドアが開く
トヨタ・アルファード(2015年登場)

事前に予約をしておくと、キーを持って近づくだけでドアオープン。

事前に予約をしておくと、キーを持って近づくだけでドアオープン。

トヨタ・アルファード G“Fパッケージ”(2015年)

トヨタ・アルファード G“Fパッケージ”(2015年)

スマートキーを事前設定しておくことで、車両に近づくとスライドドアが自動的にオープン! 乗り込んだ後は自動でドアが閉まり、ロックまで掛けてくれるという親切な装備。ある意味、これもスライドドアだからこそできる芸当か?(ロールスロイスなど、一部の超高級車にはヒンジ式電動開閉ドアの採用例はあるが)

世界初! 足を入れるとスライドドアが自動開閉
日産・セレナ(2016年登場)

両手が塞がっていても、足を差し入れればドアが開く画期的機能

両手が塞がっていても、足を差し入れればドアが開く画期的機能

日産・セレナ ハイウェイスター(2016年)

日産・セレナ ハイウェイスター(2016年)

2代目モデルでは国産ミニバンの中でいち早く両側スライドドアを取り入れたセレナ。その5代目モデルで採用されたのが、「ハンズフリーオートスライドドア」。これは、キーを携帯した状態でサイドシルの下側に爪先を入れるとセンサーが反応してスライドドアを開閉させるというもの。子供を抱えていたり、両手が荷物で塞がっている場合などに便利な機能だ。

軽商用車初の大開口スライドドア
ホンダ・N-VAN(2018年登場)

荷物の積み降ろしがしやすいピラーレス構造を採用。

荷物の積み降ろしがしやすいピラーレス構造を採用。

ホンダ・N-VAN +STYLE FUN・Honda SENSING(2018年)

ホンダ・N-VAN +STYLE FUN・Honda SENSING(2018年)

軽自動車のベストセラー、N-BOXの商用車バージョンがN-VAN。単に装備類を簡素化させただけでなく、「はたらくクルマ」としての工夫を各所に採用。その最たる例が、荷物の積み降ろしに便利なセンターピラーレスの大開口スライドドア。ちなみにホンダがピラーレス構造を採用するのは2003年のエレメント以来(こちらは両側ピラーレスだが)。

手の動きに連動するサイバーちっくなギミック
ホンダ・オデッセイ(2020年登場)

青い光に沿って手を動かすとスライドドアが開く。

青い光に沿って手を動かすとスライドドアが開く。

ホンダ・オデッセイ e:HEV ABSOLUTE EX(2020年)

ホンダ・オデッセイ e:HEV ABSOLUTE EX(2020年)

5代目オデッセイのマイナーチェンジ時に投入されたジェスチャーコントロール・パワースライドドア。これはサイドウインドーの発光部分に手をかざすだけでスライドドアの開閉操作が行えるというもの。予約設定をすることでスライドドアが閉まり切る前に車両から離れても自動で施錠される予約ロック機能も、ホンダ車で初採用されている。

軽自動車から高級車クラスまで、ミニバンにはスライドドアが常識となった現代。果たして次なるフェーズはいかに? 最新のクルマの中には、スライド用のレールを使わない「リンク式パワードア」という方式も登場した。SUVカテゴリーにおいてもスライドドアの波が来るのだろうか? その見極めにはまだしばらく時間がかかりそうだ。

日本最高級車にも遂に!
最新スライドドアはレールがない!?

トヨタ・センチュリーGRMN リンク式パワードア

トヨタ・センチュリーGRMN リンク式パワードア

国産屈指のショーファードリブンカーとして長い歴史を持つトヨタ・センチュリー。これまではセダンボディを貫いてきたが、いわゆるSUVの形をした最新モデルが登場した。そして「センチュリーGRMN」のオプションにはスライドドアが設定されている。一般的なスライドドアはボディサイドにドアをスライドさせるためのレールが備わるが、センチュリーGRMNの外装にはそのレールが見当たらなく見た目がスマートだ。採用されたドアはリンク式パワードア(LPD)と呼ぶもので、回転アームなどを用いて保持や開閉駆動を行う構造部品を新たに開発することで、レールを使わずにスライドドア風の開閉を可能としたものだ。

高橋陽介

たかはし・ようすけ 雑誌・Webを中心に執筆をしている自動車専門のフリーライター。子供の頃からの車好きが高じ、九州ローカルのカー雑誌出版社の編集を経て、フリーに。新車情報はもちろん、カスタムやチューニング、レース、旧車などあらゆるジャンルに興味を寄せる。自身の愛車遍歴はスポーツカーに偏りがち。現愛車は98年式の996型ポルシェ911カレラ。

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