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「ソープボックスダービー」日本チャンピオンに聞きました!

親子で一緒に楽しめる、子供のためのレースの魅力とは?

2022.04.13

撮影=奥隅圭之、日本ソープボックスダービー協会

2022.04.13

撮影=奥隅圭之、日本ソープボックスダービー協会

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

坂道を舞台にして、重力だけを動力にゴールまでのタイムを競うソープボックスダービー。世界大会も開かれる歴史ある競技ですが、国内での知名度はまだ足りません。今回は世界大会に進むドライバーを決めるナショナルチーム選考会の直近3大会のチャンピオンとその親御さんにインタビューを行い、ソープボックスダービーの魅力を伺いました。ソープボックスダービーに興味を持ちはじめた方、お子さんに新たなチャレンジの場を作ってあげたい方、必見です!
ソープボックスダービーについては、ご自宅にお届けしているJAF Mate春号のP47-49「ソープボックスダービーってなんだ!?」でも紹介しているので、ぜひご一読ください。

好きなものも、性格も。ソープボックスダービーで人生が変わった!

宮本知佳さん(2018年チャンピオン)/宮本めぐみさん(お母さん)

―大会に参加したきっかけは何だったんですか?

めぐみさん:お付き合いのあるディーラーさんから誘われたんです。最初は「冬のイベントの一つにでも」という感じだったので、実際に会場についてみたら規模が大きくてびっくりしました。

知佳(ちか)さん:お母さんから聞いたときはソープボックスダービーがどんな競技か想像もつかなかったんですけど、「とりあえず面白そうだから参加してみようかな」って軽い気持ちで参加しました。

―初めてのソープボックスカー、怖くなかったですか?

知佳さん:台の上にレールを設置して、その一番上から走り始めるんですけど、乗った瞬間からもうマシンが傾いていたので、ちょっと怖かったです。でも走り始めたらそこまで速くなかったので、大丈夫でした。

―優勝したときはどんな気持ちでしたか?

知佳さん:「やったー!」っていうより「え、ほんと⁉ アメリカ行けるの?」って感じでした。

―アメリカでの知佳さんはどんな感じでしたか?

めぐみさん:アメリカでは子供扱いはされず、1人の選手として受け入れられるんです。周りの選手もかなり真剣で。正直、知佳は「軽い気持ちで参加した大会の延長線」という感じだったのですが、周りの雰囲気を感じてスイッチが入ったみたいです。でもその分プレッシャーも大きかったみたいで、最終日以外ほとんど笑顔がありませんでした(笑)。

知佳さん:でもいろいろな体験もできました。選手同士の交流会で私が持って行ったモンスターボールのアイロンビーズと海外のおもちゃを交換したり。あとプールが好きなので、庭にプールがある家を見たときは驚きました! ごはんもおいしかったですよ。家族でスーパーに買い物に行ったり、ハンバーガーを食べたり、アイスもおいしかったです!

アメリカでお気に入りアイスを食べる千佳さん

レース本番前に行われる、アメリカ国歌斉唱の会場に向かう知佳さん。
日本国旗を持ちながらの行進に、初めて「誇り」というものを感じたそう。

―国際大会に参加して変わったことはありますか?

めぐみさん:アメリカでは「あなたはどう思うの?」ということをまず聞かれるので、自分から意見を積極的に言うようになったと思います。

知佳さん:それまでは口下手で自分の考えはあまり言えなかったんですけど、そこは自分でも変わったと思います。あとは趣味です。それまでは特に好きなものもなくて、速い乗り物も苦手だったのが、今では遊園地に行くと絶叫系ばかりで、友達にちょっとうんざりされることも(笑)。富士スピードウェイでレンタルカートにも乗っています!

めぐみさん:アメリカで人生が変わったような気がします。行ってなかったら今頃どうなっていたかって感じですね(笑)。

―ソープボックスダービーに興味を持ち始めた方に一言お願いします。

めぐみさん:実は知佳、アメリカに留学したいって言ってるんです。現地の雰囲気に魅力を感じたのももちろんですが、「日本ではソープボックスカーには12歳までしか乗れないけど、アメリカなら大人でも乗れるから」というのも理由みたいで。もともと興味のなかったこの子がこんなにハマっているのを見ると、すでに興味を持っているなら絶対に楽しめると思いますし、その先の道も広がると思います。ぜひ参加してみてください。

知佳さん:ちょっとでも興味があるなら絶対に参加してほしいです。勝てなくてもいい思い出になると思うし、もし勝てて国際大会に出られたら、アメリカとかカナダとか、違う国の人たちとも友達になれます。イベントもたくさんあるので楽しいですよ!

運転も、緊張も、ドキドキも、“全部”が楽しい!

露崎快仁くん(2019年チャンピオン)/露崎尚義さん(お父さん)

―参加のきっかけは何だったのですか?

尚義(ひさよし)さん:もともと快仁(かいと)がカートをやりたいと言っていたのですが、まだ背が小さかったのもあり、まずはほかのスピード競技がないかな、と思いインターネットで探しました。

―もともとレースが好きなんですか?

快仁くん:そうです。「ゲキドライヴ」というミニ四駆のようなプラモデルが好きで、大会に参加していくうちに、そこで知り合った友達からスーパーGTやスーパーフォーミュラを教えてもらいました。好きなのは脇阪寿一さんです。

ゲキドライヴの大会に参加する快仁くん

ゲキドライヴの大会に参加する快仁くん。

―もともと車好きなんですね。ソープボックスカーに乗ってみてどうでしたか?

快仁くん:エンジンとかついてなかったので最初は「ちゃんと走るのかな?」と思っていたのですが、意外とスピードが速くてびっくりしました。

尚義さん:私はもっと小さな大会を想像していたので、会場に着いて規模にびっくりしました。

―快仁くんは思ったより大きな大会で緊張しましたか?

快仁くん:隣の人と話をしながら順番を待ってたので、緊張とかはなかったです。でも走ってる最中のことは緊張してあまり覚えていません(笑)。

―速く走るために心がけていたことはありますか?

快仁くん:空気抵抗を減らすためにとにかく姿勢を低くすることです。それとお父さんから「走行ラインを考えなさい」って言われたのでそれも意識しました。

尚義さん:走るコースによってタイヤの回転の仕方が全然違ったので、周りの人が走るのを観察するようにとは伝えましたね。

―小学5年生で空気抵抗やタイヤの回転を考えられるなんてすごいですね……。

快仁くん:もともとレースゲームが好きなので、そういうところで覚えました。

写真撮影も堂々なもの

写真撮影も堂々としたもの。

―優勝したときはどんな気持ちでしたか?

快仁くん:初めてだったのでうれしかったです。

尚義さん:快仁はこういう大きなトロフィーをもらうのって初めてだったので、親から見てもうれしかったですね。優勝した後の写真撮影やインタビューにもちゃんと答えていて、成長を感じました。

―優勝して変わったなと思うことはありますか?

快仁くん:自信はついたと思います。「得意なこと」ができたっていうか。それから優勝したのをきっかけにあこがれの脇阪寿一さんとお話しできるようになっただけでなく、「脇坂寿一とクルマで未来を創るプロジェクト」にも参加させてもらい、毎月ミーティングに参加したり、レース観戦をしたり、カートを体験したりと、いろいろな経験をさせてもらっています。

尚義さん:大会を通じて快仁の成長を実感して、コミュニケーションの仕方が変わりました。ソープボックスダービーだけでなくいろいろなことに対して、「自分に何が必要なのか」を考えられるようになっていると思うので、「ああしなさい、こうしなさい」というのはなくなりましたね。

―ソープボックスダービーに興味を持ちはじめた方に一言お願いします。

快仁くん:ソープボックスカーは運転することも、走る前の緊張も、走った後の「タイムが追いつかれないかな?」というドキドキも、とにかく全部が楽しいので、迷ってるならやってみたらいいと思います。

尚義さん:最近の学校って「競争」が少ないので、そういうことを学ぶ場としてとても有意義だと思います。それから子供が一人で運転するので、成長も実感できます。最近話題のSDGsも身近に感じられるようになるでしょうし。何より、大会を通して子供とドキドキワクワクを共有できるっていうのが貴重なので、ぜひ参加してほしいです。

自分の中で「自慢できること」ができた!

工藤夏海さん(2020年チャンピオン)/工藤満さん(お父さん)

―参加のきっかけは何だったのですか?

満さん:私が働いている会社が大会の協賛をしていて、会社経由で参加の募集があったので娘に声をかけてみました。私はとにかく何でもチャレンジしたほうがいいと思っているので、何かのきっかけになればと。

夏海(なつみ)さん:お父さんに言われてソープボックスカーを初めて見たとき、「なんか船みたいだな」って思ったのですが、それに乗ってる自分を想像して「楽しそう!」って思えたので、参加を決めました。

―「怖い」とか「危なそうだな」とは思いませんでしたか?

夏海さん:全然! 遊園地のジェットコースターとか大好きなので! でも実際に乗ってみたら、怖さとかはなかったんですけど、緊張してブレーキを踏みすぎてしまったりして良いタイムは出ませんでした。

―優勝したのはその翌年ですよね?

夏海さん:そうです。「去年のリベンジをするぞ!」って、大会前にチャンピオンから聞いたアドバイスをよく聞いて、ちゃんとやったらタイムも良くなりました。

リベンジを果たした夏海さん

リベンジを果たし優勝した夏海さん。

―お父さんは夏海さんが走るのを見てて、不安ではなかったですか?

満さん:それはなかったですね。事前の説明もしっかりありましたし、コースサイドにもスタッフの方がいたので、安心して応援できました。

―リベンジを果たせたときはどう思いましたか?

夏海さん:うれしかったです! お父さんも帰りの車の中で喜んでました。でもアメリカには行けなくなってしまったので、今年も出場して、2年連続優勝で今度こそアメリカに行きたいです!

―大会に出場して「良かったな」と思うところはありますか?

満さん:直接見てはいないのですが、学校などで積極的に発言するようになったというのは聞きました。チャレンジ精神も旺盛になった気がします。「真剣にやれば自分にもできるんだ!」っていう自信がついたんでしょうね。

夏海さん:自慢できるところ(笑)! これからもっとたくさんの人にソープボックスダービーを知ってもらって、みんなで楽しめればいいなと思います。

―ソープボックスダービーに興味を持ちはじめた方に一言お願いします。

満さん:実際には行けませんでしたが、子供から「アメリカに行ける」というチャンスや夢をもらえたことはとても感謝しています。危険な競技でもないですし、子供たちも本当に楽しそう。子供のチャレンジの場として最適だと思うので、ぜひ参加してみてください。

夏海さん:どういう競技かあまり想像できないかもしれないけど、出てみたら絶対に楽しいので参加してほしいです!

バトントワーリングにもチャレンジ中

バトントワーリングにもチャレンジ中。

ナショナルチーム選考会の様子を動画でチェック!

見慣れない形のソープボックスカー。 細かいところを見てみよう!

見慣れない形のソープボックスカーのさらに細かい部分について、技術委員長の山本さんに伺いました。

見慣れない形のソープボックスカーのさらに細かい部分について、日本ソープボックスダービー協会の技術委員長を務める山本君一さんに伺いました。

座る場所

座る場所とハンドル、ブレーキのみが取り付けられた、かなりシンプルなフロア。垂直に立っている木の板がブレーキで、青い丁字の金属がハンドル。ドライバーはブレーキとハンドルに手足を合わせ、長座体前屈のような姿勢で乗り込む。

ハンドルは曲げるとワイヤーを通してタイヤの軸が動くというシンプルなもの。ブレーキを踏み込むとフロアの下から金属のストッパーが出てきて、地面との間に摩擦を発生させる。

ハンドルを切るとワイヤーを通してタイヤの軸が動くというシンプルなもの。ブレーキを踏み込むとフロアの下からゴム板のストッパーが出てきて、地面との間に摩擦を発生させる。

ソープボックスカーはとてもシンプルな乗り物だが、それゆえに非常に奥が深いと語る山本さん。空気抵抗やタイヤの転がり抵抗、アライメントの微妙なずれなどがダイレクトにタイムに影響するため、極めるにはドライバーにも理解力とテクニック、技術力が求められる。

ソープボックスカーはとてもシンプルな乗り物だが、それゆえに非常に奥が深いと語る山本さん。空気抵抗やタイヤの転がり抵抗、アライメントの微妙なずれなどがダイレクトにタイムに影響するため、極めるにはドライバーにも理解力とテクニック、技術力が求められる。

タイヤの軸

タイヤの軸に薄い金属をかませるだけで、タイムにコンマ数秒の差が出るといい、100分の1秒を争うソープボックスダービーでは大きな違いが出る。なお国内で行われるナショナルチーム選考会では、全マシンを協会が整備し、イコールコンディションで行われる。

このとてもシンプルなフロアをみて一目で「奥が深い」と見抜いたのは、レーシングドライバーで自動車評論家の松田秀士さんと、元F1ドライバーの佐藤琢磨さんだけだとか。

このとてもシンプルなフロアをみて一目で「奥が深い」と見抜いたのは、レーシングドライバーで自動車評論家の松田秀士さんと、元F1ドライバーの佐藤琢磨さんだけだとか。ともにアメリカのインディーカードライバーであることも興味深い。

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