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あなたは大丈夫? 視野障害がもたらす思わぬ運転リスクとは

安全運転を続けるためには、視力だけでなく、視野も大切。自覚なしに進行する視野障害と運転時の見え方・リスクについて解説します。

2024.03.18

監修=東京慈恵会医科大学 眼科学講座主任教授 中野 匡/撮影=奥隅圭之

2024.03.18

監修=東京慈恵会医科大学 眼科学講座主任教授 中野 匡/撮影=奥隅圭之

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

人は8割近くの情報を「目(視覚)」から得ているといわれています。
その大切な情報源となる目の視力や視野が衰えることで、
多くの人が、知らぬ間に運転リスクを高めているかも…。
また、目の病気は加齢とともに増えてくるため、
あらかじめ車の運転への影響について知っておきましょう。

※JAF Mate 2018年4月号「大丈夫ですか? あなたの視野」を再構成して掲載しています。

情報入手に大切なのは「視力」、そして「視野」

人間は、視覚を通じて得た情報によって、色を判別する、光の明暗を捉える、物体の形状を把握する、物の位置や距離を把握する、といった行動を自然に行っています。このうち、物体の形状を把握する「視力」については、「私の視力は右1.0、左1.2」などと、普段から意識している人も多いでしょう。
ところが、目に見える範囲を示す「視野」については、日常生活を営むうえであまり意識されることがありません。それは、仮に片方の目の視野に異常があっても、両方の目で見ていると、見えていない部分をカバーして映し出してしまうので、気づきにくいからです。

スピードが上がるほど視野は狭くなる! 運転中は視野の変化に注意

一般的な視野は、立ち止まって正面の一点を見つめたとき、片側の目で見える範囲は上方60度、下方70度、内側(鼻側)60度、外側(耳側)90〜100度になるとされています。そのため、左右両方で見える範囲(静的視野)は水平200度程度です。
一方、車の運転時など、視界に「動き」が加わった場合、認知できる範囲はぐっと狭くなります。たとえば、時速40㎞で走行している際の視野は、正面を中心に水平100度となり、時速130㎞では、わずか水平30度程度まで狭まります。
そのため高速走行時には、物体の動きや光の変化に敏感とされる「周辺視」(「視力と視野」イラスト参照)の働きが弱くなり、歩行者の動きや信号の変化を把握しにくくなる、といったリスクが生じます。

まずは目のしくみを知ろう

視野は「見える範囲」、視力は「見る能力」

視野とは、目を動かさないで見える範囲のこと。一方、視野の中でもいちばん感度の高いところ(中心視)の見る能力を、視力と呼んでいます。そこでは視力検査のときにおなじみの「ランドルト環」のように、輪のつながっている部分と離れている部分といった、ある2点の違いを見分けることができます。

視力と視野の説明イラスト

速度の違いによって視野は変化する

視野の中心は解像度が高く、物の細かな違いを判別しています。対して視野の周辺は解像度が低く、人の動きなどといった大まかな違いを察知しているといわれます。
視野の範囲は、動いている状態のほうが狭くなるため、周囲の状況把握も難しくなります。

速度によって変化した視野のイメージ写真

前の黒い車を注視した際のイメージ

視野障害をもたらす病気と運転リスクの関係性

こうした視野の狭まりが、病気によって生じるケースがあります。現在40歳以上の日本人のうち20人に1人が罹患しているとされる「緑内障」をはじめ、網膜の中心に異常が生じる「加齢黄斑変性」、遺伝性の「網膜色素変性」など、いろいろな病気が視野に影響します。これらの症状として、目の感度が低下する「視野沈下」、あるいは、視界の一部が見えなくなる「視野欠損(狭窄)」が挙げられます。
もし、こうした症状を自覚することなく車を運転すると、進行方向だけに視線が集中し、それ以外の安全確認がおろそかになる、右左折の際に二輪車や歩行者に気づくのが遅れる、標識を確認できずにルールに反する運転を行ってしまう、といったリスクがあります。
また、これらの症状は加齢とともに進行する傾向もみられることから、運転免許を更新するときに行われる高齢者講習の際に、新たな視野検査を導入する動きも始まっています。

視野が損なわれる目の病気とは?

主な視野障害の原因と、特徴的な見え方の違い

視野障害をもたらす主な原因とされる「緑内障」「加齢黄斑変性」「網膜色素変性」「白内障」の視野の欠け方は写真のようになります(病気の種類や進行によって異なります)。

正常な視野のイメージ写真

正常な視野

緑内障による視野障害のイメージ写真

緑内障
視神経に障害が生じて、徐々に視野が狭くなっていく。自覚症状に乏しい。写真は、初期〜中期の一例。

加齢黄斑変性による視野障害のイメージ写真

加齢黄斑変性
網膜の中心部(黄斑)に異常が生じ、物がゆがんで見える、視野の中心が暗くなる、といった症状をもたらす。

網膜色素変性による視野障害のイメージ写真

網膜色素変性
網膜に異常が生じる遺伝性の病気。初期にはリング状に視野が欠ける輪状暗点が生じ、徐々に視野が狭まっていく。

白内障による視野障害のイメージ写真

白内障
加齢に伴い水晶体が白く濁って、視界が全体的にかすむ。逆光下などではより見えにくくなることも。

自覚せずに進行する視野障害。運転にはどんな影響が?

正常な視野(左)と障害のある視野(右)を比較した写真。交差点の前方で青信号を確認する

同じく比較写真。交差点が近づき信号が赤に変わる

同じく比較写真。正常な場合は停止線で止まるが、視野障害により赤信号を見落とし停止できない

こんなことがあったら要注意!

  • 歩行者や障害物、他の車に注意がいかない
  • カーブをスムーズに曲がれない
  • 車庫入れのとき、塀や壁をこすることが増えた

警察庁パンフレットより

長く運転を続けるには早期発見が大切。40歳を過ぎたらぜひ健診を!

緑内障が発覚した理由の円グラフ

日本眼科医会調査より

視野に障害が生じる病気の中で、日本人の失明原因として最も多いのが「緑内障」です。特徴として、初期の段階では自覚しにくく、眼科を受診することなく症状が進んでしまう事例が多く挙げられます。そのため、今なお400万人近くの人が、自分が緑内障であることに気づかないまま、というのが実状です。
眼科では、眼底の画像を三次元解析するOCT(光干渉断層計)の導入が進んでおり、緑内障の検査も精度が高まっています。もし緑内障であることがわかった場合、視野が欠ける原因である視神経の減少は、毎日の点眼を中心とした治療の継続によって抑えることができます。つまり今、見えている状態を、年齢を重ねても保ち続けるのは不可能ではないのです。
緑内障をはじめ、視野に異常が生じる病気は中高年の頃から罹患率が高まるといわれます。ひとつの目安として40歳を過ぎたら年に一度は検診を受け、自分の「QOV」(クオリティ・オブ・ビジョン)を守っていきましょう。

気づきにくい「視野の欠け」(イメージ)

視野が欠けた左右の目と両目での見え方のイメージ写真

中野 匡

なかの・ただし 東京慈恵会医科大学 眼科学講座主任教授、
日本視野画像学会理事、日本緑内障学会理事、医学博士

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