高齢ドライバー=危険は先入観! 若い世代も注意を
事故が多いのは実は若年層。データから見る高齢ドライバーの実像とは。昨今、クローズアップされることの多い高齢者の事故。 だが、高齢ドライバーたちの運転は本当に危険なのだろうか? データからは、必ずしもそうとは言えない状況も見えてくる。 交通事故データとJAF Mate独自のアンケート結果から、その実像を探る。
※JAF Mate 2019年1月号「高齢ドライバーと事故」を再構成して掲載しています。
高齢者は本当に事故を起こしやすいのか
逆走、ペダル踏み間違いなど、高齢者による重大事故が、大きく報道されている。だが、高齢者の運転について研究・提言を行うNPO法人高齢者安全運転支援研究会理事長の岩越和紀氏は、「高齢者=危険」という構図がクローズアップされがちな現況に違和感がある、と語る。
「高齢者といっても状況は人によって異なり、年齢だけで一概に線引きできるものではありません。にもかかわらず、昨今は高齢者というだけで、危ないから免許を返納すべき、という風潮がある。認知症のようなケースは別として、空気感だけで高齢者から運転する生活を奪っていいものでしょうか?」
高齢ドライバー(65歳以上)の事故件数は、平成25年から4年連続で減少した。にもかかわらず注目されるのは、全年齢層の事故に占める割合が増えているため。他の年齢層の事故の減り方に比べ、高齢ドライバーの事故はあまり減っていないのだ。だが、これは高齢者の運転のせいだけとも言えないようだ。
「事故が減らないのは免許を保有する高齢者が増えたから。昔に比べて事故を起こしやすくなったわけではありません」
そう分析するのは、『高齢ドライバーの安全心理学』の著者、実践女子大学の松浦常夫教授だ。
高齢者の事故は極端に多いわけではない
最も事故を起こす割合が高いのは16〜19歳
下の2つのグラフからもわかるように、最も事故を起こす割合が高いのは16~19歳で、30~74歳はむしろ低い年代。75歳以上になると、特に死亡事故件数が増加するが、これも他者を死亡させた事故ばかりではなく、「高齢ゆえに、事故を起こした本人が死亡するケースが、若年層よりも多く含まれているから」(松浦教授)だという。
警察庁交通局「平成29年中の交通事故発生状況」を基に作成。
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※平成29年12月末の運転免許保有者数で算出。
警察庁交通局「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」を基に作成。
40代でも半数以上が加齢による運転の衰えを感じている!
JAF Mate 2018年10月号読者アンケート(総数34,446人、総票数52,244票[複数回答可のため])の結果。加齢による運転の衰えを感じる人は20代から増え始め、40代になると6割を占める。どの年齢層でも多い衰えの内容は、「夜間や雨の日、物が見にくくなった」。65歳以上になると多くなるのが、「駐車枠にまっすぐ止められなくなった」「バックが苦手になった」だった。
出会い頭事故と単独事故に注意
では、高齢ドライバーの事故にはどんな特徴があるのだろうか。
「65歳から追突事故の割合が減り、出会い頭事故の割合が大きくなっています(下のグラフ)。これは、信号のない交差点など、高齢者がよく使う生活道路で発生しやすい、交差点で必要な注意配分が高齢者には難しい、そもそも交差点で一時停止しない高齢者が多い、などが理由だと思います」(松浦教授)
事故時の違反に注目すると、高齢ドライバーは若年層より安全不確認、操作不適(ハンドル等の操作ミス)、交差点安全進行(義務違反)、一時不停止、信号無視、歩行者妨害、優先妨害の割合が大きい。
「一時不停止、信号無視、優先妨害は、交差点での衝突を引き起こす点で、出会い頭事故と密接に関係します。また、操作不適は工作物衝突、路外逸脱などの車単独の事故と関係が深い。こちらも高齢ドライバーに多い事故です」(松浦教授)
平成29年の警察庁資料「75歳以上高齢運転者による死亡事故の類型別件数比較」によれば、車単独の事故は、75歳以上の高齢ドライバーが起こした死亡事故の約40%を占めている(75歳未満は約23%)。まずはこうした違反を犯さないように注意することが、事故を起こす確率を減らすことにつながるだろう。
- ※車同士の事故のグラフは、交通事故総合分析センター(ITARDA)統計資料「事故類型別・年齢層別性別全事故件数(第1当事者)2018年4月現在」を基に作成。
長く安全に運転を続けるために
「違反に注意することも大切だが、問題はそれだけではない」、と松浦教授は指摘する。
「高齢ドライバーは赤信号や接近車両に気づいていたのにわざと無視したのでしょうか。私は違うと思います。問題は〝気づいていなかった〟ことなのです」
上の折れ線グラフは、「歩行者や自転車に気づかない」「信号や標識を見落とす」という〝認知〟に関する項目と、「車のこすり傷が増えた」「バックが苦手になった」という〝体感〟的項目の年齢別の調査だが、体感的項目が年齢とともに上がり続けるのに対し、認知的項目は60代から緩やかに減少している。
「認知的項目が減るのは、〝気づかないこと自体に気づいていない〟からでしょう。本人は安全を確認したと思っているのだから、注意を促すのは難しい。しかし、〝自分は気づいていないかもしれない〟と思って運転するのとしないのとでは全然違う。走行速度を少し落とすだけでも効果はあります」(松浦教授)
ドライバーの運転技能は単純に年齢では測れないし、弱点も人によって異なる。安全運転を続けるには、まず自分の弱点に気づくことが重要。そして、そんな気づきを安全運転に生かす方法としておすすめなのが、〝補償運転(安全ゆとり運転)〟という考え方だ。
補償運転とは、「雨の日や夜間に物が見えにくい→雨の夜は運転しない」「歩行者に気づかない→速度を落として余裕を持つ」など、苦手に感じる状況を避ける、安全ゆとり運転のこと。運転に制約を設けるため、不便かもしれないが、リスクそのものを減らせるメリットは大きい。
「高齢者にとって、運転は単なる移動手段ではなく、脳を活性化するコミュニケーションツールであり、社会とつながる手段でもあります。安全に〝運転寿命〟を延ばすことは、豊かな人生を過ごすことになるのではないでしょうか」(前出・岩越氏)