交通事故発生! あなたは応急手当できますか?
重要なのは「救命の連鎖」をつなぐこと。そのために知っておきたい応急手当の基礎知識。もしも交通事故を起こしてしまったら? 交通事故を目撃したら? あなたは適切に対処し、負傷者を助けることができますか? 負傷者への応急手当を中心に、ドライバーが事故現場でとるべき行動について考えてみましょう。
※JAF Mate 2022年秋号「交通事故発生! 応急手当できますか?」を再構成して掲載しています。
応急手当の経験者はわずか3%。救命のためにできることとは?
回答者数は53,780名 ※JAF Mate Online(2022年4月)アンケート結果
交通事故で負傷者が発生した際には応急手当が必須ということは、ドライバーなら誰しもが認識しているはずだ。
「救命率を向上させるためには、『救命の連鎖』をつなぐことが非常に重要です」と、日本赤十字社健康安全課長の武久伸輔氏は語る。
「救命の連鎖」とは、「心停止の予防」「早期認識と通報」「一次救命処置(市民が行う心肺蘇生やAED)」「二次救命処置(医療関係者の救命処置)と集中治療」を4つの輪に例え、その輪が途切れることなく迅速につながることにより、救命率が向上することを意味している。救命の連鎖を支えるために、我々も大切な役割を担っているのだ。
読者アンケート(上グラフ参照)によれば、「交通事故の負傷者への応急手当を適切にできる自信がありますか?」という問いに対して「はい」と回答した人の割合は23%だった。
「すべての過程に完璧な自信を持てなくても、何かひとつの役割だけでも担えるようになってほしいです。いちばん大事なのは、どうすれば相手の苦しみが軽減し、安心できるかを考えてあげること。そばにいて声をかけてあげるだけでも全然違うので、小さなことからやってみていただければと思います。また、毛布、タオル、三角巾など、手当に役立つものを普段から車に積んでおくのもいいでしょう」(武久氏)
知っておきたい応急手当の流れと基本
一般社団法人日本蘇生協議会監修:JRC蘇生ガイドライン2020,P20,医学書院,2021より転載
❶周囲・全身の観察、反応の確認
負傷者がいたら、まず周囲の状況をよく観察し、事故の続発を防ぐ。周囲の安全が確認できたら、負傷者の全身状態を観察する。大量の出血がある場合は止血(★)をする。負傷者の肩を軽くたたきながら、耳元で「大丈夫ですか?」と声をかけて反応を確認する。
- ★止血
大人でも1ℓ以上の血液が失われると生命に危険が及ぶため、大量の出血がある場合は速やかな止血が必要。止血は「直接圧迫止血」が基本。傷口の上をガーゼやハンカチで直接強く押さえてしばらく圧迫する。感染防止のため、自分の手にビニール袋などをかぶせ、血液に触れないようにする。
❷協力者を求める、119番通報とAEDの手配
反応がない場合や判断に迷う場合は、大声で「誰か来てください」と協力を要請し、「あなたは119番通報をお願いします」「あなたはAEDを持ってきてください」と依頼する。協力者がいない場合は自身で119番通報し、AEDが近くにあるとわかっていれば取りに行く。
❸呼吸の確認
負傷者が心停止を起こしているかを判断するために呼吸を確認する。胸部と腹部の動きを観察し、普段どおりの呼吸がない場合や判断に迷う場合は、心停止と判断。判断に10秒以上かけないようにする。
❹胸骨圧迫
圧迫部位(図、胸の真ん中あたり)に片方の手の手首に近い部分を置き、その上にもう一方の手を重ね、指を組む。両肘を伸ばし、腕の力ではなく上半身の体重を利用して、胸骨を垂直に約5㎝強く押し下げる。押し下げたら速やかに力を緩め、手を胸骨から離さずに元の胸の高さに戻す。1分間あたり100~120回のテンポで30回、「強く」「速く」「絶え間なく」行う。乳児の場合は、2本指を立てて、胸の厚さの約3分の1程度を押し下げる。圧迫のテンポは成人と同じ。
❺人工呼吸
舌の根元が沈下し気道が塞がるのを防ぐため、頭を後ろに傾け、下あごを引き上げて気道を確保する。指で負傷者の鼻をつまみ、自分の口を大きく開けて負傷者の口を覆い、1秒かけて胸が上がるのがわかる程度に息を吹き込む。フェイスシート等があれば感染防止のために使用する。いったん口と指を離して息を自然に出させてから、再び鼻をつまみ、口を覆い、2回目の吹き込みを行う。人工呼吸2回を終えたら再び胸骨圧迫を30回行う。このサイクルを繰り返す。
❻AED
AEDが届いたら電源を入れ、音声メッセージに従い操作し、可能な限り胸骨圧迫と人工呼吸を継続する。負傷者の胸をはだけさせ、電極パッドを胸の右上と左下側に貼り付ける(図)。負傷者が女性であっても、なるべく人目にさらさない配慮をし、下着をずらすなどして直接貼り付ける。未就学児や乳児には、未就学児用パッドがあれば使用する。電気ショックの効果が薄れないよう、胸部が水で濡れているときは拭き、湿布等の貼り薬は除去する。心電図解析の際は、音声に従い負傷者から離れる。心電図解析の結果、AEDが必要と判断したら、音声に従い電気ショックを実施する。感電の危険があるので「離れてください」と周囲に知らせ、負傷者に誰も触れていないことを確認してからボタンを押す。電気ショック後、AEDの電源は入れたままで、音声に従い胸骨圧迫と人工呼吸を再開する。
日本赤十字社では、全国各地の支部等で応急手当(救急法)の講習を実施しており、応急手当の手順や方法についての動画をウェブで見ることもできる。
事故発生時にドライバーがすべきこと
事故発生直後から処理が終わるまでの流れを、一般道での事故を例に紹介。事故の状況や場所に応じ、臨機応変に対応してほしい。
1.事故の続発を防ぐ
●火災が起きないように車のエンジンを切る。ハザードを点灯し、後続車の追突を防止する。後続車からの視認性を高めるため、トランクを開けるのもよい。
●事故が続発する危険がある場合は、路肩や空き地など安全な場所に車を移動する。
●周囲の車に注意しながら降車し、発炎筒や停止表示器材などで後続車に危険を知らせる。発炎筒を使うときは車の燃料漏れに十分注意。3、4本あると安心。
●被害状況を確認。負傷者がいる場合は状況に応じて「2.負傷者の救護」を優先する。
●事故車の中には人を残さず、速やかに安全な場所へ避難させる。負傷者が危険な場所にいる場合も、状況を見ながら安全な場所へ移動させる。
2.負傷者の救護
●負傷者がいる場合はただちに119番通報をし、事故発生場所、けが人の状態、事故の状況などを落ち着いて伝える。
●意識不明、大量出血などが見られるときはむやみに動かさず(危険な場所にいる場合を除く)、できる範囲で応急手当を行う(やり方は「知っておきたい応急手当の流れと基本」を参照)。
●周りの人に声をかけて手伝ってもらう。AEDの手配、通報、移動、応急手当、交通整理など人手が必要。
- ※自分が起こした事故で救護の措置をとらずに現場を立ち去ると、運転者はひき逃げ(救護義務=道路交通法72条1項前段の違反)となり処罰される。
3.警察(110番)へ連絡
●人身事故はもちろん、軽微な物損事故の場合でも必ず警察に連絡する。その場での示談はしない。その場の示談などで済ませると後々トラブルに発展することも。また警察への届け出がないと事故証明書が発行されず、保険の請求ができない場合がある。
●事故の目撃者がいれば、可能なら警察官が来るまで現場にいてもらうか、住所・氏名・連絡先などを聞いておくとよい。
4.警察・救急隊が到着したら指示に従う
●警察や救急隊に事故状況を説明する(真実を述べる。質問には想像で答えず、わからないことは「わからない」と答える)。
●事故現場付近に防犯カメラがある場合はチェックしておく(コンビニ・銀行・駐車場など)。防犯カメラの映像に、事故の解明につながる映像が残っている場合がある。
5.事故についての情報を記録
●事故処理が終わったら事故相手の車のナンバーを控え、相手の名前・住所・電話番号・免許証番号・保険会社と契約者名・自動車保険の証券番号を聞いて交換する。名刺などは他人のものの可能性もあるので、免許証で確認を。現場や事故車の状況を記録するには、スマートフォンのカメラや録音機能、メモ機能が便利。
●自分の車にドライブレコーダーが付いていれば記録を保存するとともに、相手の車にドライブレコーダーが付いているかどうかをその場で確認する。
●事故発生時間、場所、状況の見取り図(余裕があれば)、届け出をした警察署名を記録する。
6.保険会社に事故報告を入れる
●保険会社のサービスセンターや代理店の電話番号は、普段からスマートフォンや携帯電話に登録しておくと便利。
●遅滞なく保険会社に第一報を入れ、細かな内容は保険会社の指示に従い後日報告する。保険会社に連絡しないと、保険金が減額されることがある。