監修=篠原一光(大阪大学大学院教授)・菰田潔(モータージャーナリスト)/イラスト=德丸ゆう

危ない! ペダルの踏み間違い、シフトミスのヒヤリ・ハット

体験者の声から見えてくる、事故防止のポイントとは。

運転中、アクセルとブレーキペダルを踏み間違えてヒヤリ! シフトミスをしてヒヤリ! 不慣れな車や靴でヒヤリ!など、操作ミスや不注意などで肝を冷やした経験はありませんか? 多くのドライバーから寄せられたヒヤリ・ハット体験から見えてくる、危険な場所や状況を把握して事故防止に繋げましょう。

目次

※JAF Mate 2017年12月号「踏み間違い、シフトミスのヒヤリ・ハット体験」を再構成して掲載しています。

JAF Mate誌で行ったJAF会員への読者アンケートによると、運転中のヒヤリ・ハット体験について「経験あり」の回答は全体の1割、そのうち踏み間違いとシフトミスはほぼ同数だった。原因として多いのは、駐車場や車庫など特定の場所、焦りや疲労による注意力不足、慣れない車や合わない靴での運転、といった3つのケースだった。

踏み間違い、シフトミスでのヒヤリ・ハット体験に関するグラフ

年齢層別の操作不適事故割合のグラフ

平成16年~25年(出典=ITARDA)

駐車場は運転の負担が高まる場所

アンケートから浮かび上がったさまざまなヒヤリ・ハットの場面。なかでも、駐車場や車庫でのケースが目立った。
交通心理学が専門の、大阪大学大学院・篠原一光教授は、「駐車時は前進と後退、ペダルとシフトの繰り返し、前後左右に視線を移すというように、運転操作が複雑になるので精神的な負担が高まる」と言う。
篠原教授は特に、「バック中に隣の車が発進し、ブレーキが利かない錯覚に陥った」というケースに注目。これは心理学的に「隣接する2本の電車の一方が動くと、止まっているはずの自分の電車のほうが動いたように錯覚する」のと同様、一種の誘導運動ではないかと指摘する。

CASE.1 駐車場・車庫でのヒヤリ・ハット

切り返し操作によるヒヤリ・ハットのイラストと体験場所別グラフ

雪の駐車場で段差を乗り越えようとアクセルを踏み込みすぎ、雪山に突っ込んだ
北海道/女性/69歳

駐車券を取るときに体を伸ばしたら、足がブレーキから外れて動き出した
愛知県/男性/80歳

駐車時にAT車のクリープをアクセルを踏んだと勘違い
宮城県/女性/32歳

駐車場から出るときに歩道をふさいでしまい後退。人が途切れたので前進すべく、「R」のままアクセルを踏んだ
神奈川県/女性/51歳

駐車の最中に後続の車が来てシフトミス
山形県/男性/55歳

切り返しを何度もして混乱、「R」でアクセルを思いっきり踏んだ
岐阜県/女性/20歳

バックで駐車中に隣の車が発進。ブレーキが利かなくなったと錯覚
岐阜県/女性/64歳

窓から顔を出しバック駐車。足が届かずブレーキのつもりでアクセルを踏んだ
千葉県/男性/67歳

コンビニで前向き駐車。出るときに、いつもの習慣から「D」で発進
静岡県/女性/54歳

コンディションの不調に要注意

次に、注意力不足を原因とする回答も多かった。これらは大きく、「焦り」「考え事」「疲労」の3つに分類できた。
これについて篠原教授は、「考え事や焦りなどがあると、操作内容を切り替えるために必要な注意力が不足する」と指摘。そこから、シフトや足の位置が正しく意識されなくなったり、必要な操作を省略したりと、典型的なヒューマンエラーに結びつくという。
たとえば、車が動いて初めて間違いに気づいて驚き、すぐに状況を理解できないとき、心の中で「車を止める」ため、アクセルからブレーキへの踏み替えを省略し、無意識にペダルを踏み込んでしまう、といった反応が生じるという。

CASE.2 注意力不足によるヒヤリ・ハット

上司を乗せてヒヤリ・ハットのイラストと注意力不足の原因別グラフ

新人の頃、上司を乗せて緊張のあまりシフトミス
長崎県/男性/67歳

アクセルを踏んだまま仮眠。寝起きにそのままエンジンを始動
大分県/女性/36歳

赤ちゃんが泣き出して気を取られた
山口県/女性/30歳

初心者のとき、親に運転をほめられ気が緩んだ
岡山県/女性/32歳

金メダルがかかったオリンピックのラジオ番組が流れていたので、注意がおろそかになった
愛知県/男性/66歳

渋滞でアクセルとブレーキを繰り返し、どちらかわからなくなった
宮城県/女性/32歳

ウルトラマラソン出走後の疲労感で踏み間違い
千葉県/男性/42歳

帰宅すると消防車が自宅アパートに放水中、慌てて踏み間違い。結局抜き打ち訓練だった
群馬県/女性/65歳

同乗者との会話に気をとられ、バックするつもりが前進
広島県/男性/46歳

慣れない車や靴にもリスクが

また、運転に不向きな靴を履いていた、乗り慣れない車を運転していた、といった原因も多く寄せられた。
モータージャーナリストの菰田潔氏は、「車のペダルやシフトの配置にも問題がある」と指摘。通常、運転席の中央辺りにアクセルがあり、特に小型車ではブレーキペダルとの間隔も狭い。このため、とっさに右足を伸ばした際に踏み間違いのリスクが高まるという。同様に、フロアシフトやコラムシフト、インパネシフトといったシフトの不統一感もミスを誘発する一因となる。「普段とは違う車に乗る場合は、慣れるまで車内の配置を見渡して、始動前にアクセルとブレーキを交互に繰り返し奥まで踏み込んでみる、といった確認作業も効果がある」と言う。
さらに菰田氏は、「運転は決められた一連の順序を守ることがもっとも大切」と述べる。ドライビングポジションを合わせ、シートベルトをして、ブレーキペダルを踏んでエンジンを始動。ギアを入れてからブレーキをゆっくり戻し、アクセルを最初はじんわりと踏む。こうしたスムーズな操作手順を習慣化していれば、とっさの場合にも、いつもと同じ動作ができるという。

CASE.3 不慣れな車・靴によるヒヤリ・ハット

スキー靴でのヒヤリ・ハットのイラストと不慣れの原因別グラフ

厚底ブーツ着用時、足裏の感覚がつかめず意思に反して発進した
千葉県/女性/44歳

クルーズコントロールとラジオの音量を間違え、速度UP
三重県/男性/57歳

スキー場でスキー靴のまま運転、アクセルとブレーキを同時に踏んだ
奈良県/男性/68歳

MT派の私が友人のAT車を運転。クラッチとブレーキを間違え、全員ジュースをこぼした
奈良県/男性/68歳

夫のトラックを運転したら、シフトがわからなくなった
大分県/女性/62歳

雪のついた靴底が滑ってアクセルへ
愛知県/男性/69歳

普段は普通車。娘の軽に乗ったら踏み間違えた
神奈川県/男性/68歳

家に車が4台あるのでよく操作を間違える
岐阜県/男性/51歳

今回のアンケートから、ヒヤリ・ハットの背景にあるさまざまな状況が浮かび上がった。これらは年齢にかかわらず、誰にでも起こりうることだ。
JAFでは、こうした状況が引き起こす事故のリスクを低減する効果が期待される、先進安全自動車の普及啓発を進めている。と同時に、こうした装置への正しい理解や、常にドライバー自らが安全運転を心がけることの重要性を伝えている。

篠原 一光

しのはら・かずみつ 大阪大学大学院人間科学研究科教授。1991年大阪大学人間科学部卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程中退。大阪大学助手、同大大学院助教授を経て現職へ。博士(人間科学)。専門は認知心理学、交通心理学、人間工学。自動車運転者をはじめ、日常生活の中での認知と注意の働きの解明やヒューマンエラー防止、運転適性としての認知機能の研究に従事している。大阪府安全運転管理者講習等、交通安全教育の実践にも関与している。

菰田 潔

こもだ・きよし モータージャーナリスト、日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会長、BOSCH認定CDRアナリスト、JAF交通安全・環境委員会委員など。ドライビングインストラクターとしても、理論的でわかりやすい教え方に定評がある。

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