特集

重大事故につながる、運転中の体調急変

体調急変による事故の現状と、それを防ぐ注意点や対策

2023.01.29

監修=滋賀医科大学社会医学講座教授・一杉正仁/イラスト=古村耀子/グラフ=尾黒ケンジ

2023.01.29

監修=滋賀医科大学社会医学講座教授・一杉正仁/イラスト=古村耀子/グラフ=尾黒ケンジ

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

※JAF Mate 2021年12月号「重大事故につながる運転中の体調急変」を再構成して掲載しています。

運転中に心臓発作や脳梗塞などを発症し、
それが原因で事故に至るケースが起きている。
「体調急変による事故」の現状と、
それを防ぐ注意点や対策を覚えておきたい。

公表されている事故は、氷山の一角?

まず注目したいのが、下の折れ線グラフ。10年で事故件数は半減したが、「発作・急病」による事故はずっと300件弱と横ばいだ。棒グラフで示した健康起因事故の場合、明らかに増加している。
健康起因事故については報告されていない事例も考えられ、実際にはさらに多くの事故が発生している可能性がある。

めまいや腹痛など、身近な病気も注意!!

下の2つの円グラフは、国交省に報告された健康起因事故の疾病別の内訳。右の死亡した運転手の疾患では心臓疾患が53%と圧倒的に多いものの、左の事故を起こした運転手の疾患では「その他」がもっとも多くなる。その他にはめまいや腹痛、胃けいれんなども含まれるので注意が必要だ。なお、月別の健康起因事故の件数では、12月や2月など寒い時期に多い。

事故がきっかけで厳罰化に

2014年にはアルコールや薬物の影響による事故も含めた自動車運転死傷行為処罰法が施行された。対象となるのは、統合失調症、てんかん、失神、低血糖症、そう鬱病、睡眠障害。そのうち再発性があるなど一定の症状を示すものが該当し、その罹患者が運転に支障が生じると認識しながら運転し、人を死傷させた場合、過失運転致死傷罪より重い危険運転致死傷罪が適用されることになった。

運転前のチェックや健康診断等で事故を防ぐ

何かいつもと違うような違和感をもったら、躊躇(ちゅうちょ)せず運転を中止することが大切。下にある運転前のセルフチェックを確認することで自分の身体や精神面を見直すことができる。また、治療中の病気があり、薬を飲んでいれば、それを正しく飲み続けることも重要だ。

運転前のセルフチェック

体調急変に対応する車側のシステム

●緊急通報サービス、ドライバー異常時対応システム(EDSS)
体調急変の際に車両が自動通報したり、事故を防止するシステムが開発されている。緊急通報サービスは、体調急変時にドライバーが運転席上部やナビ画面のボタン等を押すことでオペレーターにつながり、救急車両を要請できるシステム。EDSSはドライバーが運転不能になった際に車両を安全に停止させるシステム。バスの場合、車内の非常ボタンをドライバーや乗客が押すことで作動する。ボタンを押さなくてもセンサーがドライバーの体調急変を検知して自動停止するシステムも、一部バスやトラック、乗用車に装備されている(下図参照)。

一杉正仁

ひとすぎ・まさひと 滋賀医科大学社会医学講座教授。1994年東京慈恵会医大卒業後、川崎市立川崎病院勤務を経て東京慈恵会医大大学院終了。同大助手、独協医科大学法医学講座准教授を経て現職へ。栃木県警察本部嘱託警察医や名古屋大学大学院講師等も歴任。専門分野は、突然死の病態生理、血栓症、交通事故の予防医学。妊婦のシートベルト着用促進等にも尽力。

この記事のキーワード
この記事をシェア

この記事はいかがでしたか?

関連する記事Related Articles