突然現れる路上の落下物。重大事故も引き起こす、障害物に注意
※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2018年12月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。
前を走る車や対向車からの落下物による事故が後を絶たない。路上の思わぬ障害物に、注意が必要だ。過去の事故事例から、路上の落下物との事故の予防法を探る。
高速道路に落ちていた長さ3mの鉄骨に、車が接触
昨年10月下旬のある晴れた日の夜、福島県内の磐越道で、1台の普通乗用車が炎上した。通行する車両のヘッドライトしか明かりのない高速道路の路側帯で、赤々と燃え上がる車。30歳代前半の女性ドライバーにとって、想定外の愛車の火災。悲劇の引き金となったのは、走行車線上に残された落下物だった。
福島県警高速隊の調べによれば、ドライバーを含む4人を乗せた普通乗用車は、片側2車線の左車線を走行していたという。カーブの多い山間部を走り抜け、平坦な直線区間へと入って数分後、ドライバーらの身体を、突然、突き上げるような衝撃が襲った。
「えっ、何かに乗り上げたみたいだけど……」
車底部を擦るような感覚と車内に轟いた衝撃音に、驚きと恐怖を感じたドライバーは、とっさに車を左に寄せ、路側帯に停車した。乗り上げた物の正体を確かめようと、車から降りた彼女らが目にしたのは、想定外の物であった。
そこにあったのは、建設現場などで見かける、断面がH型の鉄骨で、長さ3m、幅と高さは各15㎝。長大な落下物に愛車が乗り上げた事実に驚きながらも、迅速に警察へ通報したドライバーらを、さらなる事態が襲う。車の下から、煙とともに炎が噴出したのである。
「落下物の存在にまったく気が付かず乗り上げてしまったため、車底部の損傷はかなり激しかったと思われます。車両火災が発生したのは、破損した燃料タンクから漏れ出た燃料に、事故によって発生した火花や熱で火がついたと推測されます」(福島県警高速隊・栁澤禎副隊長)
その火勢は凄まじく、車内は完全に燃え尽き、消火後に残ったのは車体の骨組みとホイールぐらいだったという。路側帯に停車後、乗員4人は車から離れたところに避難していたため、火災に巻き込まれずに済んだことは不幸中の幸いだった。
「結果的には、1人の死傷者も出なかったため、物損事故として処理されましたが、ひとつ間違えれば、複数の死傷者が出てもおかしくないケースでした。高速道路上の落下物は、単なる落とし物ではありません。今回の落下物では、ほかに5台の車が鉄骨と衝突してタイヤがパンクするなどの物損被害が報告されています。落下物は、後続車の走行の妨げになるだけでなく、時速100㎞の世界では、大型車両の横転など、どんな重大事故に発展するかわかりません」(栁澤副隊長)
全国の高速道路で年間30万件の落下物が発生している
国土交通省の調べによれば、2017年度の高速道路会社の落下物処理件数は34万5000件。落下物による事故は、すべてのドライバーにとって、いつ起きても不思議ではない。
落下物を種類別に見ると、1位の「プラスチック・ビニール・布類(毛布、シート等)」、2位の「自動車部品類(タイヤ、自動車付属品等)」、3位の「木材類(角材、ベニヤ等)」が数十年にわたって不動のトップ3。ほかにも、鉄骨や鉄パイプなどの建築資材、簡易トイレ、金網フェンス、スノーボードなど多種多様だが、落とし主の大半は、プロのトラック運転手だという。
「荷物を固定するワイヤーやベルトなどのかけ方は、積み荷の形状や重量などで変わります。しかし、運送業界は今、慢性的な人手不足のため、すべての会社が積荷に適した固定方法などをしっかり指導、教育しているかは難しいところかもしれません。運送事業者には、ドライバーに対する指導・監督が義務付けられていますが、その内容は運転についてが中心。経験のあるドライバーには、指導があいまいになることもあるでしょう」(日本ハイウェイセーフティ研究所・加藤紀明所長)
全国の高速道路だけでも毎年30万件超の落下物が発生している現実から、私たちドライバーは目を逸らしてはならない。落下物が原因で他車に損害を与えた場合は、落とした側に責任が生じることは当然だが、被害は人命に及ぶこともある。金銭の問題だけではなく、人命に関わる問題なのだ。
「今回の事故は、落下物への衝突だけをみれば、ドライバーの前方不注視や漫然運転、同乗者との会話に夢中になっての意識の脇見などが原因とも考えられます。高速道路では前をきちんと見て、速度に適した車間距離を確保することはもちろん、夜間のヘッドライトは上向きを基本にこまめに切り替え、速度を抑えること。『落下物有注意』の電光掲示を見た場合は、特に注意してください」(前出・栁澤副隊長)
また、加藤所長は、事故を未然に防ぐためには、落下物の危険がありそうな車には絶対に近付かないことも肝要だと忠告する。
「鋼材や木材、工作機械など重量のある積み荷がむき出しになっているトラックなどは特に要注意です。もし近くに寄ってしまったら、一気に追い抜いてしまうこと。目の前で積み荷が落下してきたら、どうすることもできませんから」(加藤所長)
落下物を発見したり、自らが積載物を落下させてしまったりした場合は、可能な限り速やかに、道路緊急ダイヤル(♯9910)へ連絡することも大切だ。
- ※走行中は、電光掲示板にも目を配ろう。落下物を発見したら道路緊急ダイヤルへ。ただし、運転中に携帯電話を手に持っての通話はNG。