視界を妨げる、フロントガラスの霜
※写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2022年2月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。
寒い朝に発生する、フロントガラスの霜。しっかり取り除かないと事故につながることも。過去の事故事例から、事故の予防法を探る。
霜で覆われた視界、見えなかった交通誘導員
4年前の2月上旬のある晴れた日の朝、栃木県那須塩原市内を横断する県道で、樹木の剪定作業が行われていた。北側に工業団地、南側に田畑が広がる中を東西に抜ける県道は、中央分離帯が設置された片側2車線道路。左側の車線には中型トラックが停車し、剪定した枝を集めていた。その後方には赤色のパイロンが置かれ、右斜め前方には、赤色の誘導棒を持った60歳代後半の女性交通誘導員。工業団地への出勤時間帯を過ぎていたこともあり、剪定作業は順調に進んでいた。
午前8時半過ぎ、中型トラックから数十m後方のT字路交差点に、1台の普通乗用車が差し掛かった。左側の車線を走る乗用車に向けて、右側の車線へ移るようにと、誘導棒を大きく横に振る交通誘導員。しかし、青信号を通過した車は、なぜかそのまま直進し続けた。
バコンッ!
パイロンを空中へはね飛ばす乗用車。その直後、右へと少し車首を向け、トラックの右脇をすり抜けるように通過した乗用車は、ブレーキをかけることなく、誘導棒を振っていた交通誘導員をはね上げた。フロントガラスに頭をぶつけた後、路上に投げ出されるように倒れ込む交通誘導員。事故は起きた。
栃木県那須塩原警察署の調べによれば、はねられた交通誘導員の女性は近くの病院に救急搬送されたが、脳挫傷によりまもなく死亡が確認された。見通しの良い直線道路で発生した事故。その原因は、居眠りでも脇見でもなく、フロントガラスに降りた霜を取り除かず、視界不良の状態のまま運転し続けるという危険極まりない運転による悲劇であった。
「ドライバーは近くに暮らす20歳代前半の女性でした。事故前夜は降雪があり、当日の朝は晴天でしたがかなりの冷え込みで、女性が出勤のため車に乗り込もうとしたところ、フロントガラスに霜が降りていたそうです。通常ならここで霜を取り除くわけですが、女性によれば、運転席の正面付近の霜が一部解けており、そこから少し前が見えたので、よく晴れていたし、走るうちに残りの霜は解けるだろうと思い、そのまま出発したということでした」(那須塩原警察署・永吉俊博交通総務課長)
当然ながら、これは勝手な思い込みだった。走り出すことで逆にフロントガラス表面の温度が下がり、霜は解けにくくなることもあるという。
「フロントガラスに降りた霜によって前方の一部しか見えない状態でしたが、女性にとっては走り慣れた通勤路であり、朝の通勤時間帯が終わった後で走行車両や歩行者は少なく、事故の危険や不安は感じていなかったようです。また、時速40㎞前後に速度を落とし、注意して走っていたと本人は言っています。しかし結果的には、パイロンの存在にまったく気づかずはね飛ばし、反射的に右にハンドルを切って偶然トラックとの衝突は回避するも、その先に立っていた交通誘導員をはねてしまったのです」(永吉課長)
ドライバーの女性は、車から降りて初めて、自らが招いた事故に気づいたそうだ。
「デフロスター(フロントガラスの曇りを解消する機能)でフロントガラスの下の方だけしか解氷できていない状態で、そこから覗くように前屈みで運転するドライバーをたまに見かけますが、絶対にやめていただきたい。視界不良での運転は飲酒運転と同様、繰り返すうちに自分は大丈夫だという根拠のない自信を生み、その結果事故を起こすのです。どんなに面倒でも視界をクリアにしてから出発してください」(永吉課長)
事前の準備や対策で霜による事故は防げる
2014年2月実施の『JAFユーザーテスト』では、解氷剤を使用した場合、1分ほどの短時間でフロントガラスの凍結を完全に解氷できた。一方、デフロスターを使用(内気循環で設定温度は最高温度)した場合、視界が確保できるまで10分ほどかかった。また、凍結防止対策の検証では、何の対策もしなかった場合、スクレーパー(へら)を使っても凍結は取り切れなかったが、フロントガラス全体にカバーをかけていた場合は、凍結は一切なかった。
「凍結防止の専用カバーは不要な毛布やバスタオル等でも代用できますし、解氷剤やスクレーパーは百円ショップ等でも買えます。朝の5分、10分や少々の出費を惜しんだ結果、何の罪もない他人の貴い命を奪っては元も子もありませんから」(栃木県警交通企画課・野澤健夫課長補佐)
事前にフロントガラスに撥水剤を塗布しておけば、スクレーパーで凍結部分を取り除きやすくなる
熱湯をかけるのは温度差でガラスが割れたり、解けた水が再凍結したりする危険性もあるので避けること