山岸朋央=文/乾 晋也=撮影

酔って路上で寝ている人との事故。「寝ているわけがない」という思い込みは危険!

酒に酔って路上に寝てしまっても、夏であれば夜風が気持ちいい時期だ。酒に酔って道路で寝入ってしまった人との事故が、特に夏に増えるという。「人が道路で寝ているわけがない」という思い込みなどから気づくのが遅れ、死亡事故に至ることも。事故を防ぐ方法を探った。

目次

※写真はイメージです。
「JAF Mate」誌2020年7月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。


「路上に寝ているはずがない」という思い込みが事故を招く

最近は自宅で飲酒をする機会が多くなったこともあり、酒に酔って気づいたら寝込んでしまっていた、という経験がある人は少なくないだろう。自宅であれば寝込んでも大きな問題にはなりにくいが、それが道路上となると話は変わってくる。夏場は特に、酒酔いによる〝路上寝込み〟が各地で散見されるのだ。

5月下旬の、最高気温が24℃を超えた日の夜、埼玉県北部を横断する県道を1台の軽自動車が西進していた。仕事帰りの40歳代後半の女性がハンドルを握る軽自動車は、走り慣れた通勤路を自宅に向けて走り続けた。

国道と並行して住宅地の中を抜ける県道は道幅が狭く、センターラインや歩道が設置されていない区間もある。朝夕の通勤通学の時間帯には、抜け道として利用する車も多いが、夜間に入るとその交通量は大きく減る。街灯の少ない夜道であっても、通い慣れたドライバーが不安や危険を感じることはほとんどなく、軽自動車はほぼ真っすぐな夜道を時速50㎞ほどの速度で走行していた。

ドンッ。

突然、ドライバーの身体に、車体が浮き上がるかのような衝撃が襲いかかった。驚き、慌てながら軽自動車を急停止させるドライバー。運転席から車外へと降り、恐る恐る後方へと歩き出したドライバーの両目に飛び込んできたものは、路上に横たわる人間の姿だった。

「えっ、人に乗り上げてしまったの……?」

埼玉県警の調べによれば、路上に横たわっていたのは、事故現場近くに住む80歳代前半の男性だった。酒に酔って路上で寝込んでしまった男性は、軽自動車にノーブレーキで乗り上げられて全身を強く打ち、搬送先の病院で死亡が確認された。

「最寄り駅の前にある居酒屋で、友人らと飲食を楽しんだ男性は、1㎞ほど離れた自宅へ歩いて帰る途中に、自宅近くのセンターラインのない幅6m弱の道路上で寝込んでしまったものと思われます。道路の左寄りに、頭を左にして車に背を向けるように横になっていた男性の存在に、軽自動車のドライバーはまったく気づくことなく轢いてしまったようです」(所轄署交通課)

男性の服装は灰色の上着に黒のズボンと認識しにくい色だったのに加え、軽自動車の前照灯はロービーム。さらに、「道路上に人が寝ているはずはない」という思い込みが重なった末の死亡事故だった。酔って路上で寝込む人も悪い、運が悪かったとドライバーに同情する人も少なくないかもしれない。しかし、人を死に至らしめてしまったことは否定しようのない事実であり、その罪の意識、心の傷は一生消えることがない。突然家族を失うことで、遺族に大きな喪失感を与えることにもなる。

路上に横たわって車などに轢かれる死亡事故の大半が、酒の飲み過ぎによるもの

急病や徘徊なども原因となるが、路上に横たわって車などに轢かれる死亡事故は、その大半が酒の飲み過ぎによるもの。駅周辺に大きな飲食店街が形成されている地域を中心に、全国で毎年百数十件発生しているという。

たとえ自宅で飲酒していたとしても、酔った状態でつまみや酒などを買い足すために外出し、そのまま路上で寝込んでしまうことも考えられる。飲酒後の路上寝込みそのものを減らすことは難しい。

死亡事故を誘発するおそれもある路上寝込み行為に対して、埼玉県では路上寝込み等交通事故防止のチラシなどを作成して『飲んだら寝るな!寝るなら飲むな!』と、酒の飲み過ぎへの注意を喚起。飲み過ぎたら家族の迎えを呼ぶか、タクシーで帰ることなどを呼びかけてきたという。

「路上寝込み者を発見したら、速やかに通報してもらう体制の強化にも取り組みました。タクシーやバスなどの交通事業者をはじめ、トラック、新聞配達、宅配便業者、デリバリー業者など、夜間から早朝にかけて街を走る事業者と、事故防止に関する協定を結ぶなどし、広く通報を働きかけています」(埼玉県警交通総務課・本多一美交通安全対策推進室長)

ハイビームの使用が事故防止に有効

埼玉県警が、2009年から13年に県内で発生した路上寝込み等交通死亡事故を分析したところ、5、7、8、9、12月に増加し、その多くは、水曜・金曜・土曜の22時から翌日の4時に発生していたという。また発生場所は市道の住宅街や、その周辺の直線路で多発しているという。必ずしも繁華街に近い道路で起こっているわけではない。

「夜道を走る際は、酔って寝ている人がいるかもしれないと常に注意し、速度は控えめにして、前照灯はハイビームを基本にしながら、前をよく見て運転してください。もし、寝込んでいる人を発見した場合はハザードランプを点け、後続車から守るために手前で停止し、速やかに110番通報。そして、警察官が到着するまで、可能な限りその場で待機をお願いします」(本多室長)

飲酒で火照った身体にアスファルトの冷たさが心地良く感じる夏場は、特に注意したい。ハイビームを積極的に使って走ることは、路上寝込み者に限らず、前方の危険をいち早く察知することにもつながる。

ハイビームの見え方

ハイビームを使うと、道路端に座り込む人が認識しやすくなる。

ロービームの見え方

ロービームではライトが当たらず、見落しにつながる。対向車や歩行者がいる場合には、眩惑を防ぐためロービームに切り替え、速度を落とすようにしよう。

ハイビームの必要性を検証した走行テストの映像はこちら

まとめ

路上寝込み事故は、住宅街やその周辺で発生しがち。ハイビームを活用しながら、見落としを防ごう

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