事故ファイル

バイクの大敵! マンホールのふたの危険とは?

2023.06.01

山岸朋央=文 / 乾 晋也=撮影

2023.06.01

山岸朋央=文 / 乾 晋也=撮影

※タイトル下の写真はイメージです。車種などは記事内容と関係ありません。
「JAF Mate」2018年6月号で掲載した「事故ファイル」の記事を再構成しています。役職・組織名などは当時のものです。

雨に濡れると滑りやすくなる、マンホールのふた。老朽化も、スリップの危険性を増やしている。


雨降りの日、マンホールのふたの上でスリップ事故が発生

雨に濡れた路面が、乾いた路面より滑りやすくなることを知らないドライバーやライダーなどはいないであろう。しかし、雨に濡れたアスファルト舗装やマンホールのふたなど、道路上には、車道や歩道等を問わず、濡れるといっそう滑りやすくなる危険が潜んでいる。

2017年6月下旬の雨降りの午後、北関東のとある繁華街を普通乗用車が走行していた。片側1車線の県道を走る車両は多いものの、まだ夕方の買い物前ということもあり、渋滞することなく順調に流れていた。

「この雨の中、ずいぶん飛ばすなあ……」

白色の乗用車の左脇を、車道外側線内へと進入して、一気にすり抜けて行った原付バイクに、呆れ顔の50歳代前半の男性ドライバー。原付バイクは乗用車を抜き去った後も速度を落とすことなく、乗用車との差をぐんぐん広げていく。数秒後、その後ろ姿を見ていた男性ドライバーの呆れ顔が、驚き顔へと一変した。

「えっ、何でいきなり転倒なんかするんだよ!」

事故は起きた。数十m先の道端に駐車中のワンボックス車の横を通過しようと、道路の左側を走っていた原付バイクのライダーが、右側に身体を少し傾ける。直後、いきなり前輪がスリップし、バイクは右側を下に転倒、ライダーは道路に投げ出された。

右ひじの打撲と擦過傷などの軽傷で済んだ20歳代後半の男性ライダーだったが、救護に駆け付けた男性ドライバーの「どうしたの?」という問いに対し、顔面蒼白で唇を震わせながら「マンホールで……」と何度も繰り返していたという。

バイクや自転車にとって、マンホールのふたは避けて通るべきもの

ドライバーは気が付かなかったが、原付バイクが突然スリップしたのは、下水道用マンホールの鋳鉄製ふたの上だった。元プロのオートバイレーサーでもある大阪国際大学人間科学部人間健康科学科の山口直範教授(交通心理学)は、ライダーにとってマンホールのふたとは、スリップしやすい危険物であり「基本的に避けるもの」だと説明する。

「雨の日だけということでなく、晴れの日でも、交差点での右左折時やコーナリングなどでは、マンホールのふたを踏まないように十分気を付けて走ることは、二輪車の基本です。最近はスリップ防止性能を備えたふたも増えつつあるようですが、従来のふたもまだまだ数多く残っており、事故を未然に防ぐためには踏まないに越したことはありません。なお、ライダーの体は直進中でも腰の向きなどが左右どちらかに寄っていることはあるし、ましてや追い越しやすり抜けなどをすれば、必ず荷重は傾きますので、その状態でふたを踏めば、右左折時などと同様にスリップします。車体を完全に垂直にして踏んだ場合は滑りにくいと思いますが、その際に加速したり、ブレーキをかけたりすればスリップします。これもライダーの基本ですが、目線を先へ先へと送り、常にマンホールの位置確認を怠らないことが肝要です。もちろん、制限速度を守ることは当然のことです」(山口教授)

滑りにくいマンホールのふたも開発されているが…

自転車も含めた二輪車にとって、その存在が危険となりうるマンホールのふた。一日も早いスリップ防止性能を持つマンホールふたの普及が求められるが、現実はその逆をいくような状況であることが2018年1月、明らかになった。

下水道用マンホールふたの設計基準の全国統一と安全な製品を普及させる目的で設立された、日本グラウンドマンホール工業会の推計によると、全国に設置されている約1500万個の下水道用マンホールふたのうち、国の定める標準耐用年数を過ぎて老朽化のおそれがあるものが、全体の2割に当たる約300万個に上るというのだ。

「標準耐用年数は車道で15年、歩道などで30年が交換のひとつの目安となりますが、現時点で設置から30年を超えたふたが300万個ほど残っていると思われます。ふたとタイヤの間に入り込んだ微細な砂塵等がやすりのような働きをして、表面が削られていくわけですが、摩耗の激しいふたは、溝のない鉄板のようになってしまうので、非常に危険です」(同工業会・大石直豪事務局長)

摩耗の進み具合は場所によってさまざまで、たとえば採石場の近くにあるマンホールふたは1年ほどで表面がツルツルになってしまう一方で、50年経過しても問題がないふたもある。つまり、30年は交換時期の目安でしかなく、耐用年数を超過したり、30年以下でも摩耗が激しかったりするものもあるなど、非常に危険なマンホールふたが各地に存在するというわけだ。

しかし、交換費用は1か所あたり20万円弱ともいわれ、管理者である各自治体にとって、国からの交付金等の減額と業者の人手不足などが重なり、交換を進めたくとも進められない、というのが現状のようだ。

4輪車でもスリップ事故は起こる。“急”のつく運転行為はしないこと

「2018年2月、下水道事業者による老朽化ふたの維持管理義務、当該義務違反者への措置命令権限を規定した『道路法等の一部を改正する法律案』が閣議決定されました。バイクや自転車にとって、スリップ転倒事故の危険がある老朽化ふたの交換が、今後はスムーズに進むことを期待しています」(大石事務局長)

マンホールの老朽化ふたによるスリップ事故を、二輪車だけでなく、四輪車のドライバーは他人事だと思ってはならない。雨で濡れた路面やマンホールふたが滑りやすいのは四輪車も同じ。速度超過はもとより、急ブレーキや急ハンドル、急加速などの危険な行為をすれば、スリップ事故につながることがあるのをお忘れなく。

  • 横断歩道の白い塗装も、雨に濡れると滑りやすくなる。交差点内にあるマンホールも同様に、スリップの原因になることがある。これらは、車が雨の日に速度を落として走行しなければならない理由のひとつでもある。
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