抜け道に使われる通学路。わずかな時間短縮に潜む危険
写真はイメージです。車種や撮影場所は記事内容と関係ありません。
過去の交通事故から、安全運転の方法を探る事故ファイル。今回は、歩道もなく、ガードレールで守られてもいない通学路の事故について解説する。通学時間帯にそのような道路を走る場合は、いつも以上に歩行者に注意を向けよう。
見通しのよい直線道路。下校中の児童の列に車が…
毎年のように登下校中の小学生(児童)が犠牲となる事故が全国各地で発生している。さらに、数年に一度のペースで、複数の児童を巻き込んだ重大事故も起きている。朝夕の登下校中の事故となれば、通学路がその現場となる。
小学校に入学したばかりの1年生から中学校への進学を控えた6年生までの児童たちが毎日のように利用する道が、安全でなければならないことを否定する者はいないであろう。しかし、実際に安全が確保されているか否かは、残念ながらまた別問題なのである。
2021年6月、千葉県内で数年に一度のペースで発生する悲劇が起きてしまった。
その重大事故が起きたのは、2021年6月28日午後3時半頃のこと。千葉県北部にある市内を横断する市道を東進していた一台のトラックが、道路左端を歩いていた下校途中の小学生の列に突っ込んでしまったのである。事故に巻き込まれたのは、男の子4人と女の子1人の児童5人で、うち2人が亡くなり、1人が意識不明の重体、2人が重傷を負った。
事故現場は、小学校から子供の足で30分ほど離れたところで、農地と住宅が混在するところを抜ける直線道路だった。センターラインの引かれていない幅7mほどの道には歩道がなく、路側帯も設置されていなかった。これだけ聞けば、交通量が少ない地域住民のための生活道路のようだが、この区間は通学路とは思えぬ危険な道だったのである。
事故現場となった市道は国道や県道の抜け道となっており、通学・通勤時間帯も含めた日中の交通量は多く、大型車両の通行も珍しくなかったという。今回の事故が起きた区間も、ドライバーの立場から見れば見通しが良く、センターラインがなくとも7m弱の道幅がある。さらに、速度規制はなく、法定速度の時速60㎞で走れるとなれば、先を急ぐドライバーが、抜け道として利用したくなる気持ちはわからなくもない。
一方、歩行者の立場から見れば、ガードレールも歩道も路側帯さえもなく、道の端を歩く児童らの脇を時速60㎞で車がビュンビュン走り抜ける道が、安全・安心なものであるわけもなく、大人でも歩くのが怖くなるような危険な道でしかない。
当然、我が子を小学校に通わせる保護者たちは、通学路にふさわしい安全な道にしてほしいと願い、10年以上前にガードレールなど安全施設の設置を市へ要望していたという。しかし、当時の市長らは、歩道やガードレールの設置には道路の拡張が必要となり、用地買収や建物移転が必須となるため、費用面から非常に困難と回答。結局、交差点の改修や信号機の設置が行われることとなった。
6年前にも、同じ小学校の児童が近くの国道を集団登校中にトラックに突っ込まれ、4人が負傷するという事故が発生。市教育委員会は、交通安全の指導を徹底し、通学路の危険な場所を洗い出し、注意を促してきたという。しかし、今回の事故現場付近は、見通しの良い直線道路だということで、危険箇所には含まれていなかったのだ。
今回の事故原因は、トラックを運転していた60歳代の男性ドライバーによる飲酒の果ての居眠り運転という言語道断の行為だった。事故に巻き込まれた5人の児童には、一つの違反も過失もなく、運が悪かったでは済まされない。ただ、もしガードレールのある歩道が設置されていたとしたら、突っ込んできた車がトラックだったとはいえ、死者を出すことは防げたかもしれない。
今回の事故を受け、全国で実施された通学路の緊急点検では、対策が必要とされる危険な通学路が約7万2000か所(2021年10月末現在)にも上ることが確認された。国は500億円もの予算を計上し、歩道やガードレールの整備等に力を入れるが、すべての通学路が速やかに安全・安心なものになるかは過去の例から考えても難しいだろう。
やはり、ドライバー自身が子供たちの命を守るべく、常に安全な運転を心掛けることが大切となる。
ドライバーの心掛けが、子供の命を守る
交通安全教育の権威である鈴木春男・千葉大学名誉教授(交通社会学)は、JAFが毎年行っている「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査」における停止率を100%に近付けることこそが、子供の命を守ること、ドライバーが加害者とならないことへとつながる大事なポイントの一つでもあると断言する。
「あの調査は、信号機のない横断歩道では横断しようとしている歩行者がいたら必ず止まること、歩行者を必ず優先しなければならないことを、すべてのドライバーに徹底させるためには、非常に役立つものだと思います。最近は警察も取り締まりを強化しているようですが、警察任せでなく、地域ごとに取り組むべきです。社会的な盛り上げを展開していけば、信号機のない横断歩道だけでなく、小学生を見かけたら注意をしようとドライバーも気を付けるようになると思うのです。社会全体として、通学路を守ろう、子供の命を守っていこう、我が町を安全な町にしようという気持ちが高まるような、市民を巻き込んだ施策を見つけることが重要です」(鈴木氏)
事故には至らずとも、ヒヤリとしたり、ハッとしたりした場所を地図に落とし込む「ヒヤリ地図」の発案者でもある鈴木氏は、児童や生徒自らが学校周辺のヒヤリ地図を作成することが交通安全につながっているように、ドライバー自身が参加するヒヤリ地図の作成なども施策として有効だと提案する。
「ドライバーに参加してもらうと、自らも運転したときに気を付けようという動機付けとなります。一時停止状況調査の調査員になってもらって、きちんと止まっているかどうかを調査してもらう。つまり、ドライバーを受け身にするのではなく、主体となって調査を行うことで、自らも注意しよう、きちんと止まろうという動機付けにつながりますから」(鈴木氏)
飲酒運転は問題外だが、自分のふとしたミスが子供の未来を奪いかねないことをドライバーは肝に銘じてほしい。スクールゾーンやゾーン30の標識、路面標示等があるところはもちろん、住宅街の狭い道や歩道もガードレールもない道などで、子供の姿を見かけたら、ドライバーはすぐに、事故の際に歩行者の致死率が減少するといわれている時速30㎞以下に減速し、いつでも停止できるような運転を身に付けたい。
また、路上駐車した車の陰から子供が飛び出して起きる事故も少なくないという。少なくとも登下校時間帯の路上駐車は、禁止されていない場所でも厳に慎むべきだ。
「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査」
●冊子『JAF Mate』春号(2022年4月発行)では、通学路の安全に関する特集を掲載します。
通学路を示す標識。この標識を見かけたら、通学時間帯に子供が多く通行するということを念頭に置き、安全な速度で通行することが大切だ。
公共施設など高齢者や子供が利用する施設のある区域などには、「ゾーン30」が設定されることがある。ゾーン30は、区域内の速度抑制や、抜け道としての利用を抑制するのが目的。
信号機のない横断歩道で横断する歩行者を見かけたら、車は一時停止するなどして通行を妨げないこと。そのような運転行動が、安全運転につながる。