懐かしの「昭和カルチャー探検隊」

マニアが教える! 絶滅する前に行きたい 全国“昭和ドライブイン”8選

昭和ドライブイン【前編】

2022.10.06

取材・文=寺田剛治/撮影=越野弘之(ドライブイン)、田口陽介(人物)

2022.10.06

取材・文=寺田剛治/撮影=越野弘之(ドライブイン)、田口陽介(人物)

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1年点検を受けると、だれにでもチャンス

令和のいま、ドライブ中の休憩や食事で立ち寄るとすれば、ファミレスやコンビニ、道の駅を選ぶ人がほとんどだろう。しかし、思い出してほしい。昭和の時代、まだそうしたお店は少数派だった。当時、私たちの運転疲れを癒やしてくれていたのは、ドライブインではなかっただろうか。近年、そんなドライブインが、時代の変化についていけず、次々と閉店に追いやられているという。

「いまや残存するドライブインの数は、全国で200店舗ほどにまで減少しています。もはや、絶滅寸前といっても過言ではありません」。そう話すのは、ドライブインの魅力をYouTubeで発信する越野弘之さん。

そこで、今なお営業を続けているドライブインの中から、マニア目線で“特別な店舗”を厳選してもらった。行楽の秋に出かけた際には、ぜひここで紹介するドライブインでひと休みしてもらいたい。きっと、その場所でしか味わえない特別な体験に出会えるはずだから。

ビデオカメラを構える越野さん。

YouTubeでドライブインの魅力を伝えている越野さん。

こしの・ひろゆき 
昭和49(1974)年生まれ。ミュージシャンでいて、 昭和マニアのYouTuber。鉄道好きが高じて全国を旅するうちに、昭和の街並みに心惹(ひ)かれるように。そんななかでドライブインやレトロ自販機のおもしろさに気が付き、深く掘り下げるようになる。絶滅の危機に瀕(ひん)する現状と、その魅力を伝えるべく、多数のテレビやラジオ番組に出演。著書に『懐かしの昭和ドライブイン』(グラフィック社)、『昭和レトロ自販機大百科』『昭和レトロ自販機マニアックス』(ともに洋泉社)がある。

消えるドライブイン、生き残るドライブイン。 その分かれ道とは?

越野弘之(以下、越野):国道沿いに、閉店したドライブインが点在しているエリアを調べたことがあるのですが、どこも過去10年くらいで国道に並行する高速道路が開通していたのです。それまで国道を利用していたドライバーは高速道路を使う機会が増えるので、当然、国道の交通量が減る。それだけでなく、サービスエリアやパーキングエリアもできるので、ドライブインへの客足が遠のき、閉店の憂き目に遭ったのです。

高速道路と一般道がクロスする場所。

高速道路など、交通インフラの整備が進んだ影響を受けて、ドライブインは減少していった。

越野:そんな厳しい状況の中でも、営業を続けている店があります。消えるドライブインと生き残るドライブインの分かれ道は「立地」なのです。都市と都市の中間地点、峠道などの交通難所の前後、海水浴場などがある海岸線の観光道路、工場や倉庫地帯周辺の産業道路沿いなど。そのどれもが、外食チェーン店が新規出店するほど“商売的なうまみ”はないが、飲食店がなくては困る場所なのです。「そこそこ交通量がある」、「立地が悪くてもライバルがいない」、そんな絶妙な立地条件が、今生き残っているドライブインを守ったのです。

越野さんが配信するYouTubeチャンネル『昭和スポット研究所』のサムネール。

ドライブインの減少を憂う人は多い。そんな今だからこそ、越野さんのYouTube『昭和スポット研究所』が人気だ。

越野:ですが、「立地」だけがすべてではありません。やはり「味」なのです。これまで全国のドライブインを回ってきましたが、歴史あるドライブインの食事がハズレだったことはほぼありません。そのどれもに名物メニューがあったり、なかにはトラックドライバーをも満足させる「デカ盛り」を売りにしていたりするので、常連客がつくんですよ。しかもチェーン店とは異なり、その店でしか食べられない味、店の雰囲気がある。

そして何より、店主とのちょっとした会話があって、また来たくなる、この場所に帰りたくなること。いま生き残っているドライブインは、なんだかんだ人情によって支えられているんだと思いますよ。そんな“特別な店”を、JAF Mate読者のみなさんに教えます! どんどん足を運んで、絶滅の危機に瀕するドライブインをサポートしましょう。

【北海道・白老町】
廃虚のような店でワンコイン「かにめし」&オーシャンビュー
かに太郎

海沿いに建つかに太郎の店舗。

海沿いに建つ店舗。12角形の外観が目を引く。

まずは、一見すると“廃虚”のような、入るには少し勇気がいるドライブインを紹介しよう。

越野:廃虚のように見える理由は、店の内外を問わず、間違いなく廃棄物と思われる木片が散らばっているからです。僕がYouTubeでこの店を紹介したとき、前を通る国道36号・室蘭街道をよく利用するドライバーさんから、「え、この店って営業していたの?」というコメントもあったくらいです(笑)。齢(よわい)80半ばを過ぎた店主に聞くと「片付けられないんだぁ〜。自分ではどうしようもねぇ〜」と、笑って話していましたけど。

店中央に配置されているキッチン。

12角形の店の中央にキッチンが配置されている。

キッチンの周囲に配された小上がり。

キッチンの周囲に配された小上がり

海側の席から見られるオーシャンビュー。

海側の席に陣取れば、オーシャンビューも楽しめる。

ユニークな12角形の建物も特徴のひとつ。こうした少し変わったデザインの建物は、昭和の頃に地方でよく見かけたものだが、今では希少な存在だ。

越野:店の中央に厨房(ちゅうぼう)、その周囲を取り囲むように小上がりが配置されているのですが、海沿いにあるため店内はオーシャンビューで、最高のロケーションなんですよ。店主も「病院に行くより、ここに来て海を見ているほうが、気分が晴れて元気になるよ。たとえ、お客さんが一人も来なかったとしても」なんておっしゃっていました。

黒板に記されるメニュー。

黒板には「かにめし」以外のメニューも記されているが……。

「かにめし」には紅しょうが、錦糸卵がトッピングされている。

実はこの 「かにめし」しか食べられないのがみそ。かにだけに?

この店の名物は……というと「かにめし」一択だという。

越野:黒板にメニューがたくさん書かれているのですが、頼めるのは「かにめし」だけなんです。驚くのはそのお値段で、なんとワンコイン500円(価格は変更される場合があります)。 店内のシュールさも手伝って、「それなりかな?」 と思いきや、ごはんが隠れるほどカニのフレークとタケノコの煮物が盛られているんです。その上に紅しょうがと錦糸卵をトッピング。優しい味付けのカニとタケノコが絡み合って、ごはんがどんどん進む感じ。さっぱりとした紅しょうがもアクセントになっていて、自然と笑顔になっちゃいます。

開店から閉店まで店主一人で切り盛りし、長い間守り続けてきた「かに太郎」。できるかぎり営業を続けてもらいたいと、心から願わずにはいられないドライブインだ。

【秋田県・仙北市】
走る秋田新幹線を見ながら、崖っぷち de おでん!!
仙岩峠の茶屋

仙岩トンネルを抜けた先にある「仙岩峠の茶屋」。

仙岩トンネルを抜けると、そこに「おでん」の看板があった。

続いては、切り立った崖の上に建つドライブイン「仙岩峠の茶屋」。昭和41(1966)年、冬期通行止めが多かった国道46号の旧道沿いに創業。が、トンネルの開通や架橋により、通年で通行できる高規格道路になったのを機に、昭和56(1981)年に現在の場所に移転した。そんな創業から50年超の老舗が誇る名物は、「おでん」と「山菜そば」だと越野さん。

天井から赤提灯がぶら下がる店内。

天井から赤ちょうちんがぶら下がる店内。食券を買って、席で待つシステムだ。

越野:トンネルを抜けると、まず目に入ってくるのが「おでん・山菜そば」の文字がデカデカと書かれた看板です。おなかが空(す)いていなくても、クルマを停(と)めたくなる引力があるんですよね。とくに、創業時からの味を守り続けているという「おでん」(600円、価格は変更される場合があります)は、東北らしい濃く、甘めな味付けが特徴で、大根、ちくわ、昆布、さつま揚げ、こんにゃく、玉子が一皿に盛られています。ちくわは、やばいくらい長い! 大根も出汁(だし)が染みしみで、普段おでんの大根は食べない僕でも、ペロリと食べちゃいました。

ごはんとみそ汁、いぶりがっこんなどがつく「おでん定食」

950円の「おでん定食」にすれば、秋田名物のいぶりがっこ! も付く。

このドライブインに人が惹きつけられるのは、料理だけではない。その眺望にも理由があるのだという。

切り立った崖の上に建つ店舗。

駐車場側から見ると、切り立った崖の上に建っているのがわかる。

パノラマの景色を楽しめる展望席。

空いていたら、即座に確保したい展望席。

越野:道路側から見るとわかりにくいのですが、切り立った崖の上に建っているんですよ。展望席もあって、そこから四季折々の山あいの景色を楽しめます。これからの季節なら、紅葉が見られるんじゃないでしょうか。もうひとつポイントがあって、なんと、そこから秋田新幹線が走る姿も楽しめるのです。鉄道マニアでもある僕には、たまらないスポットなんですよね。

山あいを走り抜ける秋田新幹線。

越野さんが展望席から撮影した、山あいを走り抜ける秋田新幹線。

新幹線が店の前を通過する、おおよその時間を記した時刻表を展示。

新幹線が店の前を通過する、おおよその時間を記した時刻表を掲示。

「おでん」とトレインビューが人気の「仙岩峠の茶屋」だが、一時は休業していたそう。

越野:平成28(2016)年、店主が病気療養の末に、鬼籍に入られてしまったのです。そのまま閉店となってしまいそうだったのですが、役員と店員が再集結し、再オープンを果たしたのです。まさに崖っぷちからの復活! といったところでしょうか。ドライブインは店主の高齢化により、いずれは消失してまう可能性が高いのですが、後継者が現れることで存続できるんです。ここは、その好例といえるでしょう。

【長野県・塩尻市】
完璧な“昭和”! その渋さは「国宝級」
食堂S.S

「食堂S.S」外観。

すでに外観から昭和臭がムンムン漂う。

数々のドライブインを見て回ってきた越野さんが、「もはや、国宝級!」と大絶賛するのが、「食堂S.S」だ。

越野:僕が勝手に「国宝級」と言っているだけなんだけど(笑)、誰もが持つドライブインのイメージを、そのまま具現化したような店なんです。店内に、色がくすんだパイプ椅子や哀愁さえも感じさせるテーブルが並ぶ様は、レストランというよりは、大衆食堂といった雰囲気。開業当時から少しも変わっていないのでは!? と思えるほど、完璧な昭和です(笑)。

壁にずらりと記されるメニュー。

壁にずらりと記されたメニュー。何を選べばいいか、戸惑うこと間違いなし。

昭和感がにじみまくっている店内。

昭和感が滲(にじ)みまくっている店内。永久保存できないのだろうか?

“らしさ”は看板からも。店名の「食堂S.S」の上にうっすらとだが、 “安くてうまい 食事のデパート”というキャッチコピーが見てとれる。令和の今、一周回って新しくさえ感じるワードセンスだ。

越野:その看板に偽りなし。主な客層であるトラックドライバーを飽きさせないよう、定食、ラーメン、うどん、そば、焼きそば、丼物、チャーハン、カレー……何でもござれ! 店主に聞くと、なかでも人気なのは、食堂のお母さん方が毎日つくる「さばの煮つけ」。一切れでご飯1杯は軽くいけるとか。

厚切りされた豚肉が食欲を駆り立てるしょうが焼肉。

厚切りされた豚肉が食欲を駆り立てる「しょうが焼き肉」(610円、価格は変更される場合があります)。何十年も変わっていないんだろうと想像がつく味!

皿にこんもりと載った天ぷら。

「天ぷら盛り合わせ」は700円(価格は変更される場合があります)。揚げたてだから、サクサク!

ここまで渋いドライブインには、なかなか巡りあえないーーというほど大絶賛の「食堂S.S」だが、時代によって様変わりする交通事情との奇跡的なバランスが生まれたから、生き残ることができたのでは? と越野さんは分析する。

越野:地図を見てもらうとわかるのですが、長野自動車道、中央自動車道、どちらの高速道路からも影響を受けにくい、国道19号沿いに店があるんです。中津川から塩尻に抜けるには便利な国道なので、決して交通量は少なくない。だからといって、多くもない。大手の外食チェーンが目をつけるほどでもない数のお客さんを確保できたから残っていると思うんです。この店を俯瞰(ふかん)すると、“ドライブインの今”が見えてきますよ。

【岐阜県・坂祝町】
ホルモンを焼いて出た煙で、いい感じに経年変化!
五代目食堂

県道にポツンと建つ店舗。

周囲の店はすべて廃虚! ポツンと県道に一軒家状態に。

次に紹介する「五代目食堂」も、変わりゆく交通事情の影響を受けたドライブインだ。

越野:県道207号沿いにある店なのですが、実はこの県道は元国道21号だったのです。平成21(2009)年、国道21号坂祝バイパスが開通したことで、平成30(2018)年、県道に格下げに。交通量が減ったこともあり、たくさんあったドライブインの中で、今では「五代目食堂」だけがポツンと残り、それ以外の店はすべて廃虚となっています。

厳しい環境の中で、このドライブインが生き残っているのは、やはり食事の安さ、うまさにある。

年季の入った鉄板で豚ホルモンともやしがいためられている。

豚ホルモンをこんもりと盛ったもやしとともに、鉄板でいためる「トンちゃん焼き」

越野:実際に行ってもらうと実感できると思うのですが、安くてボリュームがあるんですよ。豚ホルモンを鉄板でジュージュー焼く人気メニュー「トンちゃん焼き」は550円! ごはん(大220円、中200円、小170円)をつけても700円台で抑えられるのでコスパがいいですよね。

その「トンちゃん焼き」で立ち上る煙が、店内の昭和感をアップさせてもいる。

映画のセットのような昭和感を醸す店内。

映画のセットのような昭和感を醸す店内

越野:煙が店内に立ち込めるから、それによって壁や天井がいい感じであめ色に経年変化しているんですよ。使い込んだテーブルや椅子、よくいえばセピア色の壁と相まって、何もかもが昭和! という感じ。映画の舞台セットを超える完成度です。ちなみに「五代目食堂」という店名ですが、先代の店主が家系図を調べたら、五代目だったから、そうつけたのだとか。でも、今お店を切り盛りしている女性店主は、二代目なんだそうですよ(笑)。

【兵庫県・香美町】
純喫茶と大衆食堂が見事にフュージョン!
ドライブイン春来

洋風の店舗に、デカデカと「春来」の看板がつく。

創業時はおしゃれの最先端だったに違いない洋風の店舗。


次は、喫茶店を想起させる洋風の外観が目を引くドライブイン。

越野:建物は洋風なのに、なぜか店名の「春来」が中華料理店でよく見られるような行書体で書かれているんですよ。だからなのか、JAF Mateのライターさんから、「“ちゅんらい”ですか?」と聞かれました(笑)。そうではなく、近くにある春来峠が店名の由来なので、“はるき”と読みます。

店内は、白いテーブル、革張りのソファー、天井からはオレンジ色のシェードがかわいいペンダントライトがぶら下がる、昭和レトロなインテリア。観葉植物も多く配置されており、一見すると喫茶店のようだが、よく見ると少し、いや、かなり違う。

喫茶店のような雰囲気の店内

喫茶店のような雰囲気の店内。テーブル席のほか、小上がりもある。

演歌歌手のポスターが貼られた店内の壁。

演歌歌手のポスター。右は、日本クラウン所属の水沢明美さんのもの。

越野:演歌歌手のポスターが何枚も貼られているんですよ。しかも、『春がきっと来る』など、春来峠をテーマにした演歌が中心。店主のモーレツな地元愛を感じます。

食事も、喫茶店のそれとは異なる。トースト&ハムエッグのモーニングセットもあるが、おなかを空(す)かせたドライバーを満足させるような定食、うどん、ラーメンも用意。大衆食堂と喫茶店を融合させたようなメニューなのだ。

ミックスフライと目玉焼きがメインの「春来定食」

ミックスフライと目玉焼きがメインの「春来定食」。

越野:数あるメニューの中から、僕は人気の「春来定食」(950円、価格は変更される場合があります)を頼んだのですが、なんと、ごはんを盛った丼のふたの上に、漬物が載っていたんです。なんでも、お盆が小さすぎて、載せるスペースがなかったからこのスタイルになったとか。サービス精神、ここにあり! という感じでうれしいですね。

昭和51(1976)年の創業当時はおしゃれの最前線を走っていたはずの「ドライブイン春来」。今では子どもが描いた絵を飾るなど、約50年の時を経てほのぼのとした空間の店に。春を待たずして、何度も来たくなるドライブインだ。

【山口県・山口市】
つくりものとは格が違う! “リアル昭和”のテーマパーク
長沢ガーデン

巨大なPとレストラン、喫茶を表すピクトグラムの看板

巨大なPとレストラン、喫茶を表すピクトグラムの看板が目印。

ここまで食事をメインとした施設ばかりを紹介してきたが、この「長沢ガーデン」は、レストランはもちろん、レトロ自販機、温泉、さらには宿泊施設まで備えた日本最大級のドライブインだ。

越野:国道2号沿いに、昭和42(1967)年に創業したのですが、創業当時のものをきれいに維持しています。もちろん改装は何度もしているのですが、当時の雰囲気を壊さないよう配慮。だから、見た目はもちろん、空気感までもが昭和50年代なのです。近年の昭和ブームに乗って“つくられた”テーマパークとは、格が違いますね。

赤いじゅうたんの上に整然とスリッパが並ぶ。

いかにも昭和な赤いじゅうたんとビニール製のスリッパで出迎えるエントランス。

ラウンジに鎮座する革張りのソファー。

ラウンジに鎮座する革張りのソファーも渋さをアップ!

温泉をなみなみと張った大浴場。

温泉も併設。日帰り入浴は大人400円、小人160円。

昭和の雰囲気を残そうとした努力が受け、今では県内外からの観光客も多く訪れるという。

越野:一番人気は、うどんとそばのレトロ自販機なのですが、レストランにも行ってほしい。ここは長沢池を眺めながら食事ができるのもポイントなのですが、ショーウィンドーにずらりと並んだ食品サンプルの中からメニューを選べるのがいい! 今では、プリントしたメニューが当たり前なので、懐かしく感じるはずですよ。

レトロ自動販売機とうどんの写真

うどんとそばが食べられるレトロ自動販売機が2台稼働。全メニュー350円(価格は変更される場合があります)。

ショーウィンドーに並ぶ食品サンプルの写真

ショーウィンドーに並ぶ食品サンプルも、今では懐かしい風景に。

緑色のソファーベンチ

長沢池を眺めながら食事を楽しめるレストラン。緑色のソファーベンチがレトロな雰囲気を演出する。

宿泊施設も魅力的だ。客室はともかく、面白いのは、本館と別館をつなぐ迷路のような通路だ、と越野さんはいう。

8畳ほどの和室。

写真は別館の客室。素泊まりは1人3,500円(価格は変更される場合があります)から利用できる。

薄暗いバックヤードを貫く通路。

本館と別館をつなぐ通路は、バックヤードを突き進む。

越野:厨房とか布団部屋などのバックヤードを縫って歩くような通路なんです。今時の宿は、そんなところは決して見せません。そんな昭和らしい“ゆるさ”を再び味わおうと、今ではシニアの利用者も多いそうです。ぜひ、一度ならず、何度も訪れてほしいですね。

【香川県・さぬき市】
何も改装しなかったら時代が一周してオシャレに!
大川オアシス

海辺に建つ大川オアシス。

海辺を守る要塞(ようさい)のような外観が目を引く。

今、SNSで“映えるスポット”として人気を博しているのが、「新さぬき百景」に指定されている青木海岸そばにあるドライブイン「大川オアシス」だ。

越野:館内の「青木海岸展望レストラン」が、レトロポップだ! と話題になったのです。半円状の展望席から見えるのは、穏やかな瀬戸内海の景色。天気が良ければ、小豆島や淡路島も確認できるのですが、話題になったのは、創業当時から変わらないインテリアです。

マリンブルーを基調にしたカウンター

潜水艦? を思わせるようなカウンターのデザインも面白い。

マリンブルーを基調にしたカウンター、空と海のブルーを大口径で切り取るアーチ状の窓辺に並ぶボックス席、鎖でつながれた時代を感じさせる球状のペンダントライトが相まって、「レトロポップだ!」とバズったのだ。

展望席から見える瀬戸内海ビュー。

アーチを描く窓の向こうには、穏やかな瀬戸内海が見える。

越野:女性に人気のパフェやスムージー、そして昭和レトロメニューの代表ともいえるクリームソーダなどの喫茶メニューが充実しています。が、そもそもはドライブインなので、おなかを空かせたドライバーのために、うどん、丼もの、唐揚げ、トンカツ、刺身定食などの食堂メニューもしっかりそろえています。

「オアシス御前」には、フライとお造りが付く

人気の「オアシス御膳」(1,300円、価格は変更される場合があります)には、フライとおつくりが付く。

実はこのドライブインの運営は、地元に根ざす大川バスの関連会社が運営。越野さんが訪れた頃は地元の常連客が中心だったというが、SNSでバズってからは県内外からドライバーが押し寄せるため、スタッフも驚いているそう。でも確かにこの美しい眺望は、“オアシス”そのもの。たとえ遠くても、行きたくなるのもうなずける。

【沖縄県・恩納村(おんなそん)】
60'sアメリカンレトロの魅力満載の“ダイナー”
シーサイドドライブイン

ネオンがともると、アメリカのドライブインのよう。

ネオンがともると、アメリカのドライブインのような雰囲気に。

最後に紹介するのは、アメリカのドライブインを彷彿(ほうふつ)とさせるネオンの明かりが美しい、沖縄の「シーサイドドライブイン」だ。創業は昭和42(1967)年だが、当時まだ沖縄の施政権はアメリカにあり、日本に返還されていない時代。米軍基地に出入りしていた創業者が、基地内のレストランを見てそのスタイルを気に入り、地元の恩納村にオープンしたという歴史がある。

ギンガムチェックのテーブルクロスを引いた客席。

ギンガムチェックのテーブルクロスが、ダイナー感をアップ!

店内に展示されているミニカー。

ミニカーをはじめとしたホビーアイテムをディスプレイしている。

越野:これまで紹介してきたようなドライブインの昭和レトロとは異なり、むしろアメリカンレトロといった風情です。食堂も“ダイナー”というほうがしっくりきます。そこに懐かしい映画のポスターやミニカー、バイクが展示してあり、さらにジュークボックスも現役で稼働! まさに「Welcome to the 60's!!」 といった感じなのです。

ダイナーの魅力はインテリアだけではない。建物のすぐ裏手にビーチが広がっており、食事をしながらオーシャンビューを楽しめるのだ。

恩納村の海辺に店を構える

沖縄屈指のリゾート地、恩納村の海辺に店を構える。

窓際から見えるオーシャンビュー

窓際に席を取れば、オーシャンビューを楽しめる。

越野:メニューは洋食・和食・中華のほか、サンドイッチやハンバーガーなど、約50種類。面白いのはドライブインとしては珍しく、8〜11時限定でモーニングメニューも用意していること。写真の「ベーコンオムレツ」(950円)を見てください。まるでホテルで食べる朝食のようでしょう!?

オムレツの中にたっぷりとベーコン。

オムレツの中にたっぷりとベーコンが入っている。

モーニングメニューのトーストについてくる「スープ」。

モーニングメニューには、トーストと写真の「スープ」が付いてくる。

もうひとつ、同店を訪れた際にオーダーしてほしいのが、創業当時から変わらぬ味を守り続けている「スープ」(250円、価格は変更される場合があります)。地元ではこれだけを目的に、クルマを走らせる人もいるという。ドライブインが発祥となった、恩納村のソウルフード的なメニューなのだ。


地元に深く根を下ろしたドライブインは、インテリアにも、食事にも、店主の思いが色濃く反映されている。だからソウルフードと称されるほどの名物も生まれるのだ。そんなドライブインが、全国的に経営者の高齢化、建物の老朽化、後継者不足で、絶滅の危機に瀕(ひん)している。行き慣れた全国チェーンのレストランや地元の食材や土産物であふれる道の駅で休憩をとるだけでなく、ぜひそんなドライブインでひと休みしてほしい。あふれんばかりのホスピタリティーから、郷愁だけでなく、これから先の未来に遺(のこ)すべき、特別な何かを感じられるはずだ。

後編では、越野弘之さんと一緒に、 “御三家”といわれるレトロ自動販売機がそろう聖地「ドライブイン七輿」を探訪しています。ぜひご覧ください!

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