世界的な観光スポット! 渋谷は、スクランブル交差点の聖地だった
今回のテーマは「スクランブル交差点」。 先日、銀座・数寄屋橋(すきやばし)交差点に面したお店で食事をとろうと若い店員に「スクランブル交差点の見える窓側の席は空いてますか?」と尋ねたところ、「お客さん、ここは渋谷ではなく銀座ですよ」とほほ笑みながら一蹴され別の席へ……。ちなみに数寄屋橋交差点も東京を代表するスクランブル式の大きな交差点だと思うのですが、その時応対してくれた店員にとっては「スクランブル交差点=渋谷スクランブル交差点」だったようです。 思わぬところで、改めて渋谷の存在感の大きさを知ることになりました。ちなみに、件(くだん)の交差点は若者だけではなく、今や訪日外国人にとっても観光地として有名な存在だそうです。 「日本と世界の道の雑学」では道路にスポットを当てたお話をお届けします。これまで何げなく利用してきた道路にちょっぴり興味を持っていただければ嬉しいです。
そもそも「スクランブル交差点」ってなに?
スクランブル式の銀座・数寄屋橋交差点。
一般的な交差点では、信号によって交差する2本の道路が交互に通行可能になるよう制御されています。この場合、おおむね人と車は同じ流れで通行します。右左折の車と横断中の歩行者が交差することとなりますので、歩行者優先とはいえ事故の危険をはらんだ場所とも言えるでしょう。
そんな危険を回避するために交差点内へのすべての車の進入をいったん止め、歩行者の横断専用の時間を確保するのが「歩車分離式信号」です。その中でも歩行者が交差する道路の対角線側へ渡れる、つまり斜め横断も可能としたものを「スクランブル方式」といい、その方式を採用した交差点が一般的にスクランブル交差点と呼ばれています。
渋谷スクランブル交差点を眺めてみると…
巨大なスクランブル式の渋谷駅前交差点はかなり変則的な形をした五差路。中央のストライプはたすきのように1本だけでX形には交差していません。
さて、もはや世界的な観光名所としても有名な渋谷スクランブル交差点ですが、正式名称は渋谷駅前交差点です。地図で見るとかなりいびつな五差路ですが、とにかく交差点内が広い。渋谷駅と繁華街を結ぶ交差点だけに渡る人の数も多く、ピーク時には1日50万人もの人が通行するとも言われていますが決して大げさな数字ではなさそうです。
圧倒的な歩行者の数と、横断中に記念写真を撮る人、横断中の人を周りから撮る人の多さは確かに観光スポットとして十分な雰囲気があります。サッカーW杯での日本代表の勝利やハロウィーンのたびに盛り上がってきたこの巨大交差点ですが、2023年のハロウィーン前に「ここはイベント会場ではないから来ないで」と渋谷区が呼びかけたことも話題になりました。盛り上がりたい人も、盛り上がってほしくない人もいて何かと話題には事欠かない交差点です。
地上から見た渋谷スクランブル交差点。
正式名称はスクランブル式の「渋谷駅前交差点」
渋谷スクランブル交差点の隣は、どんな交差点?
渋谷スクランブル交差点から公園通り方面へ北に向かって歩いていくと、次の交差点(井ノ頭通り入口)もスクランブル式。こちらはストライプがクロスしたタイプ。
実は渋谷のシンボル的存在のSHIBUYA109方面に歩いていくと、次の交差点(道玄坂下交差点)もスクランブル式、公園通り方面に進んだ先にある井ノ頭通り入口交差点も、その次の交差点(神南一丁目)も、そこから公園通りをおよそ200mほど進んだ先にある勤労福祉会館前交差点もスクランブル式。このあたり一帯はスクランブル交差点天国なんです。その中心にいるボスキャラ的巨大交差点が「渋谷スクランブル交差点」だったのです。
ちなみに新宿駅も東口のアルタ前(年配の人には結構有名)から新宿通り沿いに4連続でスクランブル式の交差点が続いていますが、「スクランブル交差点=新宿」という話は耳にしません。冒頭で紹介した飲食店の店員のイメージは案外当を得ていたのかもしれません。
渋谷・公園通りの神南一丁目交差点のストライプはなかなか個性的。
スクランブル式の交差点は1960年代末に熊本県で初めて採用されたそうです。50年代末に登場した歩道橋は、道路の主役が車で、歩行者は車を避けるように歩道橋で道を渡りますが、スクランブル交差点はすべての車を止め、一時的に人が道路を占有するスタイル。渋谷、銀座、新宿のような東京屈指の繁華街はもとより、人と車が同じ道を共用しながら歩行者に階段の上り下りを強いないスクランブル交差点は、安全のためには必要不可欠なシステムと言えるでしょう。
高橋 学
たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。