全国に2つ以上あるって知ってました!? 東京、大阪、そして…。全国に散らばる「日本橋」列伝
道路にまつわる雑学をお届けするこのコーナー。今回のテーマは「橋」です。河川や水路、海などを渡る橋は道路にとって必要不可欠なものであり、その大半にはきちんと名前がつけられています。今回は漢字で書くと全く同じなのに読みが異なるという、日本語特有の難しさを感じる名前の橋を紹介します。
東京の日本橋は、二本(にほん)の丸太が起源で「にほんばし」?
日本の道路の起終点ともいえる日本橋。日本国道路元標も設置されている。
その橋の名は我が国の国名を冠した「日本橋」です。東京都、大阪府にある日本橋は、どれも「ばし」と読みます。問題は国名(=国号)でもある「日本」の読み方。東京と大阪の『日本橋』は知られていますが、それ以外にも日本橋は存在するのです。
1603年(慶長8年)に完成した東京都中央区の日本橋ですが、それ以前に2本の丸太がかかっていたから「にほんばし」となったという説があるそう。ただし諸説あり、実は正確な由来はわかっていません。
木造だったかつての日本橋は度重なる火事で何度も消失し、1911年(明治44年)に完成した現在の橋はルネサンス様式の石造二連アーチ橋で、なんと20代目だそうです。この美しい石橋は100年以上も使われていますので、関東大震災による火災の跡や第二次世界大戦時に受けた焼夷弾による傷跡など東京の歴史が確認できます。
上に跨ぐように交差する首都高速道路都心環状線は、1960年代の日本の高度成長期を象徴するような存在。首都高速は地下化のプロジェクトが立ち上がり、将来的にこの景色は見納めとなりますが、2つの時代が交差する風景は、まさに「日本」という名を名乗るにふさわしい雰囲気です。それだけに2本の丸太説はちょっと意外な感じがします。
ちなみに橋名板のひらがな表記は濁点のない「にほんはし」。でも橋の名前は「にほんばし」です。
日本橋の上を首都高速道路都心環状線が跨ぐ。景観より利便性を優先させた建設当時の交通事情がうかがえる。
道頓堀川にかかる大阪の日本橋は、お札と同じ「にっぽんばし」
大阪市の日本橋は、繁華街の真ん中に位置する。
日本銀行券=お札に書かれている表記はNIPPON GINKO。紙幣やNHKが放送時に国の名称として使っている「にっぽん」。大阪の日本橋はそういう公的な表記を踏襲しているかと思えば、日本政府は「にほんせいふ」と読むそうですからややこしい。いずれにしても大阪にあるのは「にっぽんばし」です。
大阪の日本橋は距離が短く、6車線もの幅を持つ一方通行。
道頓堀川にかかるこの橋は大阪の繁華街ミナミにあり、近隣には有名なグリコの看板や阪神タイガースが優勝するたびに多くのファンが集結する戎橋(えびすばし)があります。 2023年のリーグ優勝でも大いに盛り上がり、その賑やかな街の風景をTVで見た人も多いのでしょうか。ちなみにこちらの橋は大阪市中央区にあります。
コラム 我が国の呼び名は「にっぽん」? それとも「にほん」?
我が国の国名を冠していながら読み方が違う2つの橋では国名(=国号)は? というと、意外にもこちらには正式な読み方が定義されていないようです。「にっぽん」なのか「にほん」なのか?という国民の素朴な疑問は戦前から事あるごとに議論されてきたようですが、2009年(平成21年)に国による「いずれも広く通用しており、どちらか一方に統一する必要もないと考えている」との答弁をもって現在に至ります。
対外的にはJAPANで済んでしまいますし、確かに無理にどちらかに定義する必要はなさそうですが、ちょっと意外でした。ちなみにJAF(日本自動車連盟)はJAPAN AUTOMOBILE FEDERATION、(『にほん』じどうしゃれんめい)です。
実は福島県にもある日本橋。その呼び方は?
郡山市と本宮市の境を流れる五百川(ごひゃくがわ)に架かる日本橋。
福島県内、国道4号の郡山市と本宮市の市境にあるのが日本橋。こちらは「ひもとばし」と読みます。1960年代の開通時、郡山市と合併する前の日和田町の「日」と本宮町の「本」をとったものです。ちなみに国道4号の起点は東京の日本橋ですから同じ国道に2本の「日本橋」があることになります。
国道4号の起点、東京の日本橋から北上し235kmほど走ると、別の日本橋を通ることになります。
埼玉でも日本橋を発見!
ほかにも、埼玉県加須市にも日本橋が存在します。埼玉県道366号線が中川を渡る橋ですが橋名板などもなく、橋の名前はどこにも記載されてはいません。この地に1938年(昭和13年)に建設され、2012年まで使用された古い橋の親柱と高欄(手すり)の一部が、市内に「旧日本橋」として保存されています。こちらには漢字表記の「日本橋」の橋名板があるものの、ひらがな表記はなく読み方は不明です。
個性的なデザインをもつ旧日本橋の一部は加須市内に保存され、今でもその姿を見ることができる。
また、同じ埼玉県の行田市にも用水路にかかる短い「日本橋」が存在します。その長さは歩いて10歩くらいでしょうか。車で通ると橋とは気づかないような存在感の薄い橋ではありますが橋名板は漢字とひらがな表記があり、そこには「にっぽんばし」と書いてありました。
行田市内にある「日本橋」は「にっぽんばし」。この用水路を渡る短い日本橋は、車で通ると橋であることすら気付きにくい。
同じ漢字表記でも読み方が違う橋もあれば、逆に同じ読み方なのに漢字表記が違う地名がある日本語は、日本人でも難しいものです。それだけに外国の方には難解このうえないかもしれません。しかしながら、どこか無理に白黒はっきりさせないユルさは我が国の特徴のひとつであり、そんなところも実は魅力なのかもしれません。
全国に張り巡らされた道路の名前や地名にはもっともっと興味深いものが数多くありそうです。
高橋 学
たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。