日本と世界の道の雑学

デザインが意外と自由!? 「動物注意」の標識

高橋 学
2023.09.03

写真・文=高橋 学

2023.09.03

写真・文=高橋 学

1年点検を受けると、だれにでもチャンス

日本の道路は、北は北海道から南は沖縄まで主要な幹線道路から毛細血管のように張り巡らされた市町村道までを合わせると約123万km。物資を日本各地に届ける物流から、通勤・通学、そしてレジャーなどさまざまな分野で日々わたしたちの生活を支えています。日常生活はもちろん、出張や旅先で何気なく利用していた道路を通るのがちょっぴり楽しくなりそうなお話をお届けします。

今回のテーマは「動物注意標識」。道路標識は、法律で定められた細かい規定がありながら、デザインの自由度が高く地域によってさまざまな絵柄に出会える「動物注意標識」を紹介します。

「動物注意」の標識は、デザインに自由がきく珍しい存在

この標識は道路上の警戒すべきことや危険を知らせる「警戒標識」の一種で正式には「動物が飛び出すおそれあり」という名称です。動物が飛び出すおそれがある地点の手前30~200mの左側の路端に設置され、その色や形も細かく規定されています。……といってもそもそも相手は動物。飛び出す地点など特定できるわけではないのですが、過去に衝突事故があった現場だったり、地形的な要素だったりといろいろと考慮され設置されているそうです。

少々前置きが長くなりましたがまずはご覧ください。

動物注意の標識として一般的な、シカの標識

「動物注意」の標識としては一般的な、シカのイラストが入った標識。シカの角の違いなど、間違い探しのような細かい差異がある。

シカのイラストが描かれた左側の標識は、国が定める道路標識一覧に唯一掲載されている基本デザインです。それだけに見かける頻度も一番高いように思えます。ちなみに下にある白地に黒文字の補助標識は、「シカ注意」だったり「動物注意」だったりといろいろです。そういえば、筆者自身も運転中に動物に飛び出されてヒヤッとした経験は何度かありますが、思い起こせば相手はいつもシカでした。

右は基本デザインこそ同じものの角の形が違う北海道道16号線で見かけた標識。エゾシカらしいが再現されているところに北海道ならではのこだわりを感じます。

なぜかデフォルメされがちな、タヌキの標識

タヌキの標識

標識のモデルがタヌキになった途端、デフォルメされるのが特徴。

エゾシカへのこだわりを感じた道道16号線にはタヌキやキツネが描かれた標識も存在しますが、こちらはかわいらしいイラスト風(写真左)。シカの絵柄に見られた細部へのこだわりは何だったのかとちょっぴり不思議な感じもします。あまりにかわいらしいので警戒という意識も少々薄れますが、いずれにしてもこういう旅先での出会いはなかなか面白いものです。ちなみにタヌキの標識も遭遇率は高いのですが、よく見かけるのは右のタイプです。

サル注意の標識も珍しくはない

サルの標識も、レア度は高くない

サルがモデルの標識もそれほど珍しくはない。デザインもさまざま。

サルも道で出くわす動物としてはポピュラーな存在です。よく見かけるのは横向きでノソノソと歩いているような絵柄。左の写真のように縮小コピーしたものが追加された親子バージョンも存在します。確かにサルと遭遇するときは、子ザルや他の大人のサルが一緒に行動していて、単独で見かける機会は少ないような気がします。

ちなみに旅先の道路で猿に出会っても餌を与えてはいけません。これは猿と人間が上手く付き合っていくために大切なことで、条例等で禁止されているところも少なくありません。

「動物注意」の標識を見かけたら、速度を落として優しい運転を

北海道で見かけたキツネの標識

北海道で見かけたキツネの標識。土地柄、キタキツネがモチーフになっているようだ。

今回取り上げたシカ、タヌキ、サルの警戒標識「動物が飛び出すおそれあり」は比較的ポピュラーなものですが、日本全国にはその地域にしか見られないレアなデザインのものも多数存在します。そちらはまたの機会に。

「踏切あり」とか「信号機あり」のような他の警戒標識と違い、今回紹介してきた標識は相手が動物だけに運転中どう警戒すればいいのか少々わかりにくい面もあるでしょう。ただ、動物注意の道路標識が全国に設置されている背景には、人間が自らの利便性のために彼らの生活圏に道路を通してきたことも一因だと考えられます。それだけに衝突事故などの危険防止のほか、共存という観点からもこの標識を見たらいつもよりちょっぴりやさしい運転を心がけてみるのもいいかもしれません。

そう考えると、今回紹介したタヌキのように警戒標識でありながらかわいらしくデフォルメされた絵柄もアリですね。

高橋 学

たかはし・まなぶ 1966年北海道生まれ。下積み時代は毎日スタジオにこもり商品撮影のカメラアシスタントとして過ごすも、独立後はなぜか太陽の下でレーシングカーをはじめとするさまざまな自動車の撮影を中心に活動。ウェブ等でカメラマン目線での執筆も行いながら現在に至る。

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