雪が止んでいるのにまだ通行止め? 高速道路の安全を人命最優先で守る「予防的通行止め」とは
年末年始の帰省や、ウインタースポーツなどを目的としたクルマ移動が増える季節。しかし思わぬ交通規制や渋滞に、不便や疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。また近年では、「予防的通行止め」という聞き慣れない通行止めも実施されています。そこで本記事ではNEXCO東日本の木村友香さんに、冬期の交通規制の原因や、予防的通行止めとは何かをうかがいました。
木村友香 さん
NEXCO東日本 関東支社 管理事業部 管理事業統括課
平成31年入社、東北支社 仙台東管理事務所、新潟支社 広報課に配属ののち、令和5年8月から現在まで関東支社 管理事業統括課で、防災業務を担当している。
たった1台のスタックが、人命に関わる事態に
近年、集中的な大雪による大規模な車両滞留が話題になることがあります。例えば、令和2年12月に関越自動車道 月夜野IC~小出IC(現:魚沼IC)で発生した約2,100台の車両滞留は、通行再開に2日以上を要する事態となりました。
そもそも冬期は天候が不安定になりやすいので、都市部でも山間部でも雪氷によるトラブルや事故が多くなります。その原因に多いのが、出発地で雪が降っていないと「ノーマルタイヤでも大丈夫かな」と油断し、冬装備なしで出かけてしまうケースです。特に山間部は天候が急変するため、ちょっとした積雪でもタイヤを取られて動けなくなる状態、いわゆる「スタック」してしまうのです。
高速道路では1台でもスタックして車線が塞がれると、後続車両の追い越しができず、短時間で大規模な車両滞留につながる可能性があります。また、雪が降り続けば、タイヤが雪に埋もれて走行できなくなる車両が増加します。車両が滞留すると、除雪作業もままならなくなり、それにより車両滞留が長引けば、マフラーに雪が詰まって一酸化炭素中毒を引き起こす場合※1もあります。
つまり「たった1台のスタック」が、何百人・何千人規模の「人命に関わる大きな事態」に発展してしまう危険性があるのです※2。
そうした事態を防ぐために、NEXCO東日本ではこれまでにも、国土交通省の方針に則って雪氷対策に取り組んできました。しかし近年の大規模な車両滞留を受けて、「自ら管理する道路をできるだけ通行止めにしないこと」を目標に対応するというこれまでの考え方を大きく転換。「人命を最優先に、幹線道路上の大規模な車両滞留を徹底的に回避する」にシフトしました。そこで重視されているのが「予防的通行止め」です。
雪によるスリップ事故
「予防的通行止め」とは?その目的は?
「予防的通行止め」とは、大規模な車両滞留を防ぐために、実際に降雪があり、かつ今後も降雪予測がある場合に事前に通行止めを実施するものです。
しかし、単純に雪が降る区間だけに実施するわけではありません。特に首都圏は道路ネットワークが複雑に絡み合っているため、ある路線を通行止めにすることで別の路線に車両が集中し、交通マヒを引き起こす可能性があるからです。
そのため予防的通行止めの実施は、雪の降り方や気温といった天候の予測、路面の状況、隣接する国道の状況などを総合的に踏まえ、関係機関と協議を重ねたうえで判断されます。
予防的通行止めの目的は、大きく2つあります。1つは、大規模な車両滞留を未然に防ぐことで、人命を守ること。もう1つは、降り積もる雪を集中的に取り除くことによって、通行止めの早期解除を目指すことです。
高速道路で一度車両滞留が発生してしまうと、滞留車を排除するために多くの資機材や作業員が必要になるだけでなく、その解消までに数日かかってしまうこともあります。そのため、予防的に通行止めをして除雪することが、結果的に、早期解除につながるのです。
NEXCO東日本の木村友香さん
予防的通行止めに関する情報発信
警報級の大雪・暴風雪が予測されると、その地域の関係機関を含めて、予防的通行止めの実施を協議します。併せて、予防的通行止めが実施された際に速やかに除雪作業が行えるよう、必要な資機材・作業員を手配します。
また外部に向けて、NEXCO東日本ではホームページや公式SNSを通して次のような情報発信をしていきます。
【予防的通行止めに関する情報発信】
およそ3日前
気象予測の精度が高まった段階で、通行止めの可能性がある区間をホームページや公式SNSでお知らせします。
実施当日
ホームページや公式SNSにて、通行止めの可能性がある区間および、通行止め開始のおおよその時間帯などをお知らせします。
実施中
公式SNSを通して除雪状況などをリアルタイムで発信します。また、万が一車両滞留が発生した場合は、車両滞留の状況や支援物資の配布状況、トイレカーの位置情報などをお知らせします。
予防的通行止めに関する情報は天候に左右されるため、NEXCO東日本ホームページ内の『お知らせ』や各種SNSで最新情報をご確認ください。また、都県をまたぐような長距離ドライブをされる方は、NEXCO東日本・NEXCO中日本・NEXCO西日本・首都高における緊急性の高い情報を確認できる「高速道路影響情報サイト」もご活用ください。
- ※文末に「予防的通行止めに関する情報取得先」を掲載しています
NEXCO東日本 公式SNSで除雪状況をリアルタイムで発信
通行止めの早期解除に向けた「集中除雪」
予防的通行止めを実施する際は、通行止めの早期解除に向けて、「集中除雪」を行います。まずは2~3台の除雪車が隊列を組んで除雪作業を行い、車線上の雪を路肩に寄せます。次いで、トラクターショベルなどで路肩にたまった雪をすくい上げ、ダンプに雪を積み込むことで除雪していきます。
そのうえで、車道外側線を覆う雪や、ラバーポールなどの車線分離標の間にある雪といった、重機では取り除けなかった部分の残雪処理作業を人力で行います。路肩などに雪が残っていると、それが溶けだして凍結する恐れがあるため、気温の変化も見越して作業にあたります。すでに凍結している場合は、専用車両を使って路面の凍結を砕いたり、熱で溶かしたりして処理をします。
予防的通行止めの場合も、通行止め解除は、天候や路面のほか、隣接する道路の状況などを踏まえて段階的に行われますが、その判断にあたっては、交通管理者である警察と密接に連携し、合同巡回や協議を行います。「雪が降っていないのになぜ通行止めが解除されないのか」といったご意見をいただくこともありますが、高速道路は一般道と異なり自動車の高速走行を前提とした道路ですので、交通事故のリスクを最小化するために、車道外側線やラバーポール付近の除雪など、安全確保のために必要な作業を行っています。
除雪トラックの隊列走行(横断除雪)
車道外側線の人力除雪作業
最新情報の取得と、安全第一のドライブ計画を
繰り返しにはなりますが、たった1台のスタックが、何千人規模の人命に関わる事態に発展する可能性があることを心に留めていただきたいと思います。
大雪が予測される際は、安全を第一に、迂回ルートや日程変更などを含めて計画の見直しをご検討ください。どうしても外出が必要な場合は、最新の気象情報と高速道路情報をご確認のうえ、必ず冬用タイヤを装着しタイヤチェーンを携行してください。また、急発進、急ブレーキ、急ハンドルなどの「急」がつく運転を避け、安全なドライブをお願いいたします。
今後もNEXCO東日本では、「人命を最優先に、車両滞留を徹底的に回避する」ことを基本方針として、雪氷対策に取り組んでいきます。そのため大雪予測の際は、広範囲での予防的通行止めのほか、雪がおさまったあとも通行止めを継続する場合があります。皆さまにはご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。
【予防的通行止めに関する情報取得先】
<お出かけ前の事前情報取得>
◼️ウェブサイト
・NEXCO東日本ホームページ
・高速道路影響情報サイト
・高速道路の交通情報提供サービス『ドライブトラフィック(ドラとら)』
・全国の高速道路の便利な情報が満載のサイト『ドラぷら』
・日本道路交通情報センター(JARTIC)
◼️X(旧Twitter)
・NEXCO東日本(道路防災情報)公式X(旧Twitter)
災害発生時における通行止め情報(開始・解除)をリアルタイムに発信しています。
・NEXCO東日本(関東)公式X(旧Twitter)
お客さまへのお知らせ(広報情報、通行止め情報)を発信しています。
◼️LINE
・LINE公式アカウント「NEXCO東日本」 【ID】 @e-nexco
NEXCO東日本管内の通行止め状況などをお知らせしています。
<走行中に入手できる道路交通情報>
・ハイウェイラジオ【周波数】AM1620kHz
※放送している区間は高速道路上の標識によりご案内しています。
・ハイウェイ情報ターミナル
SA・PAに設置されているモニター画面にて広域の道路交通情報をお知らせしています。
・道路情報板