~ドライバーなら誰もが加入する自賠責保険。その“見えないチカラ”とは?~
認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net) 命を守るドクターヘリの普及と発展を目指す!すべての自動車やバイクに加入が義務づけられている「自賠責保険」。その主な役割は交通事故の被害者に対する損害賠償ですが、実はそれだけではありません。保険料をもとに得られる「運用益」は、被害者支援や自動車事故防止など、公益性の高い事業にも活用されています。
JAF Mate Onlineではその現場を全3話の特集で徹底取材し、第2話目の本記事ではドクターヘリの普及活動などを行う「認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク」にスポットを当て、自賠責保険の運用益がどのように社会に役立っているのかをご紹介します。
ドクターヘリの未来を築く、救急ヘリ病院ネットワークとは
認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net/ヘムネット)は、ドクターヘリによる救急医療の普及と発展を目指し、1999年12月に設立されました。交通事故や急病などの緊急時に迅速な治療と搬送を可能にする、ヘリコプターを活用した医療体制の整備を支援しています。
設立当初はドクターヘリの仕組み自体がほとんど知られておらず、導入には自治体の財政的負担も大きかったため、制度化が大きな課題でした。同法人の鷺坂理事長は「当時は国が実証実験を始めた段階で、ドクターヘリの知名度はゼロに近かった。そこで救急医学の専門家が中心となって立ち上げたのがHEM-Netです」と振り返ります。
その後、2007年に「ドクターヘリ特別措置法」が制定されました。2009年に国の交付金制度が整備されたことで、地方自治体の負担が軽減して配備が加速しました。テレビドラマ『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』のヒットや、2011年の東日本大震災での救助活動を通じて認知度も急上昇しました。
現在では全国47都道府県に57機が配備され、HEM-Netが掲げてきた「全国配備」の目標が達成(関西広域連合に属する京都府を含む)されました。
認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)理事長 鷺坂長美 氏
ドクターヘリの「質の向上」は、自賠責保険の運用益が原動力に!
ドクターヘリの活動や重要性を広く周知するため、HEM-Netでは広報誌『HEM-Netプラザ』(年4回発行)やシンポジウムを通じて積極的な情報発信を行っています。
昨年開催されたシンポジウムでは「大規模災害時のドクターヘリの活動」をテーマに、令和6年能登半島地震や東日本大震災での対応を振り返りながら「活動は適切だったのか?」「装備の拡充は必要か?」といった運用体制の課題について活発な議論が交わされました。
「石川県の医療関係者をはじめ、消防庁や厚生労働省など関係省庁からの参加もありました。全国の防災担当者にも注目されており、ドクターヘリの今後の活動方針に大きな影響を与える重要な場になっています」と鷺坂理事長はシンポジウムの意義を話します。
さらに、医師・看護師の研修支援、安全運航のための調査研究など、多角的な取り組みを通じて、ドクターヘリの「質の向上」にも力を注いでいます。これらの活動は自賠責保険の運用益拠出事業による支援によって実現されており、社会全体の安心・安全に貢献しています。
ドクターヘリ画像
命の現場に駆けつける“空の医療チーム”──ドクターヘリの実力とは?
ドクターヘリは、交通事故や急病などの緊急事態発生時に対応する医療専用ヘリコプターです。最大の特徴は「医師・看護師を速やかに現場へ届ける」こと。心停止した人の心臓を正常に戻す医療用除細動器や心電図モニターなど、機内には救命救急に必要な医療機器を完備しています。
時速200kmで現場へ直行し、救急車よりも早く初期治療を開始できるため、救命率の向上や後遺症の軽減に大きく貢献しています。実際に、交通事故による患者の平均入院日数は、ドクターヘリ利用時で21.3日、救急車では39.0日と大きな差があることが報告されており、医療費の負担軽減にもつながっています。
ただし、ドクターヘリを私たちが要請することはできません。119番通報を受けた消防本部の指令室が判断し、必要に応じてドクターヘリを配備している病院(以下、基地病院)に出動を要請する仕組みです。
2022年度の全国出動件数は2万9245件。日常では目にする機会が少ないものの、すでに重要な医療インフラとして定着しています。
ドクターヘリ内部の様子
交通事故の瞬間に出動を要請。D-Call Netとの連携で救命率を上げる!
HEM-Netはこれまで、全国47都道府県へのドクターヘリ配備など「量的な向上」をひとつの目標に活動してきました。今後は「質的な向上」に重点を置き、より迅速かつ的確な救命体制の構築を目指しています。その鍵となるのが先進技術との連携で、中でも注目されているのが交通事故発生時に自動でドクターヘリの出動を要請できる「D-Call Net(ディー・コール・ネット)」です。
D-Call Net搭載車両が事故を起こすと、衝突の方向や速度、衝撃の強さ、シートベルトの着用状況などのデータが即座に専用サーバーへ送信され、乗員の重症度が自動的に推定されます。必要と判断されれば、ドクターヘリの出動を要請。これにより「119番通報→救急車出動→現場到着→消防署から基地病院へ出動要請」といった従来のプロセスを大幅に短縮できます。
D-Call Netの開発・運用にはHEM-Netが中心的な役割を担っており、「今年度中には搭載車両が累計1000万台を超える」と鷺坂理事長は見込んでいます。テクノロジーと医療の融合によって、より多くの命を救う未来が着実に形になりつつあります。
ドクターヘリによる搬送の様子
災害対応と医療格差の是正。ドクターヘリが担う医療活動に期待!
ドクターヘリは、救急医療だけでなく、大規模災害時にも重要な役割を担います。多数の傷病者が発生する現場では、早急な治療と広域搬送が求められ、ヘリの機動力が大きな力になるからです。
また、山間部や離島など医療アクセスが限られる地域においても、都市部と同等の医療を受けることが可能になります。周産期医療や小児医療など、専門性が高くスピーディな対応が必要な分野でも、その活躍が期待されています。
「人口減少が進む地方では、大規模病院の統廃合などにより、地域医療が危機に瀕するケースがあります。ドクターヘリは救急医療にとどまらず、医療格差の是正にも貢献できる存在です」と鷺坂理事長。こうした背景を踏まえると、安全運航の確保を含めた質的な向上は、今後ますます重要なテーマとなるでしょう。
一方で、量的な課題も残っています。全国に配備されたとはいえ、機数が十分とはいえません。たとえば北海道には4機が配備されていますが、広大な道内全域をカバーするには限界があります。全国にはカバーされていない地域も存在するため、これからも継続的な導入と体制強化が求められます。
ドクターヘリは、“空飛ぶ救急室”として交通事故などの命に関わる現場で希望の光となっています。その使命を果たすためには、質・量の両面で常に前進しなければなりません。私たちの命と安心を守るドクターヘリの進化の一端は、自賠責保険の運用益拠出事業によって支えられているのです。
その活動により、たくさんの感謝状を受章している
次回の現場は、1月中旬公開予定「全日本交通安全協会」です。お楽しみに!
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