ロールしながら京都の町並みを走る、旧車シトロエン2CVのフロントスタイル
文=下野康史/撮影=荒川正幸

シトロエン・2CVのレンタカーに試乗。1940年代デビューのフランスの大衆車の走りは、現代でも通用するのか? #39

自動車ライター・下野康史の旧車レンタカー試乗記
下野康史

シトロエンが1949年に発売した、2CVの旧車レンタカーに試乗。“2馬力”(deux chevaux)の愛称を持ち、丸みを帯びたスタイルが持ち味。映画『007/ユア・アイズ・オンリー』や『ルパン三世 カリオストロの城』でも活躍し、生産終了から30年以上たってもファンが多いクルマです。
そんな2CVのレンタカーに、自動車ライターの下野康史さんが試乗します。

目次

フランスの歴史的大衆車をレンタカーで

シトロエン2CVのフロント斜め外観

京都市伏見区のアウトニーズでお借りした2CVの旧車レンタカーは1985年式で、車両重量は590kg
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ソフトトップを備えたシトロエン2CVの後ろ姿

ルーフは、ロールバック可能なキャンバストップを備えている
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京都府伏見区。広い通りを折れて、住宅街の急な坂道を上っていくと、“シトロエンの畑”みたいな光景が現れた。本当にかつて畑だった土地二面に、もう生産していないシトロエンがぎっしり止められている。好きな人には夢のような景色だ。クラシックシトロエンの専門店、“アウトニーズ”のバックヤードである。

本業は修理と販売だが、数年前から“2CV”のレンタカーを1台用意している。おそらく日本で唯一の2CVレンタカーだろう。

2CVが登場したのは、第二次大戦終了間もなくの1948年。生産終了からもすでに35年以上経つクルマを、なぜいまレンタカーに? 今回いちばん聞きたかった質問の答えは、要約すると「クラシックシトロエンの布教」である。

アウトニーズが最も得意とするのは、シトロエン独自の「ハイドロニューマチックサスペンション」を持つモデルだが、“ハイドロのシトロエン”は手がかかることで有名だ。

その点、2CVの足まわりはハイドロではない。エンジンも空冷の2気筒で、複雑なものではない。補修部品もまだ十分にあり、サードパーティーの部品を使えば、新車がつくれるほどだという。そんなわけだから、クラシックシトロエンのなかでは最もレンタカーに適している、というのがシトロエンスペシャリストの見立てである。

貸出しは実地試験のあと(!?)

シトロエン2CVのシンプルなダッシュボードとステアリング

大きな速度計と最低限のメーターやインジケーターからなる、シンプルかつ独特なインパネ周り
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布張りベンチシートを備えたシトロエン2CVの車内

シンプルなシートながら、座り心地は良好だ
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2CVはイチゲンさんだと運転できない。ダッシュボードから突き出す4段MTのシフト操作にコツがいるからだ。シフトノブを握って、ひねったり押したり引いたりする。難しくはないが、教わらないとわからない。そのため、貸出す時は、工場長の中川佳紀さんがまず運転して見本をみせる。それからお客さんにハンドルを渡して、やってもらう。合格のハンコがあるわけではないが、そういう手順を踏む。

筆者は90年代後半にファミリーカーとして所有していたこともあるので、実地試験免除でスタートする。85年に初度登録されたこのクルマは、西武自販が輸入販売した“ディーラーもの”。30年前、中古車屋で買った自分の2CVより程度がよかった。

はずみ車のようにドゥルーンと回る水平対向2気筒エンジンがなつかしい。602ccで最高出力は29PS。360㏄時代の日本の軽自動車クラスだが、シフトをサボらず、容赦なくエンジンを回してやれば、いまでも町なかで流れに遅れることはない。昔、3リッターV6のオペルでイタリアのコモ湖畔の狭いワインディングロードを走っていたら、白髪のおばあさんが運転する2CVにアオられたことがある。

古いクルマはブレーキが鬼門だが、その点でも不満はない。倍力装置は持たないが、踏めば踏むだけ利く。フェードにも強い。前輪はレーシングカー並みにインボードのディスクブレーキである。そういう才気走ったところがあるから、2CVはツボるのである。

車重590㎏。軽いが、走りにいやな意味での軽さはない。前後連関式と呼ばれる独創的な足まわりがその主因だ。ギューッと縮み、グーッと大きく伸びるサスペンションは、路面を問わず快適な乗り心地を提供し、コーナリングではどんなにロールしても路面を離さない粘りを見せる。

もともとこのクルマは、農業国フランスで農家の実用に耐える貨客両用車として企画された。乗り心地のよさは、収穫物を無事に運ぶための要件だったのだろう。

ブリキ細工を思わせるボディーは、屋根がソフトトップで、クルクル巻くと、後席までフルオープンになる。鉄パイプを骨にするシートは、前席も後席もボルトを緩めれば外せる。アップライトピアノやコントラバスを積んだ広告写真があったように記憶している。

空冷水平対向2気筒エンジンを搭載したシトロエン2CV

2CVの走りを支える空冷水平対向2気筒エンジン。最高出力はわずか29PSながら、街中を活発に走らせることもできる
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旧車レンタカーのあるべき姿

走行中のシトロエン2CVのリアビュー

大きくロールさせながらコーナーを通過する2CV。ルーフを開けて京都の古い町並みを走るのも得難い体験となる

まさかのレンタカーで2CVを久しぶりに味わうと、あらためてこのクルマは、クルマというよりも「2CVという乗り物」であることを確認した。イギリスのクラシックミニ、ドイツのVWビートル、イタリアのフィアット500など、同時代に活躍した欧州製大衆車のどれとも違う、超越した存在と言ってもいい。見た目も運転感覚も使い勝手も、超然としているのだ。

だからこそ、21世紀にレンタカーで経験できることは意味があると思う。この2CVレンタカーには、3年間で約100回の貸し出しがあったという。アニメや映画やCMで見た“変わったクルマ”に、いちど乗ってみたかったというお客さんが多いそうだ。

1日2万8000円(保険込み)と安くはないが、リピーターにはちょっとディスカウントする“信用割引”がある。旧車レンタカーのあるべき姿だろう。

貸出し中の故障は一度もないそうだが、日本の夏は暑過ぎるので、レンタルは休止。それ以外の季節でも、貸出しが立て込めば、当然、メインテナンス休暇が必要になる。お客さんの都合よりクルマの都合が優先されるのも、旧車レンタカーならではだ。

・シトロエン・2CVのスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3830×1480×1600mm
ホイールベース:2400mm
エンジン:空冷・水平対向2気筒OHV 602cc
エンジン最高出力:29PS(DIN)/5750rpm
エンジン最大トルク:4.0kgm (DIN)/3500rpm
トランスミッション:4速MT
サスペンション形式(前/後):リーディングアーム/トレーリングアーム
タイヤ:125R15

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シトロエン2CVの3面マルチカット。上段:緑の木々を背景に、道路を軽快に走行する水色のシトロエン2CVのサイドビュー。下段左:ダッシュボード中央から突き出た独特な形状のプッシュ・プル式シフトレバーのアップ。下段右:キャンバストップのルーフを後方へ巻き上げてオープン状態にした車体を上から見下ろした俯瞰カット

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下野康史

かばた・やすし 1955年、東京都生まれ。『カーグラフィック』など自動車専門誌の編集記者を経て、88年からフリーの自動車ライター。自動運転よりスポーツ自転車を好む。近著に『峠狩り 第二巻』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリより、ロードバイクが好き』(講談社文庫)など。

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